第37話 アンチスレの賑わい
――SIDE:相葉総司――
四月の朝は眠気の朝だ。
入学式や入社式が重なる春は、環境の変化によって自律神経を乱しがちになると言う。だから、今日も今日とて俺が欠伸をするのは仕方がない。ウチの爺ちゃんは何かに付けて「弛んどる!」と、雷を落として来るんだが、この陽気では多少緩んでも仕方が無いだろう。
「おはよ、総司君」
「歌音と紅羽か――あぁ、おはよう」
「貴方、随分眠そうね?」
「んん? まぁ、昨日の疲れが残ってるのかも」
「総司君がこの時間帯に歩いていると、何だか私達まで遅刻した気分になっちゃうね?」
「おーい? そりゃ無いだろう」
「遅刻常習犯は自覚した方が良いわよ?」
「はいはい、すいませんでした……っと」
やれやれ。女二人には勝てないな。俺は早々に諦め、謝る事を選択した。
「……何か、本当に疲れてる?」
「ん。あぁ――いや、大丈夫。心配掛けた?」
「心配はしてないわ。でも、男だからって、強がらなくても良いわよ?」
「そんなつもりじゃ――」
「似た様に強がってた奴。私、知ってるから」
「……ふむ」
この口振り――翔真の事か。
紅羽は口じゃあ「興味ない」だとか「嫌い」だとか言うけれど、本当は何時も石瑠翔真を気にしている。お互い、もう少し素直になれば良いのにと、お節介ながら思ってしまう。
「――そう言えば、昨日の探索の話。詳しくはしてなかったよな? 昼休みにでも、歩を交えて二人に話すよ」
これで、少しは翔真への態度を軟化させてくれると良いんだけどな――?
アイツは、口先だけの男じゃない。
一緒に探索してみて、俺にはソレがハッキリと分かったんだ。可能なら二人にも仲良くして欲しい。――だってさ、平和を願うのは悪い事じゃないだろう? 通学路を三人で歩きながら、俺はそんな事を考える。
◆
一般教科の四時限目が終わり、昼休みの鐘が鳴る。生徒達は持ち寄った弁当を広げたり、教室を出て食堂へと向かったりと、それぞれの過ごし方をしているみたいだ。かく言う俺は、自分の席に座りながら、仲間達がやって来るのを待っていた。
「――総司!」
「ああ、歩は今日も弁当か。自炊が出来る奴は良いよなぁ。俺なんか今日も購買で――」
「そんな事を言ってる場合じゃない! お前、今日のSNSは確認したか!?」
「あ……? いや――」
「まだなら、すぐに確認しろ!」
「わ、分かった!」
歩に急かされながら、俺は自身の
「何かあったの?」
「さぁ? 歩が何か見付けたみたいだけど……」
珍しい様子の歩を見て、歌音は隣にいた紅羽へと理由を訊ねる。最も紅羽自身も何も分からないので、言われた通りに
「うわ、相変わらずだな……」
校内のSNS掲示板を立ち上げると、大量のスレッドツリーが表示されるのだが、上位に来ているものの殆どは翔真関連で埋め尽くされている。一度開いた事はあるけれど、真偽不明な情報が色々と飛び交っており、傍目からも治安が悪かったので、すぐに閉じて忘れてしまった。
……今はこんな事になっているのか。
「見て欲しいのは、その一番上だ」
「……これは――」
『【悲報】石瑠翔真さん、同級生捜索の邪魔をした上、帰還した時は真ん中に立ってしまう』
最上段に表示されたスレッドタイトルを読むと、俺は思わず絶句した。
恐る恐る中身を開くと、そこでは磯野達を連れて帰って来た際の一場面が大々的に切り抜かれていた。
真ん中に立つ翔真って言うのは、コレの事か……画像を見てみると、まぁ確かに叩かれそうな構図ではある。
怪我人を担ぐ俺達とは別に、一人だけ手ぶら。しかも、勝利の笑みを浮かべているのが見る人によっては気に食わないのかも知れない。
俺は、スレッド内をざっと読み進める。
[1:noname:2025/04/12(水)]
邪魔過ぎワロタwwwww
http://ac.t.xxx.image.com/114514.jpg
[2:noname:2025/04/12(水)]
お前は主人公じゃない
[3:noname:2025/04/12(水)]
翔真のマダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
[4:noname:2025/04/12(水)]
クソスレ保守
[5:noname:2025/04/12(水)]
経緯よろ
[6:noname:2025/04/12(水)]
高等部1年のD組がABYSS初探索
戻って来ないPT現る
クソ翔真、空気を読まずに救助に立候補
足を引っ張った挙句に手ぶらで帰還
センター立ちを激写される
[7:noname:2025/04/12(水)]
ゴミじゃん
[8:noname:2025/04/12(水)]
ABYSS初探索でwwwww
遭難とかwwwww
[9:noname:2025/04/12(水)]
セクハラ三昧翔真君、今日も今日とて女子生徒達を視姦中!! この汚物を許すな!!
http://ac.t.xxx.image.com/1818967.jpg
「うわ……っ」
「ほんっと、最低……」
同じスレッドを開いたのだろう。内容の酷さに、思わず引き気味になる歌音と紅羽。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
これでは余りにも翔真の奴が報われない。俺は二人の誤解を解く為に、言葉を重ねた。
「翔真は自分の仕事はちゃんとやっていた! 此処まで非難される謂れはないぞ!?」
「そ、そうなの……?」
「……確かに、道中の魔物は俺や総司に任せっきりにしていたがな……」
「あ、歩!?」
「やっぱり――!」
スレッド内の記述を肯定するかの様な言動に、紅羽の誤解は更に深まる。けれど、歩の話には続きがあった。
「だが――石瑠が居なければ、先日の救助は失敗していただろう。俺も総司も、下手をしたら命を落としていたかも知れん……奴は、それくらい重要な仕事を果たしたのだ」
「重要って……あの、翔真が……?」
「一体、何があったの?」
「実は――」
訊ねる歌音に頷きながら、俺は昨日あった出来事を二人へと説明して行く。因みに、磯野の件は歌音達には言わないつもりだ。聞かせてどうこう出来る問題でも無いし、この件に関しては、翔真に任せた方が確実だと思ったからだ。
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