第32話 ゴーレム戦②
ゴーレムへと猛然と剣を振るっていく神崎。背中は任せると言う言葉通り、奴は一人でゴーレムの足を止めさせていた。
俊敏な動きでゴーレムを翻弄する神崎とは別に、相葉の奴は攻撃を引き付ける為、時折足を止めながらゴーレムの拳を誘引していた。鉄の剣でもって岩の拳を受け流す相葉。拳の大きさは人の胴体程度。擦過するだけでもダメージを負う。相葉の奴は傍目からも上手く攻撃を処理していた。
格上相手の戦闘は、二人の"バトルセンス"を急速に上昇させていた。総合力には表れない、正しい"戦闘経験"という奴だろうな。
僕としては――やり易い限りだね。
足を止めたゴーレムを見据え、僕は半身となって、飛び出す瞬間を今か今かと待ち受ける。翔真の肉体では、ゴーレムの一撃には耐えられない。【タンク】の相葉は良くやってくれているが、ヘイト管理スキルを持っていない以上、距離が近い者程ゴーレムのターゲッティングに晒される……慎重になる必要があったのだ。
ゴーレムのモーションは覚えている。両腕から繰り出す連続攻撃。腰を落としてからの旋回攻撃。右腕を振りかぶった強攻撃。
隙が大きいのは強攻撃後の硬直だが、右手には新発田愛里が掴まれている。ただでさえ玩具の様に身体を振り回され、危険な状態だと言うのに、右手で強攻撃なんて繰り出された日には、頭がペシャンコになってしまうだろう。
グロ表現に耐性がある訳でも無いし、そんな光景は御免被ろう。
僕が狙うのはただ一つ――強攻撃に移る前の準備モーションだ。上体を後ろに逸らしたのを合図として、ゴーレムの懐へと飛び込んでやる。注意しなければいけないのは、カウンターだろう。入るタイミングを見誤れば、僕は疎か、新発田の奴もジ・エンドだ。
「――スゥ」
呼吸を整え、タイミングを待つ――。
この世界はレガシオンであって、レガシオンじゃない。本当に命が懸かった世界――
なのに何故だろう?
僕の鼓動は落ち着いていた。
この状況に未だ現実味を感じていない所為だろうか? ――覚悟はした。この世界を真面目に生き抜く覚悟はした。……けれど、それとは別に他人事の様な自分も存在する。まるでこの肉体が自身の操作キャラの様に、画面の向こうでは"僕"自身を操る"僕"がいるんじゃないかと、変な想像をしてしまうのだ。
葛藤は――ある。
けれど肉体は、電撃の様に動いていた。
「――」
「――翔真!!」
飛び出した僕を見て、相葉が何かを叫んでいたが、一才合切、斬り捨てる。【タンク】である相葉を通り抜け【アタッカー】である神崎よりも前に出た僕は、ゴーレムのターゲッティングに晒されていた。
改めて向かい合うその巨軀は威容。全長3mはあるのかな? このままじゃ"届かない"から、僕はゴーレムの膝を足場に蹴って、奴の眼前へと踊り出た。僕自身の影が降りた時、右手に持つ
「火神・両断剣――ッ!!」
背後では神崎の奴がコマンド・スキルを繰り出していた。燃え盛る剣の居合切りによりゴーレムの右腕が切断される。落下する新発田を庇ったのは相葉だ。救出は無事済んだらしい。
良い連携だ。
僕が"成功"した以上、保険の必要は無かったんだけど、それでも彼等には称賛を送りたい。ほぼ初期レベルのまま、良くやってくれたよ。
「な、何やってんだ、翔真!?」
「失敗か!? 反撃が来る……離れろッ!!」
ゴーレムの前で棒立ちをする僕は、相葉達からは自殺志願者の様にも見えたのだろう。"翔真"の仮面を被りつつ、僕は彼等へと振り返る。
「――はぁ? 誰が失敗したって? 勘違いも甚だしいね。敵の様子を良〜く見てみなよ?」
「……え?」
「……動いて、いない?」
驚いた様子の相葉達。どうやら、ゴーレムの弱点を彼等は知らないらしい。
レガシオン特有……でも無いな。
これは古典的なものだ。吸血鬼に十字架や日光が効く様に、ゴーレムの弱点と言うのは額に刻まれた"
「ゴーレムって言うのは生命じゃない。ABYSSの被造物として出現する魔物さ。その弱点は額に刻まれた文字でね。コイツの"
「じゃ、じゃぁ――」
「勝ったのか、俺達は……?」
「――ココが違うんだよ、ココがね?」
トントンと、自身の米神を指先で叩いて見せる僕。意味が通じたのか、顔を綻ばせた相葉は、その場で膝を突きながら勝利の雄叫びを上げていた。……神崎の奴も、澄ましているが、にやけ面は隠せていない。
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