第3話 最下位からの再出発


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[石瑠翔真いしるしょうま] LV.1

[ノービズ/★☆☆]

総合【15】

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腕力【2】

体力【4】

技量【3】

敏捷【4】

知力【1】

運命【1】

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[パーソナル・スキル]

○不眠症★★★

○あがりぐせ★☆☆

○鈍感★★★


[パッシブ・スキル]

単独行動ソロプレイ★★★

○経験値効率★☆☆

○タフネス★☆☆


[コマンド・スキル]

――――――――――



 ……総合力15かぁ。流石はモブの石瑠翔真いしるしょうま。ステータス値からも外れキャラの臭いがプンプンしているな。


 因みに、LV.1時点でのメインキャラの総合力は30が平均とされている。15と言うのは低いと思う。特に、腕力が2というのは頂けない。これじゃあ、最弱の魔物のスライムでさえ一撃じゃあ倒せないだろう。


 パーナル・スキルは――もしかしたらこれって、本体である僕に準拠じゅんきょしているのかな? 不眠症とか、あがりぐせとか、心当たりがある様な項目がズラリと並べられている。


 隣の★はスキルレベルだ。不眠症の★は三つ……スキルレベルの上限は3なので、つまりは最高レベルの不眠症という訳だ。喜んで良いのか分からないね。


 一応、説明文も読んでおこう。


○不眠症★★★

[睡眠不足によるデバフの無効。★レベルにつき+24時間の効果有り/寝付きが悪くなる]


○あがりぐせ★☆☆

[攻撃時にクリティカル率が変動する。★レベルにつき±10%変動/あがり易くなる]


○鈍感★★★

[精神操作を確率で無効。痛みによる怯みを減衰。★レベルにつき+20%上昇/鈍感になる]


 微妙なラインだけど、どれも使い物にならないという程では無いのかな? 不眠症のスキルは現実になった"レガシオン"の世界ならそこそこ活用出来るかも知れない。


 あがり癖はクリティカル変動系か。割と良くあるスキルなんだけど、防御面に係って無いのは助かるね。LV.1の状態で敵からクリティカルを貰ったら、下手すりゃソレで御陀仏! ……なんて事も有り得なくは無いからね。攻撃時のみの変動なら生かし様はあるってもんさ。


 鈍感は――これは強いな。実質デメリットゼロなんじゃない? スキルレベルもカンストしてるし、精神操作を無効っていうのは僕のスタイルとマッチしている。+60%という話だけれど、後々アクセサリーで補強すれば100%カットも余裕だろう。


 ――さて、お次はパッシブを見てみるか。


 コマンド・スキルと違って、回数制限の無い常時発動型の便利スキルだ。


 今回習得したのは、この三つ。


単独行動ソロプレイ★★★

[ソロ時、全ステータスに+補正。PT時に-補正。★レベルにつき±10%]


○経験値効率★☆☆

[獲得経験値に+補正。★レベルにつき+10%]


○タフネス★☆☆

[疲れ難くなる。★レベルで効果上昇]



 単独行動は強いね。実際、レガシオンでの僕の持ちキャラもこのスキルを所持していた。PTを組むってなるとデバフにしかならないんだけど、僕の場合はソロプレイしかした事が無かったから、その恩恵は大きかったと思う。


 経験値効率……こいつは微妙だな。10%上昇しても大して美味くはないし。まぁ、無いよりはマシってレベルだね。


 タフネスはゲームならスタミナ上昇系のスキルなんだよね。ダッシュとか緊急回避とか、そう言った行動を取るのに時間回復のスタミナゲージを消費するんだけど、コイツを付けておくとその減りが減少するんだ。ゲームが現実に置き換わった今、実感出来る様な効果だったら助かるな。



「全員、確認は済みましたか? 終わったら引き出しの中にある魔晶端末ポータルを取り出してみて下さい。電源を入れて、ユーザーズ・アプリを起動するのです」


魔晶端末ポータル……? あ。あった!」


「探索者登録ってあるけど、これを進めれば良いのかな? 名前は――あ、最初から入れてある……」


「カメラで鑑定紙をスキャンするんだってよ。これ、別人のだと反応しないのかな?」



 先生の指示に従い、思い思いに魔晶端末ポータルを操作していく生徒達。


 しかしこれ……モロ、スマホだなぁ。


 使い方で困らないから、これはこれで助かるけどね。アプリには探索者としての自分の情報を入れる事が出来る。ステータス数値とかは鑑定紙をスキャンして入力されるらしい。予め登録してある実名を参照しているからか、別人の鑑定紙はアプリから弾かれ、不正は出来ない様になっていた。


