第2話 初登校は軽蔑の薫り
未だ混乱の最中にある状況だけれど、それでも分かった事はある。この身体の持ち主の名前は"
初めはピンと来なかったけれど、僕はその名前に聞き覚えがあった。
VRMMOレガシオン・センス。そのゲーム内に出てくるキャラクター・
役割的にはモブと言っても遜色は無いだろう。シナリオイベントで序盤にプレイヤー達と敵対。やられてフェードアウトする役割だ。故に、僕も大して記憶してはいなかった。
彼の生家である
レガシオン・センスの舞台と言うのは、現代日本をベースとしている。良くあるファンタジー調の世界観ではなく、実在の日本の都市が出て来るのだ。歴史の方は従来のものとは違っており、現代でも武家や朝廷などが残っていて、政府に対して高い影響力を及ぼしてたりする。言うなれば歴史改変の行われたパラレルワールドという奴だ。歴史考証の正確さとかは良く分からないけれど、単純にグラフィックの造り込みが凄く、その完成度の高さからシミュレーターとしても人気を博した作品なのだ。
ゲーム中には、当然バトル要素も存在する。各国に出現した"
僕自身はレガシオンの中ではトッププレイヤーと呼ばれる存在で、世界ランキング3位のランカーとしてこのゲームを遊んでいたんだ。ただ、
彼女が許嫁という設定も――当然、ね。
「……早く行くわよ」
「あ、あぁ」
刺々しい態度で通学路の先を歩くのは、
……まぁ、僕が"
許嫁として調子に乗ったセクハラ三昧を仕出かす
己の中の自意識として、未だ
「……翔真もD組なのよね……?」
「へ? な、何?」
思い出したかの様に呟く
流れる空気は最悪だ。
僕は彼女の事を努めて意識しない様にして、今向かっている学校について思いを巡らせた。
政府主導で設立された教育機関・通称アカデミー。其処は
しかし、D組か。分かっちゃいたが最下位組だな。レガシオンでの組分けというのは、プレイヤー自身が最初に選択する事の出来る要素で、好みのNPC達の陣営へと分かれる事が出来るのだ。D組というのはその中でも一番成績が悪い。高校からの中途編入組がD組に所属するっていう設定なんだけど、翔真である僕には選択権は無く、D組に所属する事が決定していたらしい。
紅羽と一緒……自分の事を害虫としか思っていない女子と一緒の組かぁ……。
出そうになる溜息を押し殺しながら、僕はアカデミーまでの道のりを微妙な空気で歩いて行くのであった。
◆
家を出てからずっと遠目に見えていた半透明な巨大な塔。中心部から上に向かう程に透度が増し、空の色と同化したソレは、人類に富と名誉を与える混沌の
敷地内には食堂や学生寮。
生徒主導の運営と言うと聞こえは良いけれど、その実態は権力者の親を持つ生徒会に、教職員が逆らえなくなっただけなのよね。此処ら辺は割とツッコミ所の多い設定だけど、元がゲームなので深くは考えまい。
「全員、着席しましたか? 今から鑑定紙を配ります。これは貴方達の現在ステータスを簡易的に写し出す紙となります。探索経験の無い貴方達のLVは1と表示される筈ですが、それは皆さんも一緒なので恥じる事はありません。ステータスの初期数値・所持スキルを確認しましたら、そのまま待機していて下さい」
1-D教室。
教壇にはピシッとした黒スーツ姿の生真面目そうな女教師が立っていた。
教室内の生徒数は25名。
欠席が見当たらない所を見るにこれがD組の全員なのだろう。想像よりも少ないと思うのは、その殆どがNPCで構成されており、プレイヤーキャラと思しき生徒が存在しない所為なのかも知れない。
……この世界には、プレイヤーは存在しないのだろうか? それとも僕と同じ様に既存のNPCの中に入ってしまっているのか? これは追々検討すべき事項だと思う。
最後尾の席へと配置された僕は、前の席より回されて来た鑑定紙を受け取り、その紙面へと視線を落とす。
「鑑定紙が行き渡ったら、今度はソレを"使用"してみて下さい。何処でも良いので紙に触れ、使うという事を意識するのです」
思ったよりも漠然としている。ゲームなら決定ボタンを押せば済む話だけど、現実として落とし込むと、こういったやり方になるのかな?
紙に触り、ひたすら"使用"と念じただけで、紙面に文字が浮かび上がってくる。思考から発動までのレスポンスが思ったよりも早い。
浮かび上がった文字は日本語である。言語は使用者を基準とするのだろうか? 早速、書かれたステータスを確認してみよう。
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