99 初詣

 白い息が出る寒い天気、二人は手を繋いで近所にある神社に向かっていた。

 なんか足取りが軽い、二人で初詣に行くからか?


「…………」


 それにさっきお母さんにお団子ヘア作ってもらって、家にいる時よりもテンションが上がっている。俺的に、あいのお団子ヘアは他の髪型より可愛いと思う。着物に似合うし、昔から可愛かったあいをもっと可愛く見せるような気がしたから……。


「…………っ!」

「あい! 大丈夫?」

「う、うん……」


 でも、歩きづらいのは仕方ないか。


「手繋いでよかった。ふふっ」

「そうだな。それより、寒くないのか……? 雪は止んだけど、夜は寒いんだから」

「いいよ! 私、強いから!」

「そっか」


 十五分くらい歩いた俺たちは、神社の前に到着する。

 きっと今日は人が多いはずだと思っていたのに……、そんなにいなんだ……。


「りおくん、りおくん!! これあげるから!」

「うん? 甘酒……? どこから……」

「あっちで!」

「へえ……、あいのは?」

「私は飲んじゃった! 美味しかったよ!」

「は、早いな。それにあい、テンション高い……」

「うん!! なんか、ドキドキして……。居ても立っても居られないよ!」

「そ、そうなのか? あいは相変わらず、可愛いな〜」

「へへっ」


 寒さに頬が赤くなったあいが、俺を見て笑みを浮かべている。

 俺は……今までこんな人を諦めようとしたのか、ずっと直人が上手くいくように応援しただけで、自分の気持ちを隠していた。俺がもうちょっと冷静になったら、あんなことは起こらなかったはずなのに。今更だけど、あいともっと……たくさんの思い出を作りたかった。初めて手を繋いだあの時から、付き合ってから手を繋ぐ今まで、俺はあいのことを忘れたことがない。


 ずっと、あいだけだった。


「りおくん! 参拝しよう!」

「うん……!」


 願い事か、そんなこと来る前から決めていた。

 これからずっと……。


「りおくんと、ずっと一緒にいられますように…………」

「ん……?」

「あい……、聞こえるぞ」

「あっ! そ、そうだったの? ええ……知らないうちに漏れちゃった……」

「う、うん……」


 俺と同じことか、ずっと一緒にいられますようにって。

 もし直人がいなかったら、今までずっと一緒だったはず……。そしてあいと過ごす時間が増えれば増えるほど、他の人たちと話すチャンスが減ってしまうから、あの時は本当に死ぬなるほどつらかった……。


 でも、今からずっと一緒……。

 そうだ。あいと一緒に暮らしてるから、これでいいんだよ。


 何かあったらすぐ相手に話すこと、俺たちはそんな約束をした。

 そして二人の間に二度と変な誤解が生まれないように、あいがいくつかのルールを提案し、俺がそれに同意した。


 てか、俺たち夫婦かよ……。


「りおくん、おみくじどー?」

「そうだな。あい、年越しそば食べる時におみくじ引きたい!って言ったから。行こうか?」

「うん! 運を試してみたいからね!」

「いいと思う!」

「やった! 私、大吉だよ! なんでも上手くいけるって!」

「まじ……? じゃあ、俺もぉ……」


 凶。

 おい、まじかよ。


「…………りおくん、これ……何?」

「知らない……、聞くな」

「凶! 初めて見たよ!」

「人の凶を見て喜ぶなぁ……」

「ひひっ。でも、私大吉だから心配しなくてもいいよ! 運! 分けてあげる!」

「そっか、あいが大吉だからいいかな? ちょっと悲しいけど……」

「気にしなくてもいいよ! あははっ」


 そして帰り道、人けのない道の真ん中で俺に抱きつくあい。


「ふふっ♡」

「全く……、家でやってもいいだろ?」

「嫌です〜。あっ……、雪が降る! りおくん!」

「そうだな」


 急に雪が降り始めた。


「おおっ! 寒っ!」

「風も強くなってきたな……」


 空を眺めているあいを、後ろからじっと見つめていた。

 なんだろう……。この気持ちは……。

 多分、それを言いたかったかもしれない。


「あい」

「うん? どうしたの? りおくん……」

「ううん……。俺さ、あいの幼馴染で今は彼氏だけどさ」

「うん」

「まだ、あいのこと全部知ってるわけじゃないから……。えっと……、ここに来て半年くらい経ったよな? 長くも短くもない時間だけど……、二人の間にいろいろあって……、その……」

「うん……? 何が言いたいの?」

「あのさ!」


 なんで、俺はこんな寒い天気に恥ずかしいことを考えてるんだろう……。

 あいのせいだ。これは絶対あいのせいだと思う……。映画見過ぎ。


 それに、せっかく綺麗な着物を着てるし……。

 俺もあのカッコいい俳優みたいに、彼氏としてカッコいいセリフをあいに言ってあげたかった。


 今、はっきり言っておかないとな。

 二人のためだ。


「どうしたの? いきなり……」

「あいのこと、絶対幸せにするから! 高校を卒業して、一緒に大学行って、結婚しよう! そして、幸せな家庭を作ろう! あいがずっと望んでいたそんな穏やかな家庭を、二人で作ろう!! ままごとをやってる時のあいは、ずっとそれを欲しがっていたから。だから、約束する! それを、はっきり言っておきたかった……」


 どうしてあいがままごとに執着していたのか。

 どうして俺のそばにいたかったのか。

 今なら分かる。

 

 あの時の俺は、あいのことを知らなかったから。


「…………っ」


 だから、あいの夢を……。

 いや、俺たちの夢を……叶えよう。


「私もだよ! これからもずっとよろしくね! りおくん!!」

「おう!!」


 まだ、俺たちの時間はたくさん残っている。

 今から二人っきりの大切な思い出を作ろう。


「愛してる……。あい」


 the end.

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