第10話 学校説明その①
――朝からとんでもない目に遭った。
全身の穴という穴から水分を放出しながら走り続けた僕は、傍目からは歩く腐乱死体の様に見えていただろう。
藍那……いや、藍那姉さんのシゴきは僕の想像の範疇を超えていた。きっと彼女は『自分が出来るんなら相手もこれくらいは出来るだろう』と、信じ込むタイプなのだろう。
そんなこんなで精根尽きた僕は、朝から憂鬱な気分であった。
家に戻ってからは”アカデミー”に通う準備をしたのだが、出された朝食は床へと落とした様な埃塗れのトーストパンと、唾液混じりのオニオンスープ。芋虫入りのサラダである。
献立としては最悪だったが、何よりも空腹が勝った為、味はさておき――がっついた。正気を失いながら食事を貪る僕を見て、妹の麗亞やメイド達は引いていたっけ。
まぁ、そんな事はどうでも良いけど。
「……やっぱり、戻らなかったな」
何となく、そんな予感はしていた。この現象が永遠に続くのかどうなのかは分からない。ただ、此処に居る”僕”は翔真なのだ。
この世界に生きる人間として――
レがシオン・センスのプレイヤーとして――
恥じない生き方をしなければならない。
「
右手の薬指に収まった|呪いの婚約指輪≪エンゲージリング≫。僕はソレを眺めながら、一人でアカデミーの通学路を歩いて行く。
覚悟はもう――出来ていた。
◆
「全員着席。今からHRを開始します」
教師の影山が1-D教室へと入って来る。彼女の淡々とした言葉に、離席していた生徒達は慌ただしく己の席へと戻って行った。教壇へと立った影山は生徒達全員が着席したのを見計らい、軽い挨拶の後に出席を取る。
「本日はこの学校の詳しい説明を行いたいと思います。まずは、昨日渡した
罰金制か。失くす事は中々無いと思うけど、紛失した際の補償がちゃんとあるのは助かるね。最悪、妹の悪戯で
「アカデミー内で使える通貨は
「質問ですわ! マイレージポイントという物は円で換金する事は出来るのでしょうか?」
挙手して発言したのは、生徒番号9番の
アイツの場合は実家が相当な金持ちだから、マイレージポイントを円で買う事が出来るなら相当なアドバンテージとなるだろう。
だが、そうは問屋が卸さない。
「残念ですが、それは無理です。マイレージポイントはアカデミー内でのみ運用する通貨。採取した資源の流出を防ぐ為、他の通貨からマイレージポイントへと両替する事は管理委員会から禁じられています。公的機関を用いればマイレージポイントから日本円へと換金する事は出来ますが、余りお勧めはしません。ポイントの売買が露見した場合は、厳しい処罰が下されますので、絶対に行わない様にして下さい」
「……それは残念。分かりましたわ~」
がっくりと首を落とし、武者小路は自身の企みを諦める。それが罷り通ると、実家が太い奴の方が有利になってしまうからな。ただでさえ金持ちの多い学校だ。学校側としては生徒達の買占め等による独占も防ぎたい所だろう。
「それでは次の説明を行います。
『はーい!』
「……では、マイレージポイントの稼ぎ方を説明しましょう。ポイントの稼ぎ方は大きく分けて二つあります。学習区での仕事の報酬と、探索区でのABYSS攻略。前者は学校側が指定した”アルバイト”を行う事でマイレージポイントを稼ぐ事が出来ます。簡単な物から面倒な物まで多種多様ありますので、ネットのBBSを使って仕事の募集を確認し、自分に合ったものを選択すると良いでしょう。後者はABYSSでの魔物退治が主な収入源となります。ABYSS内部で魔物を倒した場合、彼等の亡骸は"魔晶"へと変質します。魔晶とはABYSS内でしか取れない資源で、ウォレットアプリの画面にある【チャージ】というタブをタップして、魔物から採れた魔晶を画面に吸い取らせる事で、魔晶の量と質に応じたポイントを加算する事が出来るのです」
「【チャージ】した魔晶は何処に……?」
相葉が、挙手して発言する。
「政府機関の研究室に転移されています。……質問は以上でしょうか?」
「は、はい」
説明された相葉は転移という事象が良く分かっていない様子だったが、影山の進行を円滑にする為、小さな疑問は飲み込んだ様だ。
こればかりは、使ってみなければ何とも言えないだろう。今からABYSSが楽しみだ。
「探索区での稼ぎはそれだけではありません。10階層を踏破する毎に与えられる賞与。ABYSSから採れた資源を探索者間で売買する事によりマイレージを稼ぐ事も可能です。ウォレットには【売買】というタブがありますので、各自トラブルの無い様、取り扱いには留意する様に」
影山の説明を聞きながら、僕はウォレット内の項目へと注目する。魔晶を入れる【チャージ】に【売買】……か。説明は無かったが、もう一つのタブ【譲渡】というのは注意したいな。此方はゲーム内でも良く悪用されていた代物だ。積極的な教師の介入が無いアカデミーでは、力こそ全てという世紀末な法が罷り通っている。不良生徒に脅され、マイレージポイントを奪われるのも日常茶飯事だ。
割と僕って不幸体質だからなぁ、絡まれない様に気を付けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます