第41話 ファミレス会議① 翔真
コインランドリーで洗濯したズボンとパンツを回収した僕は、入口で待っていた我道竜子に連行され、そのまま彼女の行き付けのファミレスへと入店した。
「オラ、座れよ」
「は、はぃ」
通された四人テーブルのソファへと座り、自身の対面の席を顎で指す我道。おっかなビクビクとしながら、僕は促されるままに着席した。
「しっかし、学校サボって近辺を彷徨くとは、テメェも中々不良だな?」
「ははは〜、ども〜……」
「褒めてんじゃねぇよ。こう見えて私は生徒会の副会長だからな。不良生徒は厳罰に処さなきゃならねぇ……ま、心付け次第じゃあ、考えてやっても構わねぇけどな?」
腐ってるゥ――ッ!!
公然と賄賂を要求する副会長!!
アンタもサボって喧嘩してたじゃん!?
……怖くて何も言えないけどさァっ!
「じゃ、じゃあ、食事代は出しますよぉ……」
権力という横暴に負けた僕は、現実に目を逸らしながら我道竜子へと提案した。
「はぁ? ――出させて下さい、だろ!?」
眼光と声で威圧する我道。
ひぇぇ、理不尽過ぎるゥゥ――ッ!?
「だ、出させて下さい……」
「へへ……言ったな? よっし! 決まりだ!! そうとなったら、左端から右端まで、メニュー全っ部注文すっぜ! 楽しみだな〜♪」
「……は、ははは」
ヒィィ!? 満漢全席やめちくりィィ――!!
僕のお財布がァァァ――!!
止める間も無く光速で手元のタッチパネルを操作する我道竜子。財布の中身には余裕はあったが、こんな注文をされたら一気に金欠へと陥ってしまうだろう。
てか、食えんのかよ!?
僕の疑問は、数十分後に解消される……。
「………………」
「はぐはぐはぐ!! カー! 美味ぇぇ!!」
何て品の無い食い方なんだ……。
いや、注目すべきはソコでは無い。テーブルへと届く料理の山を、あっという間に平らげて行く我道。見た目綺麗系なあの肉体に、どうやって押し込んでいるのかは謎である。
因みに、僕は何も食べていない。
届いた皿に手を着けようとしたら、我道の奴が思いっ切り睨み付けてきたからだ。
「あのぅ……河原で倒れてた人達は……?」
「あぁ? 付近を警戒してたら、ナンパして来やがったクソ共だよ。"玉"を潰してやったから、今頃は女にでも性転換してんじゃねーか?」
笑いながら、洒落にならない事を話す我道。
「もう少しこう、何と言うか……手心を……」
「はァん!? んな甘い事言ってられっかよ! 私だったから良かったものの、他の女子生徒だったらホイホイ着いてって喰われてたぜ? ったく! 最近の馬鹿共は本当、度し難いぜ!!」
「でも……玉を潰されたら、男は下手をしたら死んじゃうんじゃ――?」
「はぁ!? マジぃ? 野郎ってのはそんなに弱いのかよ? だとしても、自己責任だから私は知らねー。弱肉強食って言うのは良い言葉だよな。私は真理だと思ってるぜ? 強い奴は生き、弱い奴は殺される。どんなに文明が進んだとしても、この仕組みだけは絶対に変わらねぇ!!」
……それって、どんな修羅の世界?
我道竜子の価値観は、僕には決して理解出来ないものだった。初心者がいるからこそ、コンテンツと言うのは続いて行くのだ。上級者だけのゲームなんて、オワコンも良い所だろう?
って、そう言う話でも無いのか?
「それよりも、テメェ――ちゃ〜んと調べて来たんだろうなぁ?」
「へ?」
調べるって何を? 言ってる事の意味が分からず、僕は目を点にしてしまう。
「前会った時に言っただろ? 一年の中で強い奴を教えろってなァ。まさかテメェ、忘れてたとか言わねぇよなぁ……?」
「は、ははは! ま、まさか〜〜?」
そんな会話もありましたねェェ――ッ!?
完全に忘れてましたァァァ――!!
――やばい、どうしよォォ!?
我道竜子は僕を見ながら、徐々に威圧を強めている!? きっと、失念していた事に気付いてるんだ! てか、調べるって確約したつもりはこっちには無いぞ!? 何と言う理不尽!! 目の前の女は僕を虐めて愉しんでやがるッ!!
思わず頭を抱えた、その時――
「……に! ……真なんて……じゃない!!」
「なら……で、……必死に……!」
「……れは……たがっ……!」
後ろ側の席から、何やら騒ぎ声が聞こえて来た。……痴話喧嘩だろうか? 此方の席からはどんな人間が騒いでいるのかは分からないが、随分と白熱している声が聞こえて来る。
「――オイ、聞いてんのか!?」
「ひゃい!? き、聞いてますゥー!!」
声を掛けられ、我に帰る。今は目の前の暴君をどうにかしてやり過ごす事に集中しよう。
「い、一年で強い奴、ですよね……?」
まず真っ先に思い浮かんだのは、1-Dの主力である相葉総司だ。シナリオ主人公という事もあって、成長率はバツグン。ただ、現時点では胸を張って強者とは言えないだろう。
……一度PTを組んだ手前、我道竜子に引き渡すのも気が引ける。実際、他ヒロインとの関係性さえ無ければ、相葉総司は良い奴だし、決して嫌いじゃ無いんだよね……。
しかし、だとすると誰がいる?
1-Dクラスで我道を納得させる様な生徒は誰も居ない。神崎も悪くは無いけれど、僕の良心が「止めておけ」と、叫んでいた。
となると――だ。
「……1年なら、良いんですよね?」
「お、心当たりがあんのか?」
「ええ……まぁ……」
未だこの世界で遭った事は無いけれど。ゲーム知識で言えば、かなりの強キャラが数人存在する。今は彼等の名前を出すしか無いだろう。
「オーホッホッホ!! 話は聞きましてよー!」
『……』
……何か、遠くの席で武者小路らしき声が聞こえて来たんだが――?
「オイ!!」
「は、はいぃ!!」
……気になりはするけれど、目の前の我道にせっつかれ、僕は話の続きをする事にした。
「で、では、一人目は1-A。級長を務める
「……流石にソイツは、私でも知っている。てか――"
「じゃあ――同じA組の
「ほう……! 忍者か、面白い……!!」
少し興味を惹かれたのか、我道は満足気に目をキラキラと光らせている。
良かった――と、息を吐いた時だ。
「失礼、もう少し声量を――」
どうやら、後ろの席で騒いでいた連中が他の客からクレームを入れられたみたいである。
公共の場所だし、これで少しは静かに――
「あ、相葉!? それに武者小路も!! ええい、この集まりは一体何だと言うのだ!?」
「卜部!? また面倒な事に……」
「オーホッホッホ!!」
静かに……ならない。
というか、むしろ悪化した。
相葉、卜部、武者小路ってまさか――
考えを巡らせていると、目の前にいる我道が不満気な顔を浮かべながら、手に持ったフォークの柄でガンガンとテーブルを叩いている。
やばい、催促されている――!?
僕は慌てて続きを話した。
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