97 サプライズしたい

 ふわふわで気持ちいい布団の中、いつの間にか今年も終わっていく。

 外には大雪が降っていて、出かけるのもできないひどい天気。

 俺は一時間前に起きたけど、まだ寝ているあいのためにずっと布団の中で待っていた。その寝顔を見つめるのも楽しいし、一応俺も男だから……寝ている彼女を抱きしめてあげたかった。気持ちいい肌の感触とその匂いに、ちょっとだけ目を閉じる。


 あいの体、めっちゃ暖かいから癖になってしまう……。


「朝から甘えるなんて、可愛いね。りおくん……」

「いつ起きたんだ……」

「私のこと、ぎゅっと抱きしめた時かな?」

「起きたら早く言ってよ……」

「りおくんに抱きしめられるのが好きだから、つい……」

「バカ」

「私、おはようのキスがしたい!」


 どう見ても、甘えるのはあいの方だろ……。

 疲れたはずなのに、朝からキスをするなんて……元気だな。

 あいの黒くて長い髪の毛と薄桃色の勝負下着……、昨日も彼女が満足するまでベッドの軋む音は止まらなかった。てか、ほぼ毎日見てるけど……、やっぱりその格好には慣れないな……。それに俺がプレゼントしたネックレスもつけてるし、エロい!


 本当に、あいは……やばい女の子だ。


「どうしよう……」

「う、うん? 何かあった? あい」

「私……、この生活好きすぎてたまらない……! うう———っ! りおくんも好きで、ネックレスも好きで、この状況も、そして私たちの関係も……全部! 大好き! これは夢とかじゃないよね……? りおくん」

「今更……、そんなことを言うのかよ。バーカ」


 十二月三十一日、俺たちは布団の中で一時間くらいのんびりしていた。


「ああ……、布団から出たくない! 外寒いし、りおくんの体気持ちいいから離れたくないし……。どうしよう、私どんどんダメ人間になっちゃう……」

「じゃあ、俺は先に朝ご飯作るから……。あいはどうする?」

「りおくんが部屋を出るなら、私も行く…………」

「服、持ってくるから待ってて」

「うん。ふふっ、やっぱり私のキスマーク似合うね♡」

「うるさい……!」


 俺の彼女は独占欲と性欲が普通の女の子より強くて……、毎朝鏡を見るとなんか怖くなってしまう。首と胸のところにあいがつけてくれたエロいキスマークがたくさん残っていて、これを見る時のあいは満面の笑みを浮かべる。本当に可愛い顔で笑うから、俺も仕方がなかった。


 気持ちいいけど、猛獣だったよな。あい。


「昨日着たのは、汗の臭いがするから新しいの持ってきた」

「うん!」


 両腕を広げるあい。


「…………何?」

「ふふっ♡」

「わ、分かったよ……」


 もうちょっとで高校三年生になるのに、自分で着れないなんて……。

 それが俺の彼女だった。


「やっぱり、りおくんと同じ部屋着が好き♡!! 私ね。また買いたいから! りおくんも一緒に行こうよ〜」

「また……? この前にも、たくさん買っただろ?」

「知らない! 私は買いたい! 彼女に従いなさい!」

「はいはい……。それより、ちょっと離れてくれない?」

「嫌よ! 離れたくないから、私もキッチンに連れてて!」

「…………」


 そのままキッチンで朝ご飯を作る……。

 もちろん、あいは俺に抱きつくだけ、「連れてて!」の意味はこういうことだ。家にいる時は俺から離れようとしないし、ずっとくっついているあい。川に落ちる前まではちょっとだけ余裕があった気がするけど……、それがあってからほとんどの時間をあいと一緒に過ごしている。


 仕方ないな。

 俺のせいだから、何も言えなかった……。


「りおくん、りおくん……! あーん」

「なんだ……?」

「あーん」

「あい、野菜はちゃんと食べないと……」

「あーん!」

「…………」


 この甘えん坊が……!


「ふふっ♡」

「そうだ。今日、三十一日だけど。予定ないのか? あい」

「うん。ないよ? 京子たちも家族と過ごす予定って言ったからね……」

「そっか」

「もしかして、今日は一人になりたいってわけ?」


 頬をつねるあいが怒り出す。


「ち、違う! 友達と遊んだ方がいいんじゃないかなと思っただけだ!」

「そ、それは……私の存在が邪魔ってこと……!」

「人の話を聞け……! そう言う意味じゃねぇ……!」

「そんなこと言わないで、私は友達のことも好きだけど……。りおくんのことがもっと好きだから……! そんな風に言われると傷つく……」

「あっ、ごめん。言い方が悪かった。俺もあいと一緒にいるのは好きだけど、今日はお母さんに呼び出されて、家に行ってこないと……」

「なんで……?」


 ううん……。

 実はあいに着物をプレゼントしたかったから、あいが井原たちと遊んでるうちに早く行ってくるつもりだったけど……。


 今日、みんな忙しいのかよ。

 その前に、あいを一人にさせるのは無理だよな。寝る時も、俺がそばにいないと全然眠れないって言ってたし。本当に俺がいないと何もできないのかよぉ。困るな。俺はネックレスもいいと思うけど、あいが初詣に行ったことないって言ったから……。当然、着物も持ってないと思って、こっそりお母さんとサプライズを準備していたのに……。


 これじゃ、一緒に行きたいって言うかもしれない。

 やばい、なんとかしないと……。


「りおくんと一緒に行くのはダメ……?」


 やっぱり……!!


 今一緒に行ったらお母さんと準備したサプライズが……、頭がくらくらする。

 どうしたらいいんだ……?

 一応、聞いてみよう!


「一時間! すぐ帰ってくるから! 一時間だけ……! 頼む!」

「りおくん……、私を一人にさせないで……」


 くっそ、可愛い!


「一緒に行こう……」

「わーい! 今から行くの?」

「う、うん……」

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