第34話 今度こそ、本当の帰還
ゴーレムとの戦闘……より、磯野との会話の方が、僕としては難敵だった。自身の"石瑠翔真"の演技は時が経つ程に磨きが増している。本来だったら絶対に喋れない様な内容でも"翔真"なら言えるから、僕自身も気分が良い。――最も、ベースがクズだから意図せずに相手を傷付けてしまう場合があるのは考え物だ。
「な!? 貴方達は――!?」
「あ……! ど、どうも……」
転移した目の前には、教師・影山と救助隊の姿があった。今から出発という所だったのだろう。PTを代表して、相葉総司が気不味そうに頭を下げる。
「三人共、何故此処に? 連れて来ているのは磯野君達と逸れた林君ですね?」
「えーっと、まぁ……はい」
「――」
背後には息も絶え絶えな磯野浩介と、杉山春男。林勝が一緒に来ていた。気絶した葛西は相葉が背負い、残った新発田は神崎が抱えている。……僕自身は、フリーである。
一瞬、呆気に取られた影山だったが、すぐに状況を理解して、救助隊の方へと救急の指示を願い出る。散開する彼等を見送りながら、影山は呆れた様な顔で手持ち無沙汰の僕等を見た。
「……発案者は誰ですか?」
「はい、俺です」
「無事に帰って来られたから良かったものの、一歩間違えれば二次遭難になっていました。相葉君。貴方が優秀なのは理解していますが、己の力量を過信し過ぎるのは頂けませんね?」
「はい、すいません……」
「反省しているのなら良いでしょう。心配していた生徒達にも、無事を報告してあげなさい」
「え?」
影山が顎で指したその場所には、僕等の帰還を待っていた生徒達の姿があった。
「総司君! 歩君!」
「――歌音、紅羽!」
「馬鹿、遅い!! 心配してたのよ!?」
「こっちも色々あってさ……な?」
「……俺に振るな」
真っ先に駆け付けたのは相葉PTの女子組、東雲歌音と鳳紅羽だ。相変わらず、僕への心配は無しか。……ま、別に良いけど!!
「林君、大丈夫だった!? ごめんね、私達……先に帰っちゃってて……!!」
「……べ、別にっ」
「無茶は……しない方が、良い……」
「制服、ボロボロだよ!? すぐに担架が来るから、それまではじっとしててっ!」
「……っ」
次に来たのは三本松達だ。林の身を心配する三本松陽毬と森谷忍。寡黙な木之本詩織にまで心配されて、林の奴は何も言えなくなってしまう。怪我の大半は杉山との喧嘩で着いたものなのだが、そんな事は格好悪くて言えないよね。
「随分な格好だな、磯野」
「……何が言いてぇんだ、クソ眼鏡?」
「リーダーであるお前の過失は大きいぞ。仲間である新発田達を傷付け、相葉達にも面倒を掛けた……探索者を目指すなら、今後はもっと、その傲慢な態度を改めるべきじゃないのか?」
「何処ぞの説法か? ……うぜぇ、消えろ」
「貴様ぁ、まだ分から――!」
「おーとっとっと! 止まれ止まれ卜部!」
「卜部君、磯野君は怪我をしているんだから、喧嘩なんてしちゃ駄目よ〜?」
「……卜部の言いたい事は分かるよ? けど、今は時と場所を考えな」
「……っ、分かった……!」
芳川・瀬川・高遠の説得もあり、磯野浩介へと食って掛かっていた、卜部正弦は大人しくなっていた。磯野の奴は本来なら此処で憎まれ口の一つや二つを叩く所なのだろうが、ABYSS内で僕がコテンパンにしてやったから、怪我の調子も相俟って、物静かな様子である。
「!」
「あ……っ」
パシャリと言ったシャッター音に目を向けると、其処にはカメラを構えた宇津巳早希が立っていた。僕と目が合うや、気不味そうにして紅羽の方へと走り去ってしまう。
一体何だったのだろう?
疑問を感じていると、僕等の前に救急隊の担架が到着した。転送区の入り口には救急車が乗り付けてあるし、一旦、磯野達を外の病院へと移送するのかも知れない。
どうせ治療するなら、学習区の保健室の方が早いんだけどな――あっちなら、ABYSSの資源で調合した回復薬が使えるのである。
まぁ、その分の保険適用は無いけどね。
探索者にとって、マイレージ・ポイントは重要だ。可能ならば外のお金を使った方が経済的なのかも知れない。
ABYSS第2階層。
所持金10,000MP
初探索の収支は+5,000MP。
装備に10,000MPを費やしたから、現在の所持金はそのまま5,000MPだ。
三時間の成果と考えれば、時給換算にしても悪くは無い。装備をオシャカにした連中は、此処から更に差っ引かれるから、頑丈な鉄製武器が如何に重要かは分かっただろう。
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