第13話 遭遇〜最強と最狂〜


 あー、びっくりした。


 起きたらいきなり目の前に紅羽がいるんだもん。ついつい挙動不審になっちゃったよ。


 現実世界の"僕"も、そりゃあコミュ症を拗らせていた男だったけれど。こっちに来たらより症状が悪化した様な気がするなぁ。


 ――ま。それもこれも、一応の解決策を見付けたから、今後はもっとマシになるだろう。


 今回、僕が行った行為は石瑠翔真の成り切りロールプレイである。VRMMOでは自身のアバターに沿った性格で、ゲームを楽しむプレイヤーが数多くいる。


 さっきのは、それにならった形だ。


 思った以上にやり易かった……余り考えたくは無かったんだけれど、"僕"と"石瑠翔真"は喋り方から似ているのかも知れない。根本の性格というか――自己顕示欲が高く、刺々しい所は別だと思うんだけれど、似た雰囲気があるのは真似をしてみて良く分かった。


 これからは、メインキャラと話す時は"翔真"の仮面を被って話す事になるだろう。仮面どころか、今は身体ごと翔真なんだけれど、細かい事は気にしない。"本気"を出すと決めた以上、僕は中途半端な真似はしないのだ。


 差し当たって、今は食堂に急ごうか。


 石瑠家に居ると、碌な物が食べられないからね。今日のお昼は豪遊だっ!


 るんるん気分で、食堂へと向かう僕。



「ん? 何だ? 人集りが――?」



 食堂前には、大人数の行列が出来ていた。行列と言っても生徒達は食券に並んでいる訳では無い。ある一つのテーブルを囲んで、ガヤガヤと騒がしくしているのである。


 一体、何の騒ぎだろう?


 興味が湧いた僕は、生徒達の後ろからひょっこりと噂の中心に顔を出す。



「でさー! この前私のPがさー」


「ええ〜? やっばーい!」


「――」



 そこに居たのは、生徒会広報・狂流川冥くるるがわめいだった。彼女はクラスメイトと思しき生徒と談笑しながら、昼食を摂っている様である。


 ……そっかぁ。

 食堂は学年で別れて無いもんね。


 そりゃあ、鉢合う時もありますわな、と。

 僕は無言のまま静々と後退する。



「あ! そこの一年、ちょっと待って!」


「!?」



 ドキンと心臓が跳ね上がる。いやでも、流石に僕の事ではないだろう。注目を浴びる事なんて何もしていない……筈。僕はそう思い、そのまま逃げだそうとして――捕まった。



「えへへ。つーかまーえたっ♪」


「どうしたのメイー?」


「その子誰?」


「あわ、あわわわっ」



 必然的に衆目からの注目を浴びてしまう僕。余りの目立ち様に緊張による汗が噴き出す。



「君さぁ、今SNSでバズってる子だよねぇ? 面白いからこっち来て話聞かせてよ♪」


「え、えす……? 何を言って――のわっ!?」


「えへへ〜、問答無用☆!」



 腕……力……強……っ!


 嫌がる僕を物ともせず、狂流川はファンで囲まれたテーブル席へと僕を無理矢理座らせた。


 四方八方から突き刺さる視線が痛い!!

 ぐぇーッ!? 生き地獄!!

 何だってこんな事になってんだァ――!?



「ちょっとメイー? 何一年拉致ってんのよ?」


「あれ? でも私、この子見覚えあるよー」


「えぇっ……? って、あぁ――もしかして」


「え? え? え?」



 急に納得し出す周りの女子達。しかし僕には心当たりは何もないんですけれど!?



「はい、これ」


「へ?」



 背後に立つ狂流川が、僕の眼前に自身の魔晶端末ポータルを翳して見せた。


 その画面に、映し出されたものとは――



『やめてスケベェェ!! 助けてぇ――!!』



 ドッ! と、周囲から笑い声が上がる。


 見せられた動画は、僕が1-Cの男子生徒達にパンツを剥ぎ取られそうになった場面である。


 ――ど、どどど!!

 ――どう言う事なんだってばよッ!?

 

 何だってあの時の場面が動画に!? つかこれ、SNSに上げられちゃってるの!?


 ……顔出しで!?


