98 サプライズしたい②

 年末のお出かけ。

 外の寒い天気に体が冷えるかもしれないから、マフラーと手袋を用意して出かける準備をしていた。てか、俺がこうやってあげないと、あいはぼーっとして何もしようとしないからな……。なぜ、俺がいる時は何もしようとしないんだろう。全然分からない。


 この甘えん坊……。


「りおくん、今日初詣に行くよね?」

「そうだけど? どうした……?」

「ううん……。なんでもない! 私、初めてだからちょっと緊張したかも……!」

「なんだよ〜。一応、うちに行こう……」

「うん!」


 電車に乗った二人は、雪が降る景色を眺めていた。


「雪は好き……」

「うん。あいは幼い頃から雪好きだったよな?」

「うん。白くて綺麗だからね」

「そして……今日が終わったら、またあいと過ごす新しい一年が始まる」

「そうだね。ドキドキする」


 ……


「あれ? あいちゃん……?」


 あいをびっくりさせるつもりだったけど、びっくりしたのは着物を用意していたお母さんだった。今日は俺一人でここにくる予定だったから、お母さんもゆっくりしていたはず。今更……、着物を隠しても、もうバレバレだからさ。


「お邪魔しまーす! 今日はりおくんについてきました!」

「う、うん……」


 こっちを睨むお母さんから目を逸らしてしまう。

 なんか、ごめんなさい。


「あれ……? 北川さんも今日初詣に行くんですか?」

「これは……あいちゃんのだよ?」

「えっ? 私の……着物ですか?」

「まあ、初詣に行ったことないって言ったからさ。だから、お母さんと話してあいの着物を用意しておいたぞ。実は今日こっそり持って行くつもりだったけど……、あいにバレちゃって……仕方がなかった」

「そうだね。あいちゃんを一人にさせるのは無理だよね。りおくん」

「何……? もしかして、サプライズだったの?」

「う、うん。そんな感じ……」


 サプライズもいいけど、あいを喜ばせたいのが目的だったから。

 そういえば、お母さん……。

 中学生の時に「りおくんが可愛い女の子だったら、綺麗な着物プレゼントしたはずなのにね〜」とか冗談言ってたよな。


 もちろん、それはあいにプレゼントする着物だったけど、今までタイミングが合わなかったからな。そしてお母さんはずっと忙しい霞沢さんの代わりに、いろいろ……あいが寂しさを感じないように努力してきた。その一つが、友達の娘を家族の一員として受け入れること。


「着てみる? あいちゃん」

「い、いいですか?」


 お母さんが着るのを手伝う間、俺はお茶を淹れた。

 てか、あいの着物姿……俺まだ見たことないよな……?

 急にドキドキしてきた。絶対、可愛いはず……。


「ど、どー? りおくん! 似合う……かな?」

「…………」

「やっぱり、へ、変……?」

「いや、最高だ。あい……、めっちゃ可愛い」

「そう? 本当に?」

「うん」

「どう? あいちゃん、気に入った?」

「は、はい! ありがとうございます! 北川さん!!」

「よかった〜」


 へえ……。あいは私服姿もめっちゃ可愛かったけど、着物姿も可愛いんだ。

 何を着ても可愛いってことか、やっぱり俺の彼女は最高だな……!

 可愛すぎて、涙が出てしまう。


「りおくぅ———っ!」

「あい……! 気をつけてくれ……」

「おっ……! 着物……着ていたのをうっかりしちゃったぁ……。えへへっ」


 どうせ、嬉しくて俺に抱きつくつもりだったよな……。

 本当に……可愛いんだから。


「はい〜。二人とも、こっち見て〜」

「えっ?」


 後ろから俺たちの写真を撮るお母さん、また一つ思い出が増えた。


「今帰るのもあれだし、今日はここで一緒に年越しそば食べない?」

「そうだな。今日はここで……、あい?」

「う、うん!」

「な、なんで……顔が真っ赤になってるのか聞いてみてもいい……?」

「えっ? そうなの? べ、別に何も……」


 もしかして、鏡に映った自分の姿が気に入ったか……?

 ちらっと鏡の方を見るあいだった。


「ぷっ、可愛いよ。あい……、写真撮ってあげようか?」

「あっ……! あ、ありがとう。りおくん……」

「ふーん。そうだったんだ〜。あいちゃんの顔、真っ赤で可愛いね。こっち見て!」

「えっ? 北川さん……? カ、カメラ!?」


 先まで持っていたスマホが、いつの間にかカメラになったしまった。


「あいの写真、たくさん撮っておかないと!」

「えっ……? そうなの?」

「そうだよ〜。あいちゃん、笑って!」

「は、はい……!」


 笑みを浮かべるあいとニヤニヤするお母さん。


 なんか、あいのことからかってるような気がして悪いけど……。

 可愛いのは写真で残すべきだからな……。

 そして、俺は幼い頃からあいの笑顔が好きだった。とはいえ、小学生の時はそんなあいが面倒臭かったよな……。俺も友達と遊びたかったのに……、いつも「一緒に遊ぼう」って言うから。でも、成長すると、あいの可愛いところがどんどん見えてくるから、俺に選択肢はなかった。可愛いあいを選ぶのは当然だよな……。


 そう、あいは可愛い……。


「は、恥ずかしい……! りおくん……」

「はい〜。お疲れ、ハグしようか? あい」

「うん!」

「あらら〜。二人とも本当に仲がいいよね〜」

「私、りおくんのこと大好きです!」

「りおくんも可愛いあいちゃんが彼女だから嬉しいよね?」

「…………あ、急に恥ずかしくなった」

「はい!」

「なんで、あいが答えるんだよぉ……」


 そう言ってから、ぎゅっとりおを抱きしめるあい。


「……ふふっ♡」

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