第17話 ボッチ宣言


 影山の説明が終わると、今度は生徒同士の自由な編成タイムが設けられた。


 つまり――地獄という訳だ。

 四人編成フォーマンセル……?


 生徒数が25人という事は、25÷4で六組か。この計算だと確実に一人溢れる事になるんですけれど、これは偶然なんでしょうかねェッ!?


 周囲では先にPT編成を決めた生徒達が、楽しそうに雑談なんかをしちゃってた。


 完全に空気扱いである。

 仕方がないから、僕は文鎮の様に佇んだ。



「全員、PT編成は決まりましたか?」



 影山の残酷な問いに、僕は存在感を消して押し黙る。元々ソロで行くつもりだったけど、この場で一人なのは晒し者以外の何者でもない。



「……あの、先生。翔真が一人です……」


「え?」



 ちょっとォ――ッ!!

 何してくれてんだ紅羽ァァ――ッ!?


 皆からの視線が痛いっ!!

 こんなんもう、恥晒しじゃんっ!?



「そうですか。石瑠君が――何方か、彼をPTに入れてくれる生徒はいませんか?」


『……』



 影山の問いに、サッと視線を逸らす生徒達。


 ババを引きたく無いという気持ちが有り有りと感じられる対応だ……十代の頃に経験してたら、普通にトラウマになってそう。


 しかし、此れは困った事になった。


 僕自身としてはソロでも構わないのだが、教師である影山はそう簡単には納得しなさそうである。このままでは何れ何処かのPTが指名を受ける形になるだろう。強制的に組まされるPTなんて上手く行き様が無い。不安気な表情を浮かべる生徒達の中。膠着する状況を打破する為か、一人の男子生徒が僕の事を見やりながら「よし」と、声を掛けてきた。



「……なぁ、石瑠って言ったっけ。良かったらウチのPTに来ないか?」


「あ、相葉君!?」



 まさかのお誘いか!?

 ザ・主人公の相葉PTにクズが加入ッ!?



「こっちは四人だし。五人編成ファイブマンセルにすれば良いだけだろ? それとも、東雲は反対か?」


「え? う〜ん……私は、鳳さん次第かな?」


「……私?」


「ほら、石瑠君とは、ね? ……色々あったって、聞いたから――」


「ふ〜ん、色々ね? ちなみに歩はどうだ?」


「俺はリーダーの決定に従う」


「なら、後は鳳の気持ちだけだな?」


「わ、私はその――」


「――ちょ〜〜っと、待ったァ!!」



 嫌な展開を阻む様に、僕は"石瑠翔真"に成り切って、主人公ズ達の言葉を遮る。



「……そっちだけで、話をポンポンと進めないで欲しいなぁ。まず、相葉の誘いなんだけどさぁ? 僕はコレを受ける気は無いよ。僕は最初から一人で探索すると決めていたし、僕からして見れば、君達の心配は余計な御世話なんだよ」


「余計なって……そんな言い方!!」



 失礼な態度を取る僕に、紅羽が吠える。


 すまないね、紅羽。一度、石瑠翔真クズモードの演技が入った僕は、止まれないんだ。


 堪忍して……!



「あぁ〜? 相変わらず五月蝿いなぁ……大体君ぃ、僕を自分達のPTに入れるって言われた時に即答しなかったじゃない? 本音じゃ一緒に行動するのは嫌なんだろ? それなのに偽善者ぶっちゃってまぁ……よく言うよ」


「!」


「待て。紅羽はそんなつもりじゃ――」


「ハッ、紅羽ァ? ……呼び捨てなんて、随分と仲良くなったみたいじゃないか!? 流石は生徒番号1番の相葉総司だ。手が早い」



 皮肉満点のオーバーリアクションで、大仰に肩を竦めてやる。自分で言うのも何だが、再現度はかなり高い。名演だ。こう言ったムカつく仕草を"石瑠翔真"はやるんだよね。分かります。



「別に、彼女とはそう言う訳じゃ――」


「隠さなくても良いさ。僕と紅羽は許嫁同士だけど、別に互いを好き合ってる訳じゃない。自由恋愛? 大いに結構。僕は気にしたりなんてしないさ。お互い、邪魔にならない関係を貫こうよ? 差し当たって、この干渉は不愉快だ。放っておいてくれると助かるんだけど――?」


「……それで? 放っておいて、総合力最下位のアンタが、どうするって言うのよ?」



 グサリと刺さる正論だ。

 だが、僕が答える言葉は決まっている。



「僕は石瑠翔真だよ? 武家の名門! 石瑠家の次期当主!! 君達とは生まれから違うんだよ! それに……総合力ぅ? あんなものはただの数字だろう? 少しばかり数値が上なだけで、僕を見下すのは早いんじゃない?」


「何を……!」


「宣言してやるよ、紅羽! 僕はこれから強くなる! 君が大好きな相葉よりも、ずうっとね! その時になって手の平を返したとしても、僕はお前を愛してなんてやらないからな!! 精々、そこの相葉と乳繰り合ってるが良いさ!!」


「ち、乳ッ!?」


「――そこまでです」



 ヒートアップする状況を見て、影山が冷静に場を制した。



「先生! でも!?」


「……PT編成は個人の自由。ソロが良いと言う彼の意志を阻む事は出来ません……」



 言いすがる紅羽を諭す影山。



「石瑠君も、それで構いませんね?」



 影山が念を押して聞いてくる。

 答えは当然、イエスである。



「足手纏いは邪魔だからね」


「……分かりました」



 何を言っても無駄なのだと、諦めた顔で頷く影山。実際、足手纏いは邪魔だ。この場合は総合力最下位の"僕"の方だね。立ち回りも色々と変わると思うし、相葉達に連携で妙な癖を付けさせてしまうのは、申し訳ないだろう。


 そんな本心をおくびにも出さず、僕は転移石へと向き直る。


 話は終わりだと、態度で示した訳である。余りの慇懃無礼いんぎんぶれいさに、やってる僕も内心じゃあ苦笑いだ。


 ……紅羽には悪い事をしちゃったな。けど実際、石瑠翔真に着いて来られても迷惑だと思うんだよね。今回の件は、僕なりに空気を読んだ上での結果である。好感度は下がってしまったと思うけど、元々が無い様なものなんだから、気にする必要は無いだろう。



「――それでは、準備を始めます」



 気を取り直す様に、影山は号令を出した。


 ABYSS探索は、もうすぐだ。

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