第4話 入学式と掘り出し物
生徒達の自己紹介が終わった後、僕等は場所を移して学習区の体育エリアにやって来た。外では体力トレーニングなどを行うグラウンドが存在しており、体育校舎は全校集会などの行事で使用されたりもする。今日の場合は入学式用としてセッティングされていた。整列されたパイプ椅子や、その前に立ち並ぶ生徒達。一年生の僕等は緊張した面持ちで列を形成するのだが、小等部や中等部も合同なので、騒がず体裁を整えている者が殆どだ。
式を執り行うのは、生徒会だ。
「新入生の皆〜! こんにちは! 皆のアイドル、
壇上では思わず絶句する様な言葉を派手目な女子生徒が投げていた。目を引くのは特徴的なその恰好だろう。黒髪ロングと一見清楚なイメージをピンクのインナーカラーで帳消しにし、キラキラな星型の髪飾りを頭に着けている。身を包むのはアカデミー指定の制服ではなく特注品。赤を基調とした舞台衣装の様な改造制服に身を包み、チェック柄のミニスカートを揺らす彼女は、全国的な人気を誇るカリスマアイドル・現役女子高生の
お茶の間で良く見る芸能人の出現に、生徒達は我を忘れた様に騒ぎ出す。途端に騒々しくなる館内だが、壇上に立つ狂流川がパフォーマンスをするかの様にゆっくりと手を上げると、それだけで周囲は嘘の様に静まり返った。
まるで猛獣使いである。
現実では初対面と言っていい彼女に、全校生徒が支配されている。
改めて、只者ではないな。
「――はい。お利口さん」
微笑みを浮かべながら、狂流川がぽんっと、手を打つ。
「それでは生徒会長。御挨拶を――」
「うん」
白い詰襟を来た透明感のある白髪の男子生徒が、狂流川と交代で壇上へと上がって行く。線が細く背丈も小さい彼は、上級生でありながら後輩の様にも思えてしまう。身に纏う雰囲気は儚げで、何処か浮世離れしている印象だ。
整列する生徒をゆっくりと見渡す彼。原作知識を持つ僕だからこそ気付いたのだが、アレは生徒の品定めをしているのだろう。
御眼鏡に叶うと大抵悲惨な事になってしまうので、此処は目を伏せるのが正解だ。
「……どうも。生徒会長の
……思ってもない事を、良く言うよ。
生徒会長の
「次――副会長、御挨拶――」
飽くまでも生徒会の人間のみで式を完結させるらしい。
側に控える教師達は、ただの添え物。
壁際に突っ立っているだけだ。
そろそろ気付いたと思うけれど、アカデミーの入学式と言うのは、生徒会の権威を新入生へと誇示する為のセレモニーなのだ。壇上にて堂々とした発言をする幹部達は傍目から見ても煌びやかで、自分もこう成りたいという憧れの意識を生徒達に芽生えさせるのが目的だ。
しかし、それは無理な話だ。
生徒会に入る生徒と言うのは大体にして小等部からアカデミーに通っていた選ばれし者で、小等部からの入学というのは、それはそれは狭き門なのだ。学力や才能は元より、実家のコネなどが無ければ入学する事は叶わない。そんな持ってる連中の中でも選りすぐりを集めたのがアカデミーの生徒会である。
一般人が気軽に目指せる立場ではない。
生徒会の狙いは役員達が持つ特権意識の強化だ。羨望の眼差しを送られたなら、そこに所属する連中はさぞ気持ち良いよな? 立場って言うのはある種のドラッグであり、此れに固執させる事で生徒会幹部は所属する役員を意のままに操っているのだ。
学生が考える様な事じゃない。
本当、恐ろしい連中だわ。
そうこうしていると、主だったプログラムは終わってしまった様だ。生徒会長からの閉会式の言葉を聴きながら、僕は大きな欠伸をした。
◆
式を終え、教室へと戻ってきた僕達は、明日からの授業内容を影山先生から説明される。本日はこれで解散である。施設内を見て回るも良し、そのまま真っ直ぐ帰るのも良し。好きにしろと言うお達しだ。
「生徒会、ちょ〜ヤバかったね!?」
「
「
「最初の挨拶って、アイドルのMe'y?」
「生徒会の広報だって。どんだけだよー」
「どうにかして生徒会に入れねぇかなぁ?」
「無理無理。夢見んなって」
「帰り、施設寄ってこうぜ!」
……どうやら、生徒達の殆どはアカデミー内の施設を回るらしい。生徒会への好意的な感想もチラホラと聞こえて来る。
――さて、僕も行動するか。
鞄を持って立ち上がると、隣から「ねぇ」と言った声が掛けられる。
「私、他の人と見て回るから」
「え……」
「アンタはすぐに家に帰るの?」
「あー……まぁ、そのつもり……」
「あっそ」
……一体なんだったんだ?
