第31話 ゴーレム戦①
三本松達と合流した僕達は、傷付いた彼女達を【緊急脱出】で見送った。
残るはリンショウ君と、"磯野PT"か。前者ならまだしも、後者は余り会いたくないなと内心で思わず愚痴ってしまう。1-Dに所属するクズキャラは僕含めてそこそこいるんだけど、中でも性格が終わってるのが、この"磯野PT"だ。
リーダーの磯野浩介は言うに及ばず、仲間である新発田愛里や葛西克己なんかも相当ヤバい。確か、中学ではイジメで不登校にさせた生徒とかも数多くいるんじゃなかったっけ?
何でそんな奴等がアカデミーにって思われるかも知れないけど、其処には一応説明がある。
実はアカデミーの入学なんだけど、一部の生徒を除いて、完全なランダム選出なのよね。あぁ、勿論"転移適正"を持ってる人間に限るけど。シナリオ設定によると、翔真みたいな武家とかそれに連なる血筋の者は成績順で正しく選考されるんだけど、完全な一般枠? つまりは平民の方々は能力値よりも"運"を重視してるみたい。
幼い頃から訓練を積んでいる武家とは違い、平民っていうのは能力が低いからね。実際は違ってたりしても、アカデミーの上の方。つまりは日本政府。それ等を牛耳る朝廷は、そういう風な認識をしているのだ。
平民の中で能力の
ま、つまりは籤引きだよね。
磯野や新発田、葛西なんかは当人にとっては運が良く――ある者にとっては、運悪く――このアカデミーへと入学したのだ。
アイツ等のPTが戻ってないと聞いて、僕は事故よりも確信犯を予想した。リーダーである磯野は生徒番号8番と総合力が馬鹿高い。卜部には負けるが、武者小路には勝つレベルだ。そんなアイツが第2階層で梃子摺る筈が無いのである。
……そうなると困るのが、奴が帰還を渋った時だ。野心家な磯野は総合力上位の相葉と神崎を嫌っている。
最悪、戦闘になるかもな……?
僕が思った、その時だ。
――ドゴンッ!! という、何かの破砕音が遠くの通路から聞こえて来た。同時に足元には微細な振動が伝わって来る。何か、重量のある物が落下したかの様な感覚だ。
「……魔物か?」
「……分からない。ゴブリンやスライムが、あんな音を出すかな?」
「ABYSSのトラップかも知れんぞ」
「はぁ? 第2階層でトラップなんて出る訳無いじゃん。あったら初心者、皆死んでるよ〜?」
「なら、何だって言うんだよ?」
相葉が僕へと訪ねてくる。
可能性があるとしたら、それは――
「うわぁぁぁぁぁぁ――ッ!?」
『!!』
音のした方角から、男子生徒の叫び声が響いた。あの声は多分――リンショウ君だ。
「行くぞッ!!」
駆け出した二人を追う様に、僕は通路を走っていく。敏捷値の差だろうか? 二人の足は、僕よりも断然速かった。
置いてかれるよぉ〜ッ!!
待ってェェ――ッ!?
必死に彼等の後を追う僕。その距離は既に100mは離されていた……。
相葉達の背中が完全に見えなくなった頃、突き当たりの小部屋へと息を切らしながら辿り着いたその時だ――目の前に、きったねぇブリーフが豪速球で飛んで来た!!
「うギャァァァ――ッ!!」
空を駆けるブリーフ!?
いやしかし! この重量は遺憾とも……!!
そのままぐぎゅ、と潰される僕。顔の上ではデケェケツが僕の目の前に鎮座していた。
「大丈夫か、翔真!?」
「大丈夫な訳ないだろォォ――ッ!? 退けこのパンツァァァァ――ッ!!」
「ひ、ひぃぃん!」
見れば、飛んで来たのは杉山春男じゃないか!? 何だってコイツはズボンを降ろして遊んでやがんだ!? ABYSSを満喫し過ぎだろ!?
