96 ちょっと羨ましいかも

 ちょっと自慢話になるかもしれないけど、私は自分のことをけっこう可愛いと思っている。今まで知らない人たちにたくさん告られて、私に嫉妬する女の子もけっこういたからね……。だから、きっと北川くんの恋人になれると思っていたのに……彼のそばには強敵がいた。


 あいちゃんは他の女の子より可愛いし、レベルが違うからね。

 例えば…………。


「京子、おはよう」

「おはよう……」

「どうしたの?」

「あいちゃん……。聞きたいことあるけど、いい?」

「う、うん……」

「普段……、何食べるの?」

「りおくんが作ってくれた料理……かな?」

「それだけ?」

「うん……」


 朝から変な質問をしてるけど、この女……初めて出会った時より大きくなった。

 どうして? 私とショッピングした時はあんまり食べないイメージだったのに、一体何を食べればそんなに大きくなるの……? 身長も高いし、足も長いし、それに体も細いんだから……、チビの私と違ってムカつく……! 本当に理想の女の子、そのものだった。


「京子……? どうしたの?」

「さ、触ってみてもいい?」

「な、何を……!?」


 私は下駄箱の前で堂々とあいちゃんの胸を揉んだ。

 どうして、あいちゃん一人だけ……こんなに……。


「きょ、京子……? な、何してるの……? えっ? ちょっと……もうすぐりおくんが来るからや、やめて……?」

「あ、そうだ。熱下がったからさ、今日一緒に…………。い、井原! そこで……何をしてるんだ……?」

「…………あいちゃん大嫌い!! 一人だけそんなに大きくなるのは反則だよ!」

「そ、そっちなの?」

「私も、私も……あいちゃんみたいに……なりたいのにぃ……」

「…………井原、大丈夫? なんか……ごめん」

「違う、それじゃない!」

「…………え?」


 中学生の時からこの体型だったし……。

 私もいつかは大きくなると思っていたのに、やっぱりダメなのかな……?

 周りに強敵しかいないから悲しすぎる……、理不尽!


「どうして、私だけ……!」


 ……


 そして、昼休み。

 あの二人とお昼を食べることになった。


「京子……? 何かあったの?」

「な、何も……」

「今朝、急に変なこと言うから……。もしかして……京子に何かあったのかなと思ってね」

「…………っ」

「そうだ。井原は……、そんなキャラじゃなかった……と思う」


 そう、私も……! こんなキャラじゃなかったよ……!

 でも……! あの二人が!! 嫌なことを言うから!!


「…………」


 それはクリスマスイブのこと。

 私はショッピングが好きだから、クリスマスイブにも吉乃ちゃんやあやかちゃんと一緒に歩き回っていた。明日はクリスマスだし……。みんなと遊園地に行く予定だから、可愛い洋服をたくさん買うつもりだったけど、問題はそれじゃなかった。


「あ、あのね……!」


 うじうじしている吉乃ちゃんが小さい声で話した。


「あっ……。私、洋服を買う前にちょっと下着……買ってきてもいい……? 一人ですぐ買ってくるから」

「えっ? 吉乃ちゃん……、また買うの?」

「なんか……、うん。


 そんなこと……、聞きたくなかったぁ……。


「じゃあ、一緒に行こう! 吉乃ちゃんの下着、私が選んであげるから!」

「あ、あやかちゃん……。それ、は、ちょっと……恥ずかしいけど……?」

「ええ……! この前に私の下着選んでくれたじゃん。行こう!」

「そ、それは……!」


 ただ、吉乃ちゃんの下着姿が見たいだけでしょ! あやかちゃんは……!


「わ、分かった……」


 そうだ。みんな戦闘力が高いから……、私に言えることは何もない。

 悲しいけど、壁が感じられる……。


「京子ちゃんも行こう〜!」

「う、うん……」


 この状況……、前にもあったよね。

 少なくともあいちゃんは私の味方になってくれると思ってたのに……、「これ、どう?」って言われた時の破壊力をいまだに覚えている。しかも、勝負下着っぽいのを買ってたから……! 私もそんなセクシーな下着を買ってみたいんだよぉ……!


 なんで、あの三人だけ大きいのか分かんない!


「へえ……、吉乃ちゃんすごい! また大きくなったんだ! 京子ちゃん! 見て見て!」

「ええ……! や、やめてよ。あやかちゃん……」

「私はいい……。それ似合うから……、吉乃ちゃん」


 羨ましい……。


「きょ、京子ちゃん……! そ、その……。京子ちゃんもちゃんとあるから! 心配しなくてもいいよ!」

「…………ありがと……」


 さりげなく、京子の胸に釘を打つ吉乃だった。


「…………」


 誰も悪くないのに、なぜか涙が出てしまう。


「京子? どうしたの?」

「ううん……。なんでもない」

「もしかして、胸のことで悩んだり……」

「けほっ!」


 飲んでいたお茶を落とすりおと顔が真っ赤になる京子。


「ううっ! そうだよ! あいちゃんのそのでかいのが悪いんだよ!! あー! もう知らなーい!」

「えっ? ご、ごめん! 京子……!」


 そう! そのでかいのが一番悪い!

 あやかちゃんも吉乃ちゃんも……!


「り、りおくん……? りおくん! 助けて! りおくん……!?」

「逃げ道はないからね! あいちゃん!!」

「い、井原……。一応お、落ち着いて……」

「北川くん……? 空気を読んで……」

「す、すみません。無視してください……」

「りおくん? うっ……、えっ? 京子? はあ……っ、ちょっとぉ……!!」

「声、エロいよ! あいちゃん!」

「えっ? だって……!」

「うるさい!!」


 あいちゃんにどれだけ腹いせをしても……、私の涙は止まらなかった。

 どうして、みんなそんなに大きいの……?


「きっと……、京子にもあるよ? あるはずだよ……?」

「あいちゃんは私の悲しみを知らない!」

「きょ、京子……っ」


 昼休みが終わるまで、私はあいちゃんの胸を揉んでいた。

 どうせ、手に入れないものなら、みんなまな板になってほしい……! それこそ、平等な世界。

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