 僕のプライバシーは何処行ったッ!?



「現時点で再生回数20万回だって。校内限定のイントラネットでこの数字は中々出ないよ? 一躍有名人だね、石瑠翔真君?」


「はは、はははは……」



 狂流川冥に名前まで知られちゃってるし、僕ってこれからどうなっちゃうんでしょう?


 今からでも入れる保険、有りますか――?


 自身の今後を悲観していると――



「何だメイ。一年に絡んでやがんのか?」


「あ、リューコちゃん!」



 制服をだらし無く着崩し、頬に湿布を貼った褐色肌の赤髪ロングヘア――我道竜子がどうりゅうこがファンの女子を引き連れながら、この場へと現れてしまう。


 生徒会副会長……!!

 タイミングが悪過ぎるぅぅ――!!



「石瑠翔真君だよ〜今話題になってる子♪」


「はーん……」


「ど、どうも……」



 気分は正に蛇に睨まれた蛙状態。不躾な視線で此方をジロジロと値踏みする我道竜子。



「何か弱そ」



 どうやら、彼女の御眼鏡には叶わなかった様だ。――シャオラッ!! セーフッッ!!



「おい、一年」


「ははは、はい! な、何でしょう……?」


「お前の学年に強い奴がいたら、私に教えろ」


「は、はぁ……つ、強い奴……?」


「――いいな!?」


「は、はいぃぃっ!! 承りましたぁっ!」



 いざとなったら、相葉を売ろう。

 僕は心の中で決意をした。



「ヘェ〜、掲示板にも色々書かれてる……入学早々にアンチスレが出来てる生徒なんて、中々いないよ?」



 ――あ、アンチッすか!? ネットじゃそんな事になってんの!? パンツ脱がされそうになっただけなのに、何故だァァ――ッ!?



「え〜っと、何々……許嫁の子にセクハラ三昧? 家の権威を笠に来て、一般家庭の子にブイブイ言わせていた武家のクズ――だって?」


「最悪だな」


「ですね」



 身から出た錆でした。


 畜生――ッ!!



「駄目だよ君ぃ〜? 皆の迷惑になる事をしてちゃ。嫌われちゃうよ〜?」



 もう嫌われています。

 お説教を聞きながら、僕は内心で頷いた。



「石瑠って……何処かで聞いた事あるなーって思ったら、藍那ちゃんとこの弟君なんだね?」


「あん? 藍那? 誰だそりゃ?」


「誰って――2-Bの石瑠藍那ちゃんだよ? 覚えてないの? リューコちゃんとも一度戦った事がある子だよ?」


「2-B? 知らねぇ。私は雑魚の名前は覚えられねぇんだ。それに――3年になった時に当たるのは、テメェのクラスだろ? なぁ、狂流川ぁ?」



 途端に空気が重くなる。我道の固有コマンド・スキル【暴圧】の効果だ。1-Cの生徒が放った【威圧】の最上位版。効果範囲は自身を中心とした100mだったっけか? 効いてしまえば指先すら動かせず硬直してしまうだろう。最悪、呼吸困難で死ぬ生徒も――



「元気だねぇ、リューコちゃんは……」



 平然とする狂流川は、圧し潰れそうになる周囲の生徒達へと向けて、声を掛ける。



「大丈夫。――」


『!』



 狂流川が言い聞かせるや否や、周囲の生徒達は先程までの苦しみが嘘の様に立ち上がる。一体何があったのか? 訝しんでいる者が殆どだ。



 ……出たな。狂流川冥のぶっ壊れ固有コマンド・スキル――【絶対支配ドミネーション】アレに掛かった者は、狂流川の操り人形となる。絶対遵守の命令は相手の神経に作用し、痛みや苦しみを消す事だって可能なのだ。


 因みに、僕の方は【鈍感】スキルが作用して何方もレジスト出来たみたいである。


 フ〜〜ッ、【鈍感】最強!!



「相変わらず物騒なスキルだな?」 


「それ、リューコちゃんにだけは言われたく無〜い!周りに人がいる時は、あんまり無茶しちゃ駄目だよ? 八房君にも怒られちゃう☆」


「天樹院か。奴とも何れケリは着けるが――」


「――呼んだ?」


『!!』



 

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