第15話 目覚めたな……


 ――SIDE:石瑠藍那――



 昼休み。2-Bの教室にて持参した弁当をんでいた私は、自身の魔晶端末ポータルがポケットの中で震えたのを感知した。


 恐らくは、PTメンバーからの連絡だろう。午後はABYSS探索と授業が決まっている。漸く到達した20階層。その打ち合わせをチャットで寄越して来たのだろう。


 食事中は行儀が悪いが――仕方があるまい。


 時は有限。


 仲間達からのチャット連絡は、火急の場合も少なくは無い。急いで中身を確認し、皆へと返事を返すとしよう。



 [flom:浦和真希]

 <凄い動画が上がってる!!>



「む……?」



 発言は同じPTチャットの真希からのものである。彼女らしい、実に端的な文章だ。


 しかし、動画とは……?



 [flom:高崎慎也]

 <見た見た! アレ、やっべぇよな!?>


 [flom:柊京介]

 <生徒会長、御乱心……って奴ですかね?>


 [flom:浦和真希]

 <私、ちょっと鼻血出た>


 [flom:高崎慎也]

 <うわぁ…… >


 [flom:柊京介]

 <そのカミングアウトは、ちょっと引く>



 ふむ……何やら、その"動画"とやらの内容で皆は盛り上がっている様である。


 私も会話に参加してみるか。



 [flom:石瑠藍那]

 <失礼。その動画とやらは一体何だ?>



 私が文章を送信して、少しである。



 [flom:浦和真希]

 <あ>


 [flom:柊京介]

 <あ>


 [flom:高崎慎也]

 <あ>



「……あ?」



 皆して同じ文章を投稿した事に、私は思わず首を傾げる。何か、変な事でも言ってしまったのだろうか?



 [flom:高崎慎也]

 <藍那さぁ、SNS見てないの……?>


 [flom:柊京介]

 <馬鹿やめろ>


 [flom:浦和真希]

 <慎也、ころすぞ>


 [flom:石瑠藍那]

 <??? どういう事だ?>


 [flom:高崎慎也]

 <トップニュース見て>


 [flom:柊京介]

 <オイオイオイ!>


 [flom:浦和真希]

 <死んだわ、アイツ>



「……トップニュースか。むむむ」



 正直、私はこの手の機械が不得手である。皆が良く見る"いんとらねっと"等も余り活用した事は無い。ただ、それだとPT間の連絡で不便なので、PTチャットは仲間の真希に教わり、何とか活用出来ている次第である。


 故に、学校のニュース欄というのも、余り目を通した事は無かった。


 そも、ニュースと言うなら紙で用意するのが普通だろう。態々ネットへと上げるのは、私の様な機械が不得手な者への軽視なのでは無いかと、日々憤慨をしていた。


 とはいえ――私も2年だ。流石にこの魔晶端末ポータルという奴にも慣れて来た。


 好き好んで開きはしないが、トップニュースを表示するくらいは一人でも出来る。


 私は件の動画リンクを見付けると、そのまま画面をタップする。ローディングは一瞬。プレイヤーは記録された映像を映し出す。


 ――映った場所は、アカデミーの食堂だ。



「む! 我道竜子……!!」



 映し出された生徒会副会長の姿を見て、私は闘志が湧くのを自覚する。


 拳聖・我道竜子――アカデミーの2年生にして、全学年最強を謳う女学生。


 私は以前、コイツを相手に敗れている。


 それも一方的な試合だった。


 今度こそは、そうはさせん!

 絶対に貴様を倒してみせるぞっ!!


 私が決意を新たにした――その時だ。



「生徒会長――! 天樹院……と、な、何!?」



 画面には生徒会長と向き合う、我が弟・翔真の姿がそこにある。


 な、何故翔真が生徒会長と……!?

 一方的に話し掛けられているのか――!?


 頭が混乱してしまう。

 だが、そんな事はまだ序の口であった。



「な!? な!? なァ――ッ!?」



 天樹院と翔真が……口吸いキッスをしている!?


 馬鹿な!!

 これは一体、何の冗談だ!?


 響めく周囲。画面の中で混乱する我道に、私は思わず親近感を抱いてしまう。



『……何をやってるのカナ? 天樹院君……?』



 若干、片言となっている狂流川。奴のこんな姿も珍しい。だが道理だ! こんなものを見せられては、誰も彼もが自失するだろう。


 カメラが天樹院へとアップする。



「唾、付けとこうかと思って――」



 付けとこうかと思って――


 思って――思って――



「う、うわぁぁぁぁぁ!? うわぁぁぁ!!」



 私は思わず、叫び出す。


 教室の中で。奇異の目を向けられようとも構わない。人は叫びたい時に叫ぶのだ!


 何だ、一体、この感情は……!


 天樹院×翔真……!?



「ふ、不純だ!! 助平だっ!! そんなものは許されない!! くっ、ぅ〜〜! 翔真め……!! 帰ったらこの姉が直々に折檻してやる!!」



 熱くなる感情を吹き飛ばそうと「うおおお!」と雄叫びを上げ捲る私。最近の一年というのは――全くもってけしからん!!

 


 

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