94 奇跡のないクリスマス

 十二月って本当にイベントたくさんあるよな……。

 あいの誕生日とクリスマス、それにもうちょっとで新年……。昨年までは一人で過ごす意味のない祝日だったけど、今年は忙しくなりそうだ。そばにいるあいがクリスマスに浮かれているからな。ずっと「ねえ、クリスマスに何するの?」とか「ねえ、クリスマスにどこ行くの?」とか「ねえ、今年はホワイトクリスマスかな……?」とか言ってるし……。あいは今年のクリスマスをすごく楽しみにしていた。


 そして、今はクリスマスイブの夜。

 イブの……夜か。


「明日じゃん……!」

「うん? りおくん、どうした?」

「な、なんでもない……」

「ふーん。ねえ! 知ってる? クリスマスイブには奇跡が起こるって……!」

「ど、どんな奇跡?」

「好きな人と結ばれる可能性が高いって!」

「てか、俺たち付き合ってるんだろ?」

「ちなみに! 付き合ったカップルはつなが———っ!」

「変なこと言わないで大人しくクッキー食べろ……!」


 あいがそんな人だったのはあの時も知らなかった……。

 どうして、いつもそんなことをするんだよぉ……! 俺さ、毎日毎日……。あいにやられっぱなしだから、たまには俺の気持ちを理解してほしかった。一日に三回はさすがにひどくない……? 好きだからやりたいってことくらい俺も知ってるけど、それでも……毎日エッチなことばかりじゃ頭がおかしくなるんだよ!


 恥ずかしいけど、最近……腰が痛くなってきた。


「…………」


 寝る時にいつも襲われてるからな……。


「家にいる時はネックレス外してもいいんじゃね?」

「ダーメ! これ! 大切な物だから……、外すのは寝る時だけ!」

「そ、そっか……」


 平和そのもの。

 そして明日はクリスマスだから、井原たちと遊園地に行くことにした。

 てか、早く寝ないとまた寝坊しそうだ……。


「りおくん、チュー……して」

「お風呂入った時にやっただろ……!」

「今、チューしてくれたら……。いいことが起こります!」

「あのさ……あい」

「うん!」

「俺の首……、あいが見てもひどくない?」

「…………」


 昨日は「明日、クリスマスイブだから……! りおくんとやりたい」って、そう言いながら俺の首を噛んだ。俺と一緒にいるのはワンちゃんじゃなくて、彼女のあいなのにな……。最近、よく俺の首を噛むから……もう癖になったかもしれない。噛まれる俺と違って、あいは気持ちよさそうな顔をしていたから止めなかった。


 そして朝起きると、真っ赤なキスマークと噛み跡に気づく。

 あいの愛がすごい。


「そ、それは……私の愛情表現だからね! き、気にしないで……!」

「学校に行くと、みんなにバレるから心配だぞ……。俺は」

「ひん…………。ごめん……。私は……ただ」

「怒ってないし……、そんな顔するな」

「でも、似合うし……♡」

「俺……あいの奴隷みたいな……。そういう……」

「うん。それ……! 多分、それ……♡」

「…………奴隷」

「…………」


 袖を掴むあいが目を閉じた。


「あい、最近エッチなことばかりだぞ……」

「女の子はそういうのが好きだからね〜」

「…………」


 どう見ても、キスしてほしいって顔だな。

 なんか、急に知りたくなった。

 首を噛むとどんな気分になるのか、俺は一度もやったことないから……ちょっとだけ試してみようか……?

 あいも初中やってるし、やってもいいよな。


「…………」


 あいの白い首を……、一口……。


「ひっ……♡!」

「な、なんだよ……。そのエロい声は……!」

「な、なんでもない……! それより! 私はチューしてって言ったじゃん!」

「なんか、いたずらがしたくなってさ……。ふふっ」

「むっ……!」


 ええ……、これけっこう面白いな。

 今まであいにやられっぱなしだったから、こういうのも悪くないと思う。

 そして、すぐあいとキスをした。


「…………っ」

「…………どうした?」

「りおくん、部屋! 行こう!」

「部屋……に行くにはちょっと早いんじゃないかな……? まだ十一時だけど……」

「夜の十一時は寝る時間だからね! 早く!」

「…………」

「早く!」


 今日は……。今日だけは絶対あいにやられたくなかった俺は、精一杯その場から逃げようとした。全力で走ってみたけど、うちに逃げ場はなかったことをうっかりしていた。このままじゃ……、またあいに食べられてしまう。


 どうしよう……。


「りおくん〜? 早くこっち来て〜。何もしないから〜♪」

「そ、そんな優しい声で言っても無駄だぞ! 俺は騙されないから……!」

「ええ〜。それはひど〜い……。今日は我慢するからね! 私も疲れたし、一緒に寝よう。寝るだけだよ? りおくん〜。約束する!」


 怖くて、つい倉庫として使っている部屋に隠れてしまった。

 俺にも……一日くらい休む権利があるから!

 でも、こうなった時点ですでに権利はなくなったと思う。それより、普通のカップルも毎日やってるのか……? 聞いたことないから分からないな。幼い頃のあいは今より純粋で、いつも「りおくん! りおくん! 一緒に遊ぼう!」ってこんなことを言うイメージだったのに……! どうして、こうなってしまったんだよ……。


 俺のあいはどこに……。


「りおくん〜。見〜っけ」

「うわっ!!」

「私だよ〜? そんなにびっくりしなくてもいいじゃん〜♡」

「今日は……休みたいです……! 勘弁してください……」

「へへへっ、そんなこと……私が認めるわけないでしょ?」

「……で、ですよね」

「知ってるくせに♡」

「う、うん……」


 多分……、一箱全部使ったと思う……。

 また……、やられっぱなし。


 ……


 深夜の一時、すやすやと寝ていたあいが先に起きる。

 そのままぼーっとしていた。


「ううん……。暑い……、これ邪魔……!」


 布団を床に投げた後、すぐりおに抱きつくあいだった。


「りおくん……あったかーい♡」

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