第11話 学校説明その②


「次にランクポイントの説明を行います。魔晶端末ポータルのユーザーズ・アプリを開いて、所属している教室の項目をタップして下さい。1-Dと書かれたその下、"10RP"が現在のD組が所持しているポイントとなります」


「教室にポイント……?」



 驚く東雲の声が聞こえて来た。影山はそのままランクポイントの説明を続けていく。


「皆さんにはこの一年間を通して、学年別の競走を行なって貰います。ランクポイントの高さを競い、終業式に決定される学年別総合ランキングでより良い成績を残すのが目標となります。AからDの教室名は順番としての意味で名付けられた訳ではありません。生徒の成績順……即ちランクとしてアカデミー側が皆さんを評価した上で振り分けられたものなのです」


「つまり、俺達は落ちこぼれって事かよ?」



 気にいらねぇな、と。ガラの悪そうなロン毛の生徒、磯野浩介が食って掛かる。



「他所の教室と差があるのは否定しません。A〜C組に所属する生徒達は初等部からの一貫教育を受けた生徒が殆どで、中途編入組との格差はその分だけ生じています。――ただ、その事を踏まえて皆さんの事を評価するのは早計だと私は思っています」


「……上に上がる手段はあるんですか?」


 食い付く様に、紅羽の奴が発言する。



「ランクの昇級は"教室"と"個人"で2パターンが存在します。RPでの昇級は教室全体を指すもの。例え成績が悪くとも、昇級組に所属していればその恩恵を受け取る事が出来るのです」



 ただし。と――影山は話を続ける。



「成績下位の3名は、一学年終了後に降級されます。自身の立場に胡座を掻き、努力を怠った者はそれ相応のペナルティが課されるという事です。成績とは総合力。つまりは皆さんの生徒番号に他なりません。生徒番号の変動は学期末に三回行われます。それ以外では自分の順位は分からないという事です。無論、クラスメイトと相談して自身のステータスを教え合うのは構いません。学生として。探索者として。後悔の無い行動を心掛けて下さい」



 ざわざわと、響めく生徒達。



「あの――D組からの降級って……?」



 発言したのは生徒番号23番の林勝はやしまさる。キノコヘアの男子生徒。通称・リンショウ君と呼ばれる彼は、メインストーリーで翔真と共に序盤で脱落するモブキャラである。



「――退学です」


『!!』


「D組より下のクラスは存在しません。つまり、退学は必然。減った生徒の補充は編入生で行いますので、教室内の生徒数は一定数を保たれます。アカデミーへの編入を希望とする生徒は多く、才能の無い者を育て続けるよりも、新規の者にその席を明け渡した方が効率的だと学校側は判断しているのです」



 ならしゃーないか……。


 片肘をつきながら、僕は思う。



「……質問です。D組が教室単位でC組へと昇級した場合、降級する生徒はそのまま退学なのでしょうか?」


「良い質問ですね、卜部君」

 


 生徒番号7番、卜部正弦うらべせいげん。眼鏡キャラの黒髪イケメン。神崎に匹敵する程のクールキャラで、女子人気は高い。レガシオンでは良く腐女子に"受け"としてカップリングされている不遇な男だ。



「その場合はD組へと降級され、成績下位者の退学は免れます。原則としてランク変動の優先順は"教室"の次に"個人"となります。大事な事なので覚えておくように」



 影山の言葉を咀嚼するなら、教室単位で昇級した場合は退学の恐れは無くなる様だ。


 ――とは言え、レベル差のある現状ではそれも難しいだろう。プレイヤーキャラが存在しない今、D組の面子だけで教室ランクを昇級させるのは正直言って無謀だ。相葉を始めとしたキャラ達は成長率だけを見れば他の教室連中にも引けを取らないだろう。だが、開いてしまっている"時間"という溝を埋める為には、ある程度の効率が求められるのだ。現に原作ストーリーでD組を選ばなかった場合、彼等は一度の昇級も果たせずシナリオが進んで行った。描写はされなかったけれど、退学者も出していたと思う。


 でもって、退学者の中で有力なのが現状でも下位3名に属している僕って訳。勿論、大人しく退学する気は無いけれど、歴史の修正力というのは侮れない。油断だけは無い様にしよう。



「悪い事ばかりではありません。上位3名は昇級する機会を与えられます。此れは上を目指す者にとっては有益な制度でしょう」


「機会と言う事は、辞退も出来ると?」



 寡黙なイケメン、神崎歩が発言した。



「当然、辞退も可能です。現状の所属に満足しているなら、無理に教室を変える必要はありませんからね。昇級辞退が出た場合は、人数調整の兼ね合いで上位ランクの降級枠が一つ潰される事となります。……全体を見るならば、成績下位者がそのまま居残る形となるので、教室単位では不利となるでしょう」



 言ってる事は尤もだが、自身の昇級と引き換えに所属する教室の優位を取る生徒なんて殆どいないだろう。誰だって我身は可愛いし、大した愛着も無い連中に義理立てをする意味は無い。昇級辞退をする生徒というのは、大概が別の思惑を持つ連中である。それを知っていて、影山はこんな発言をしているのだ。



「それでは、次にRPの獲得方法を説明します。個人で努力して上げられる"総合力"とは違い、RPは教室全体での行事でしか獲得する事は出来ません。此処で言う行事というのは、期末テストやクラス対抗戦。光臨祭の事を指します」


「光臨祭……って?」



 目尻に涙を浮かべた相葉が、影山へと訊ねる。……多分、欠伸をしていたな。



「光臨祭と言うのは、アカデミーで言う所の体育祭と考えてくれて構いません。秋季に開催される全校合同のお祭りです。此処では学年の垣根を越えた競争が行われるので、獲得出来るRPも他の行事よりも多くなります。光臨祭の時期が近付いて来たならば、充分に留意して下さい」



 光臨祭か。ま、ランク昇級を目指すなら避けては通れない道だよな。ただ――他の教室別対抗戦と違って、2年や3年も出張るので、必然的に勝率は少なくなってしまう。


 ……特にやばいのは"生徒会"だ。


 3-A所属、生徒会長の天樹院八房てんじゅいんやつふさ

 2-A所属、副会長の我道竜子がどうりゅうこ

 2-C所属、広報の狂流川冥くるるがわめい


 コイツ等には、絶対に目を付けられてはいけない。能力もそうだが、何よりもヤバいのが連中の人格だ。目を付けられたが最後、飽きるまで玩具にされて壊されるだろう。


 人として、大事なものが抜け落ちた連中だ。


 奴等は自分のを埋める為なら、何をしても良いと勘違いをしている節がある。あの様な異常者の相手は、他の才能ある連中に任せた方が身の為だろう。


 僕はまぁ、安全圏で応援しとこう。石瑠翔真として最強を目指す気ではあるけれど、無用な危険は冒さないのがモットーなんでね。



「それでは、次の説明です――」



 それからも教師・影山良子の学校説明は淡々と続いて行く。合間に挟まれる生徒からの疑問。それらを答える影山の声を聞きながら、僕はゆっくりと机の上に突っ伏した。

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