第16話 PT編成〜前準備〜


 校内ネットの掲示板では、石瑠翔真アンチスレが勢いトップをそのまま維持。独走状態のまま来週には100スレ突破も夢じゃないと言われている。掲示板には僕関連のクソスレが乱立しており、もはや荒らし状態。中でも異彩を放つのは【天樹院×石瑠を語るスレ】だろう。


 残念ながら……此方を開く勇気は、僕には無い。石瑠翔真という存在は、完全にネットの玩具と化していた。ネットリテラシー、何処行った? 思わず問わずにはいられない。



「どうしてこうなった」



 学習区の校舎をトボトボと歩いていると、擦れ違う生徒達から「おい、アイツ……」などと言った声が聞こえて来る。


 気分はまさに、ゲイ能人!?

 くそがこなくそがァァァ――ッッ!!



「天樹院め〜〜!! あの野郎……ッ!!」



 よくも"僕"の初めてを――ッ!!

 ゆ、ゆるざん……っ!


 生徒会長だが何だか知らんが、も〜知ったこっちゃ無いね!!


 アイツは――ヤる!!

 僕がヤる!!


 ……いや、下ネタとか、そういう意味ではなくてね? 僕が倒す! ギャフンと言わせる!


 これはもう決定事項である!



「くぅ!」



 何が許せないってさぁ――あの瞬間、シャイボーイな我がJr.が微弱な反応を示してしまった事なのよね。27年の非モテ人生は、こんな所にも弊害が出てしまっていたのか……!?



「早く忘れなきゃ……っ!」



 僕は哀しみを背負いながら、次の授業を行う"転送区"へと足を進めるのだった。


 因みに、昼食はまたしても抜きである。

 食う暇なんて欠片もねぇ!!





 転送区は塔の中心部にある。入口は一般にも開放されており、職業探索者の姿もチラホラと見えた。ABYSSを管理するのは政府直轄の特殊機関だ。今やお馴染みとなっている魔晶端末ポータルを開発したのも彼等である。通称・特機と呼ばれる彼等に許可を貰う事で、一般クランはABYSS内部の通行手形ともなる魔晶端末ポータルを支給して貰うのだ。


 ABYSS内部には魔晶端末ポータルを用いて侵入する。中央へと鎮座する巨大な魔石・転移石がその架け橋となっていた。



「25番! 25番はいますか?」


「あ、はーい……」



 1-Dの集団を見付けた僕は、小走りで彼等へと近付いて行く。点呼には間に合ったみたいだけど、コイツは完全に遅刻だな。



「それでは、ABYSS探索に付いての説明を行います。各自、魔晶端末ポータルを取り出し、ユーザーズ・アプリを起動して下さい」



 全員がアプリを起動したのを確認しつつ、影山は説明を続けて行く。



「アプリ内の表示項目に[パーティ]という欄があります。それをタップしてみて下さい」



 言われた通りタップすると、画面がPT情報へと切り替わる。現在は誰とも組んでいない為、自分の名前しか記載されていない。



「そのまま[招待コードを表示する]を押下おうかし、組みたい生徒と端末画面を合わせると、自動的にPT編成が完了します。事前にリーダーを決めておけば、PT情報はリーダーと共有されるので手間が省けます。リーダー決定は一度誰かとPTを組んでから、顔写真のアイコンをタップする事で完了します。設定はPT内に居る者なら誰でも変更出来るので、周りの仲間達と相談しつつ、円滑に決めるようお願いします」



 人間関係が悪化すると、勝手にリーダーを降ろされてる場合もあるらしいからな。しかも、誰がリーダーを変更したのか分からない。疑心暗鬼に苛まれ、PTが空中分解したという話も良く聞いたものである。


 ……最も、ソロ専の僕には関係無いけどね。



「それでは、実際にPTを組んでみましょう。型としては探索者の基本系である四人編成フォーマンセル五人編成ファイブマンセルを作る様にして下さい」


「先生、六人編成シックスマンセルは駄目なんですか?」



 発言したのは相葉総司だ。こう言った事を言い出すという事は、色んな生徒からABYSS探索に誘われているという事だろう。



「六人以上のPTを組む事は、アカデミーでは原則禁止としています。主な理由は効率ですね。六人以上のPTを組むと、移動距離が短くなり、獲得資源が減少するという統計が出ています。魔物を倒した際の経験値も六等分されますので、資源採取が目的の場合、メリットよりもデメリットの方が大きいと考えられているのです」



 大人数で行くと階層主も出現しないしね。階層主を倒せなければ、次層への転移石は輝かない。道中を楽に攻略する分には適してると思うけど、最終的に階層主で行き詰まるなら最初から適正編成で挑んだ方が良いだろう。



「最も効率的と言われているのは四人編成フォーマンセルです。PTの役割ロールを過不足無く配置出来る。次点で五人編成ファイブマンセルと覚えておいて下さい」


 PTの役割ロール――それは、以下の通りだ。


 敵を切り崩す【アタッカー】

 防御を引き受ける【タンク】

 仲間を回復する【ヒーラー】


 PT編成と言うのは、此れ等の役割ロールをバランス良く配置しなければならない。


 四人編成フォーマンセルなら、序盤の攻撃力不足をアタッカーを2にして補えるのだ。タンクを2にして安全策を取っても良い。ヒーラー2は変則だね。余程じゃない限り組まないな。


 五人編成ファイブマンセルは強敵用。運用としては普段の四人編成フォーマンセルにレベル差のある助っ人を一人入れると言った具合だろう。強い奴を入れて階層主を突破するも良し。逆に、弱い奴を入れてパワーレベリングをするも良し。やり方は様々である。


 とは言え、五人編成ファイブマンセルを普段の編成にしている奴は、余りいないかな?


 単純に、効率悪いしね。


 上級者ほど、道中の人数は減らして行く。僕がソロで探索していたのも、効率の面から見ると、別に悪い事では無いのだ。

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