 また、アプリ内からアクセス出来るイントラネットには、学生達が自由に閲覧出来るBBSが設置されており、生徒間による雑談や情報交換。PTの募集やアイテム交換などが盛んに行われている様だった。


 メインとして目に付くのは、ABYSSの到達階層や現在レベルを用いた探索者ランキングだろう。上位の者は人気があり、掲示板には個別のファンスレッドが作られている者も存在した。



「探索者登録が終わった生徒は、そのまま1-Dの生徒表を開いて下さい。全員の準備が終わり次第、順番に自己紹介を行います」


「うげ……っ」



 思わず、うめき声が出てしまう。皆の前で自己紹介とか、コミュ症には死ぬ程ハードルが高過ぎますよ……。



「では、クラス表の順番で自己紹介を行って貰います。まずは――」


「ッ、ま、間に合ったッ!?」



 教室の扉を勢い良く開き、堂々と乱入して来たツンツン頭の男子生徒は、肩で息をしながら己の席――鳳紅羽おおとりくれはの隣へと着席する。


 アイツは――そっか。そりゃいるよな。


 D組の主人公……!


 レガシオン・センスのメインストーリーでは、プレイヤーキャラとは別に、各教室に物語の中核となる存在が居る。プレイヤーは彼等と友情を育み・協力し・支え合いながら物語を進めて行くのだ。



相葉総司あいばそうじ……残念ながら間に合ってはいません。貴方は完全に遅刻です。鑑定紙を配布するので、直ぐに自分のステータスを確認するように」


「は、はい……すいません……」



 シュン、と項垂うなだれながら影山から鑑定紙を受け取る相葉総司あいばそうじ。ドッ、という笑い声が教室の中に木霊するも、影山が咳払いを一つすると、それもすぐに収まってしまう。


 相葉総司あいばそうじ。又の名を攻略王と呼ばれる彼は、持ち前の明るさと才能でもって周囲の女性キャラを落としていく男である。超が付く程のお人好しで、今回遅刻した理由も通りすがりのお婆さんを助けたからとかいう理由だった筈。初期ステータスの総合力は50と高く、この数値はレガシオンの全キャラを含めたランキングの上位5本に入っている。


 気付いたら石瑠翔真いしるしょうまになっていた! ――という、この現状を認めた訳じゃないが、出来たら僕は相葉総司あいばそうじになりたかった……!!


 ――クソッ!! と、内心で血涙を流す。


 相葉総司あいばそうじの探索者登録が終わると、再び生徒達の自己紹介が再開される。その際に総合力上位であった相葉は1番として表示され、自己紹介の際には周囲を湧かせたりするのであった。



「2番、神崎歩かんざきあゆむ……」


「3番、東雲歌音しののめかのんです。宜しくお願いします!」



 クール系を気取った銀髪ロン毛のイケメン男と、大きなリボンが特徴のほわっとした少女が自己紹介をする。彼等も一応1-Dのメインキャラだ。立ち位置としては相葉の親友と癒し系ヒロインと言った所だろうか?



「4番、鳳紅羽おおとりくれはです。……よろしく」



 若干恥ずかしそうに、ツンケンした自己紹介をしたのは鳳紅羽おおとりくれは。ゲームでは彼女を入れた上位四名が相葉総司あいばそうじの初期PTとなる。


 アタッカーに紅羽と神崎。

 タンクに相葉。

 ヒーラーが東雲という構成だ。



「次、25番!」



 そうこうしていると、最後の順番が回って来た。1-D最下位クラスの総合力最下位。まごう事なきクソ雑魚野郎……つまりは、僕である。



「ははははい! 25番! 石りゅ翔真れしゅっ!」



 ――噛んだ。

 ――それも盛大に。


 パーソナル・スキルのあがりぐせが悪さをしたのかなぁ? ……そう、何かに責任を転嫁しなければ、やっていけない程の辛い沈黙が場を支配していた。


 し、しにたい……!


 僕が思った、その時だ。



「わはははははは! な、何だこいつァー!?」


「吃り過ぎだっつーの!」


「1-Dの最下位って事は……学年最下位!?」


「低すぎますわ……」


「入学初日で有名人かー」


「相葉とは別の意味でだけどな?」



『ギャハハハハハハ!!』



 降って湧いた生徒達の笑い声は、先生が注意してからも細々と続くのだった。



「い、生き地獄……っ」



 助けを求める様に紅羽の方を向いてみると、彼女はさっそく他人の振りをしているし……僕は早々にアカデミーでの学園ライフをしくじるのであった。

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