「でもって、コレは――」
「チッ、石瑠もこっち来たのかよッ!?」
「気を付けろ、見た事の無い相手だ……!」
場は結構な混沌具合である。小部屋に居たのは磯野PTとwithリンショウ。入口近くには僕と杉山が。角の方では林勝が膝を抱えて怯えている。部屋の中央に立っているのが、相葉の言う新種の魔物だろう。岩石のボディに輝く眼。二足歩行で襲い掛かる巨人は、僕のよく知るレガシオンの"ゴーレム"だった。
「誰か……っ、たす……!」
「――チィッ!」
ゴーレムの右手が、新発田の首を絞めている。敵はあの女を人質にしているのだろうか? 攻めあぐねる磯野と神崎。葛西の奴は――あ、駄目だ。既に戦闘不能。気絶してやがる……。
動ける【アタッカー】は磯野と神崎の二人か。総合力は悪く無いが、如何せん武器が貧弱過ぎる。初期装備の木製武器じゃ、ゴーレムの装甲は崩せないだろう。
「離れろ、歩! ――ぐっ!!」
「総司!!」
かと言って、相葉の片手剣を神崎に渡すのは無しだ。ゴーレムの攻撃は、あの剣の耐久力で防いでいる。【タンク】である相葉が落ちれば、すぐさまこの即席PTは壊滅するだろう。
「……そもそも、こんな場所で遭遇する敵じゃないんだけどね……」
高威力・高耐久を備えたゴーレムは、ゲームでは第5階層から出現する敵である。装備が整っていない今、初心者探索者が勝てる相手では決してない。
――逃げるか?
幸い、ゴーレムは足が遅い。
此処から撤退を指示すれば、少なくとも全滅の憂き目は消えるだろう。
……その場合、葛西と新発田は諦める感じになるかな? リンショウ君も場所が悪い。声を掛けて動かなければ置いて行くしかないだろう。
「……」
――ま、しないけど。
僕は腰の
「相葉はそのままヘイトを取って! 神崎と磯野は両サイドからチクチク攻撃!! 敵が腰を降ろしたら腕ぶん回しの旋回攻撃が来るぞ! 間合いを取りつつ、敵を釘付けにするんだ!!」
「……っ、誰がテメェの言う事なんか……!」
「磯野、右!」
「――ホグッ!? ぐぐぅ……っ」
馬鹿が。油断しやがった。
腹部に突き刺さるゴーレムの一撃。
あれじゃあ、磯野は立てないだろう。
「……神崎、一人で大丈夫かい?」
「……っ! 策があるなら早く言え! 此方も長くは持たないぞ……っ!!」
珍しく
「ゴーレムの動きが単調になったのを見計らい、僕がコイツで止めを刺す。神崎はその隙に【火神・両断剣】で新発田の奴を救うんだ」
「
「僕は石瑠家の次期当主だよぉ? 君達と違って、失敗なんてしたりしないさ〜?」
「……」
途端に、不安そうな顔を見せる神崎。
いや……分かる。分かるけどさぁ?
今僕、翔真なんだもん。
こう言うしか無いじゃん?
「――ぐぉっ!!」
「総司!?」
PTの【タンク】としてゴーレムの攻撃を受けていた相葉が、パンチを逸らしきれずに肩口に一撃を貰う。普通なら磯野みたいに瀕死になってしまう所だが――流石は相葉。頑丈だ。まだまだ戦えそうである。
「歩、翔真を信じるんだ……!」
「なっ!?」
言いながら、相葉は再びゴーレムの攻撃を捌いて行く。装備しているのが鉄の剣じゃなかったら、今頃は三回は死んでいたと思う。
「上手く言えないんだが、翔真には数値以上の力があると感じている……! 今は、俺の直感を信じてくれ! 頼む……!!」
「総司……」
相葉総司……良い奴過ぎる。仮に僕がプレイヤーのアバターで此処に居たとして、石瑠翔真なんて絶対に信じないからな。聖人か? と、思わず疑ってしまうレベルである。
「火神・両断剣だったな……石瑠!!」
「――ッ!」
「……背中は預けたぞ? 我が剣の冴え、とくと照覧するが良い!!」
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