第6話 パンツだけは勘弁して
――やめろよ。
そう言って、男子生徒に絡まれた女子の前へと姿を現したのは――美形な男性。
ではなく――
D組の主人公・相葉総司――
でもなく――
「……石瑠君!?」
そう――僕でしたぁぁぁぁ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
やべぇェェェェェェェェ!!
何だってこんな事になってるんだァ――!?
忘れてた。
完全に忘れてたよ、このイベント……!
入学式後に、1-Cの連中が因縁を付けて来るんだよなぁ!? ターゲットにされる生徒は東雲・鳳・宇津巳の3パターン。確率的には鳳が狙われるのが1番高いのか? 何だって三人同時にイベントが進行しているのか分からない。
本当だったらすぐに相葉が助けに来てくれる筈なんだが、どうにもこうにも、間に合う感じじゃ無さそうだったから、ついつい、僕が出張る形となってしまった……!
ただ絡まれて終わり――だったら、僕もこんな目立つ介入なんてしないんだが、今回は宇津巳の"カメラ"という、重要なキーアイテムが懸かっている! 見逃せない!
生徒番号11番・報道部の宇津巳早希。彼女が肌身離さず持っている一眼レフカメラは、彼女のお父さんの形見だったりする。コイツを失くした場合、宇津巳早希は確定で鬱になり、不登校となってしまうのだ。
それだけならプレイヤーの度重なる実家訪問で何とかなるんだが、彼女の固有職である【キャスター】は永遠に取れなくなってしまう。一人のキャラが、たった一つのイベントで最終成長を諦める羽目になってしまうのだ!
レガシオンプレイヤーとしては、見逃せない。僕が飛び出した理由とは、そんな所。
だけどまぁ……無理だよね!
「なんだコイツァ! 新種のサンドバックかァ――!?」
「威勢が良いのは最初だけかよ、オイ!!」
「あぷぱ! たわばっ! ――ひでぶっ!?」
数的不利且つ実力も劣っている僕は、1-C生徒達に良い様に殴られ・蹴られ・弄ばれてしまっていた。
目を覆う様な凄惨な光景だ!
恥ずかしいから女子も見ないで……!
「ア――ッ!!」
ケツに向かって、大きく蹴りを入れられる僕。
「ちょっと! 良い加減に――!」
「駄目、鳳さん!」
「東雲さん!? 何で!?」
「石瑠君が身体を張って助けてくれたんだよ!? 鳳さんは飛び出しちゃ駄目!」
「くっ……馬鹿、翔真め……!」
いや〜〜そんなつもりは更々無かったんですけどね!? 悪いけど、絡まれていたのが鳳紅羽だったなら僕は見捨てていたよ!?
だから助けて!! ていうか、誰か止めてくれないと終わんないよ〜〜!?
レベル差で勝てないのは分かってるから、無駄な傷を作らない様に無抵抗を決め込んでるんだけど、このままじゃ本気で不味いのである!
「ギャハハ!! 弱ェェ! 弱過ぎんぞコイツァ――!!」
「女の前だからって張り切りやがって! オイ、見せしめだ! 徹底的にイジメてやろうぜ!」
「な、何をするんです……!?」
訊ねる僕に、男子生徒はニヤリと笑う。
「格好付けやがった罰だ。女子の前でパンツを脱がしてやる!!」
「ブハ! そりゃ良いや!! やろうやろう!」
「おい、手足掴んどけ!」
ひょ、ひょえ〜〜! 猥褻物大公開!?
とんだチン事件になっちまうよ!!
や、やめちくりぃ――ッ!!
「やめてスケベェェ!! 助けてぇ――!!」
僕が叫んだ、その時だ。
「何をやっているんだ! お前達!!」
「相葉君! 神崎君!」
喜色を帯びた女子の声を浴びながら、真打ち登場と言わんばかりに、相葉総司と神崎歩がこの場へと駆け付ける。
お、遅いんだよ……クソがっ……!
おかげでこっちはズタボロだ。
「けっ! んだぁ? また1-Dの生徒かよ!?」
「何があったのかは知らないけれど、多対一って言うのは見過ごせないな? これ以上やるって言うなら、俺達も参戦させて貰うぞ!」
「D組が! 舐めた口を聞きやがって……!」
そのまま睨み合う両者。拮抗を崩したのは1-Cの生徒達からだった。
「健児! そろそろ……」
「チッ、もうそんな時間か……」
何か不味い事でもあるのか、1-Cの生徒達はそわそわとした素振りを見せ、リーダー格と思われる角刈りの生徒が舌打ちをする。
「おい、テメェ――名前は?」
「……相葉総司」
「テメェの顔は覚えたぜ。次会う時を楽しみにしといてやるよ」
「ちょっと! 逃げるの!?」
「あぁ? ……逃げるぅ?」
『!?』
紅羽の言葉を引鉄として、健児という生徒が自身のスキルを使用した。
戦士系職業が持つコマンド・スキル……【威圧】だな。対象の行動に抑制が入る状態異常【萎縮】を付与するスキルだ。効果対象が使用者よりも低レベルな程、成功確率は上昇する。この場合は恐らく【鈍感】持ちの僕以外、全員が【萎縮】を付与されてしまったのだろう。青い顔を浮かべる相葉と神崎。女子達なんかはその場に
「ダッセェ!! 口程にもねぇとはこの事か!」
「っ、く……何がっ!?」
「体が、思う様に動かん……!」
「アンタが、やったの……ッ!?」
「言葉を間違えんなよ、女ぁ。今回は見逃してやるって言ってんだよ。1-Dのクソ雑魚共が! 今からクラス対抗戦を楽しみにしてるぜ!」
「ま、待て!」
「じゃ〜な? 相葉クン?」
『ギャハハハハハハ!!』
品性の無い笑い声を上げながら、その場を後にする1-Cの生徒達。残った者達からは、重苦しい沈黙が漂っていた。
「そ、そうだ! 大丈夫、相葉君!」
青い顔をする相葉を心配し、彼へと駆け寄る東雲歌音。どうやら【萎縮】の効果は解けた様だ。やはり範囲によって効果時間は短くなるな。――ていうか、僕の方が明らかに重傷なんだけどね。誰からも心配されないのは、ちょっとだけ悲しい。
これが顔面偏差値の差だろうか?
翔真も面だけを見れば割と整っている方なんだけどなぁ……。
心の中で涙を流した、その時である。
「……何で来たのよ……」
「ふぇ?」
レガシオン・センスのツンデレさんこと、鳳紅羽が僕へと声を掛けて来た。
思わず、緊張が走る。
「べ、別に……お前の為じゃ――ないし」
言ってしまってから、まるで僕の方がツンデレみたいじゃないかと悶絶してしまう。
やはり僕は、ゲームの中でもコミュ症なんだなぁ……他人と上手く会話が出来ない。
――て。あ、そうだ……。
僕は制服の内側に隠していたカメラを取り出し、目の前の紅羽に手渡した。
「あ、あの、……コココッ、コレッ!」
「これ! 宇津巳さんのカメラ!?」
「……連中が相葉に気を取られてる隙に、とととと、取り返したんだよ。僕、宇津巳とは話した事ないから……さ。……女子のお前から、その……返しといて……」
「それは、別に良いけど……何で小声?」
「じゃ、じゃあッ!!」
「あ、翔真!」
紅羽が僕の名前を呼んでいるが、正直、もう限界だった。後の事は彼女に任せて、僕はさっさと帰宅しよう。
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