第18話 呼び方変えよっか?
――SIDE:鳳紅羽――
「……ごめん皆。私の所為で不愉快にさせた」
「鳳の所為ではないだろう? 一方的に此方を敵視していたのは、
「ううん。それでもアイツとのいざこざに巻き込んだのは私だから――」
「くれ、――鳳は、石瑠の事が好きなのか?」
「え?」
「良く気にしてると思ったからさ」
「……」
気にしてる、か。
分かる人には分かるんだ。
でも――
「別に好きじゃないわ。私とアイツは幼馴染だから、目の前で死なれるのは寝覚めが悪いの。ただ――それだけ」
「……複雑、なんだな」
相葉君が頷いてみせる。
「――ね! 呼び方変えよっか?」
『へ?』
会話の合間を縫う様にして、東雲さんが私達にそんな提案をして来たわ。暗くなった空気を変えようしてくれているのかも? けど、いきなり呼び方と言われても困ってしまうわ。
コミュニケーションが苦手な私と神崎君は揃って渋い顔を浮かべるものの、東雲さんはそれを一切気にしない強引さで話を続けて行く。
「皆、名前呼びにしようよ! 苗字は駄目! そうした方が団結力も生まれると思わない?」
「あー、じゃあ……歌音とか?」
一早く東雲さんの提案に乗ったのは相葉君だった。彼の性格上、こういったノリを拒まないのは充分に予想出来ていた。
「そうそう! 私も総司君って呼ぶね! 神崎君は歩君! それで良い?」
「好きにしろ……」
「紅羽ちゃんも、ほら!」
「え、えーっと……」
促され、私は照れを隠す様に頬を掻く。
「歌音に総司に、歩? ――これで、良い?」
「うん! バッチリOK!」
どうやら、満足してくれた様ね。
何だか、ドッと疲れたわ。
「一体どうしたのよ、歌音?」
「だって、石瑠君だけ紅羽ちゃんが呼び捨てなの、何だかズルいって思ったんだもん!」
「あー、成程」
つまり、コレも全部翔真の所為って訳ね?
本当、碌な事をしない男だわ。
「しっかし、石瑠の件は残念だったなぁ」
「あー、そこ掘り返す?」
「いやだってさぁ、生徒会長の事とか、色々聞きたかっただろう? あの天樹院と――だなんて、俺には正直、信じられないよ……」
「総司君は、天樹院会長の事を知ってたの?」
「……一応、顔見知り。最も、向こうは俺の事なんて気にも止めちゃいないけど」
頭を掻きながら、軽く笑う総司。
「……三角関係という奴か?」
「うげっ! 妙な事を言うなよ、歩!?」
「でも、総司君にもそんな態度を取っている会長さんが、石瑠君に目を付けたのは意外だね? もしかして、何か接点があったりとか?」
考え込む三人は、次に翔真と関わりが深い私へと、こぞって顔を向けて来た。
「い、いや……そんな目で見られても知らないわよ! 私だって驚いてるんだから!?」
あの動画は私も見た。
多分、全校生徒が見たんじゃない?
天樹院会長と、翔真のキスシーン。
片方の顔が超絶良いから誤魔化されているけれど、良く見たら翔真の方は白目を剥いて倒れている。本人だって予想外の事だった筈よ。
「単に会長の好みだったっていうだけじゃないの? 今まで交流があったとか、そういう素振りは無かったけれど?」
「そっかー……」
「じゃあ、完全に会長の一目惚れって事? それはそれで何だかロマンチックだね!」
「完全に楽しんでるな、東雲」
「歌音だよ、歩君?」
「……自由時間とは言え、時間は有限だ。そろそろ売店の方へと向かおう」
スタスタと売店の方に行ってしまう歩君。残された歌音は「手強いなぁ」と、肩を竦めた。
「歩の奴は人見知りが激しいから、いきなり距離を縮めるのは難しいぞ?」
「そうなんだ? 総司君は歩君のこと、良く知ってるよね? 前の学校が一緒だったの?」
「同じ剣術道場の門下生だったんだよ。そこで根気強く話し掛けてたら、少しづつ会話をしてくれるようになったんだ」
「薄々分かってたけど、アンタってコミュ強よね……? 普通、相手に話す気が無かったなら諦めない? その根気の方に驚くわ」
「そうか? 普通だと思うけどなー」
言いながら、私達は歩君を追い掛ける。
大きなホールとなっている転送区の隅には、探索区より出張して来た武器屋、防具屋、アイテム屋の屋台がそこかしこに並んでいた。
歩君が足を止めているのは、様々な刀剣、弓矢が並んだ【虎猫屋】という看板の武具屋の前であった。店の前では売り子をする上級生がセールストークを弾ませている。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 大手武具屋の虎猫屋! 出張所は御安く武器を取り揃えてますにゃ! 初探索の御供に一つ! 初心者向けの武器はいかがですかにゃ〜〜!?」
制服の上に広袖を羽織り、ハリセンを叩く彼女は、一体いつの時代の商人なのだろう?
虎猫屋という名前の通り、売り子の先輩も何処か猫っぽい。前髪短めな茶髪のショートカット。目を線の様に細めながら、彼女は目の前にいる男子生徒へと営業を仕掛けていた。
ていうか、アレって――翔真!?
「この剣、貰うよ」
「はいはい。
「いや、大丈夫だ。――これで良い」
「それなら、お代は8,000MPになりますにゃ」
――高っ!!
いや、実際は8000円で
現に、他の皆も同じ感想らしい。売買を後ろで観察していた総司が、私達へと顔を寄せる。
「歩が店の前で立ち止まってるから、何かと思ったけど――石瑠の奴、随分と高い買い物をしているな?」
「予算配分が出来て無いのでは? アレでは防具やアイテムに回す分が無くなってしまう」
「うーん……誰か、教えてあげた方が良いのかも知れないね」
悩む三人。彼等は優しいけれど、翔真の奴は私達を敵対視してるんだ。忠告してやる義理なんて無いわ。
私が思った、その時――総司は周囲が止める間もなく、翔真の方へと近付いて行く。
「なぁ、そんなに高い武器を買ってどうするんだ? 初心者は木製武器がオススメって言われてただろう?」
翔真へと話し掛ける総司。対するアイツは、銀のチェーンを腰に巻き、剣帯としての具合を確認している様子である。
「安い武器に命を預けられるなら、好きにしたら良いんじゃない? 序盤で必要なのは攻撃力。敵を一撃で屠る事が出来たなら、防具も回復も必要ないでしょ? むしろ嵩張る分、邪魔なだけ。端末機能の"次元収納"だって、初めはそんなに物が入らないんだよ? 回収する資源のスペースに無駄な物を入れてる余裕は無いでしょ?」
『――』
顔を上げずに、翔真は淡々と質問に答えていく。思ったよりも真面な回答――どころか、目から鱗の情報に、私達は思わず目と目を合わせて驚いてしまう。
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