鳳紅羽の突然の行動に、僕の心臓はバクバクと暴れ出す。つい、帰るなんて事も言っちゃったけれど、僕にその気は更々無い。言いたい事を言い終えた彼女は、教室の女子達の輪へと溶け込んで行ってしまう。何時の間に仲良くなったのだろう? 社交的な性格とは思わなかったけれど、少なくとも彼女は僕より上手らしい。
でもって、こっちはこっちで凄いなぁ。
「ねね、相葉君! 一緒に施設回らない?」
「良かったら神崎君も……ね?」
「あ、あははは……」
女子から猛烈なアタックを受ける相葉達。柔らかに対応する相葉と違い、隣の神崎なんかは露骨に迷惑そうな雰囲気を醸し出していた。
「……総司、先に行っているぞ」
「あ! 歩!?」
先に逃げ出したのは神崎歩だ。手に持った竹刀袋を肩に掛けると、彼はスタスタと教室の外へと出て行ってしまう。
「ごめん! 今日はアイツと一緒に回るから、また今度でお願いっ!!」
パンッ、と。両手を合わせて謝る相葉。女子達が反応するよりも早く、彼は神崎を追い掛けて行ってしまう。女よりも友情を取るか……こりゃモテるわな。羨ましい。
去って行く相葉達を見送りながら、僕も自身の行動を再開させる。
少し、急ぐか……。
◆
此処で改めて説明しておくと、ABYSSの第1階層というのは、元々はABYSS構造内の転移装置のみが存在する広大な
"アカデミー"というのは、この第1階層の全域を指している。学校関連の校舎が立ち並ぶ学習区。探索者の関連施設が集った探索区。転移装置が存在する転送区。この三つのエリアによってアカデミーは構成されている。また、学習区と探索区は一般人の立ち入りを禁止しているが、転送区に至ってはその限りでは無い。政府の第一目的はABYSS内の資源採取。"塔"へと挑戦する輩は多いに越した事はないので、門戸を狭める筈がない。転移装置自体はアカデミーの物からバイパスを繋げ、各所拠点に設けられてはいるんだよね。ただ、未だ数が少ないのが困り物だ。探索者同士による混雑を緩和する為、アカデミーの装置は開放したままにするしかない。故に、転送区では学生以外のプロの探索者も散見したりするのである。
学習区から探索区へと移動して早1時間。
広い……広過ぎるぞアカデミー……!
早く目的を終えて、帰りたい。
内心で愚痴を吐きまくっていると、道の先にドーム状の施設を発見する。
「み、見付けた……!」
長かった……!
着いた先は探索区の外縁だ。基本的に外縁部にはアカデミーの廃棄場が建てられている。
何でこんな場所に来たのかと言うと――ズバリ、宝探しである。無闇矢鱈に廃品を引っ繰り返そうという訳では無い。原作知識から探し物のアテは出来ていた。
「え〜と、確かこっちだったかなぁ……?」
扉から入り、廃棄場の中を探索する僕。地面にはゴミ袋等が散乱していたが、既に
此処まで歩くのにも、理由はあるのよね。
「あ。あった」
そうこうしていると、ほい発見。
僕の目当てはコイツである。
無事見付かって、ホッとした。
このタイミングで回収出来なければ、此処にあるアクセサリーは全て
「理想
不測の事態に備えると言うのなら計画的な育成は必須だろう。だが、僕自身は飽くまでもモブの石瑠翔真であり、メインシナリオに係る様な存在じゃ無い。原作で翔真がフェードアウトするのも本人の性格に寄るものが大半で、余計な真似さえしなければそこそこ平和に生きられると踏んでいた。このまま適当に翔真をロールプレイしつつレガシオンの世界で無難に生きて行くのも悪くないと思う。
一晩置いて、考えよう。
それまでは、この指輪は嵌めないでおく。
案外、寝て覚めたら元の世界って言うパターンも有り得なくは無いからね。
むしろ、そっちの方が確率は高いかも?
能天気な事を考えつつ、僕は手に入れた指輪をポケットの中に仕舞うのだった。
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