93 プレゼントは何がいい?②
「あいちゃん、誕生日! おめでとー!!」
予定通り、あいの誕生日パーティーはうちで行うようになった。
こんな誕生日は俺もあいも初めてで、少しテンションが上がっている。
てか、女の子って本当に甘いもの好きだな……。別に構わないけど、甘いものばっかりじゃ……太るんじゃないのか? あいも、そしてあの三人も楽しみにしてるから言えないし、俺は沈黙した。一応、あいの好きなものは全部用意したけど、やはり全員女の子なのがちょっと引っかかるな……。
なんだよ……。この距離感は……!
「りおくん! りおくん……!」
「うん? 何か足りないのか?」
「ううん! ここ! 座って!」
「えっ? いいよ。今日の主人公はあいだろ?」
「ダメ……! りおくんがいないと、誕生日意味ないんだから!」
「わ、分かった……」
俺のそばで、ろうそくを吹き消すあい。
ちらっと横顔を見た時、幼い頃と同じ顔をしていてめっちゃ可愛かった。初めてろうそくを吹き消す時も俺がそばにいたから、その顔を見ればすぐ分かる。それにみんなの前で少し照れてるけど、俺以外の人に「おめでとう」って言われたことないから仕方がないか。
可愛いな。
「…………うぅ……」
「どうした? あい?」
「なんか、今すっごく嬉しくて涙出ちゃうよぉ……。りおくん……」
「あはははっ、あいちゃんは本当に可愛いね」
「そうだね。吉乃ちゃんもたまにそんな顔をするけど、あいちゃんの方がもっと照れてて、可愛いよ」
小林のそばでこくりこくりと頷く水瀬。
「えっ……? 吉乃……それに肯定しないで……!」
「へへへっ。でも、あいちゃん意外と可愛いし……。私、ずっと怖い人だと思ってたよ」
「…………そ、そんなわけないでしょ!」
今まであの三人にどんなイメージだったんだ……? あい。
ふと、転校してきた時のことを思い出す。
一人の時はずっと無表情だったし……、明るくなるのは俺の前にいる時だけ。
そっか。ここに来てから、ずっと複雑な表情をしていたよな……。あの三人に冷たい印象を与えたのも仕方がない。来る前まで直人とあんなことあったし、そうならない方がおかしいと思う。まあ、今は全部終わったからいいけどさ。
「ケーキ! 美味しい〜」
「りおくんは食べないの?」
「俺はいい、後で食べるから。あっ、飲み物持ってくるのを忘れた」
「私、手伝うから!」
「いいよ。みんなと楽しんでくれ、誕生日だろ?」
「うん! ありがと!」
あいが好きなオレンジジュース……。
そして残りの三人にはコーヒーと紅茶と……、アップルジュース……これでいいかな?
「グラス、どこ?」
「水瀬……? あっ、一人でできるからいいよ」
「ううん、手伝うよ。私、人が多いところはちょっと苦手だから……」
「そっか、分かった。そういえば、この前のことだけど、ありがとう。水瀬」
「いいよ……。自業自得だから」
「だよな……。お母さんもこの間、あれで忙しかったし。どうなったのか聞いてみても、りおくんは知らなくていいって答えるだけだからさ。ちょっと気になる」
「今頃、少年刑務所の中にいるんじゃないかな?」
「えっ? そうか?」
「うん、私ね。すぐ直人くんを刑務所にぶち込めないと、西崎さんの名誉を失墜させることもできますよ〜って言っちゃった。そして、西崎さんは昔から名誉を重んじる人だったから……、結果はこれ。ほら!」
西崎さんからのメッセージ……?
親として直人が自分の間違いを認めてほしかったけど、反省すらしない姿に水瀬が送った証拠をまとめて罪を償わせることにした。そっか、そうなったのか。一体、どんな人生を生きてきたんだ……直人。友達から犯罪者になるなんて……、お前は刑務所の中で一生罪を償え。俺はずっとお前のことを信じていた。たった一言……「ごめん」って言うのがそんなに難しいのか? それを認めたら、そうならなかったはずなのにな……。もう俺の知ったこっちゃない。
「親の話も全然聞かないのか……」
「そう、直人くんはそんな人だよ」
「本当に、終わったのか……?」
「うん、私はそれを言いたかった。もう心配しなくてもいいって……」
「本当にありがと……、水瀬。そこまでできるとは思わなかった」
「私は北川くんを傷つけちゃったから……、やるべきことをやっただけ。あの、私たちは友達……になれるかな? 北川くん……」
「うん。もう友達だろ?」
「うん……!」
……
そして、時が来た。
「あいちゃん! 私のプレゼントは香水だよ。うちのお母さんね! 香水を作る仕事やってるから、女子高生に似合う香水を選んでもらったよ〜」
「えっ! それ……た、高くない?」
めっちゃ高そうに見えるけど……、井原お金持ちだったのか?
「ううん。気にしなくてもいいよ! あいちゃんのためだから〜!」
「じゃあ、私たちの番だね! 私は最近流行ってるスニーカー! 足のサイズは北川くんが教えてくれたよ〜! あはははっ」
「私は……。服とかサイズ分からないし、北川くんに聞くのも迷惑だから……。化粧品を……。これね、最近……女の子の間で流行ってるブランドの化粧品だから……! そ、そして誕生日おめでとう!!」
へえ……、スニーカーいいな。
そして、化粧品か……女の子だからやっぱりそういうのがいいかもしれない。
てか、みんなお金持ちなのか……? 高そうな物ばっかりじゃん。
「みんな本当にありがと……。こんなの初めてだよぉ……。本当に………、ありがとう」
ぼとぼと……。
「あっ! あいちゃん、泣いてるの!?」
「あはははっ、本当に? 写真撮ろう! みんな来て! 北川くんも!」
「えっ! あっ、分かった……」
「ええ……! ちょっと、みんな待ってよぉ……!」
「チーズ!」
あい一人だけ泣いてる写真か、きっと思い出になるよな。
「そして、北川くんのプレゼントは?」
「…………俺は……、その……後で」
「ええ! なんだよ〜。見せてよ〜」
「き、気になる……」
真ん中で首を傾げるあい。
「…………!」
そして、くすくすと笑う井原。
まあ、井原なら知ってるはずだから仕方ないか……。
「はい! じゃあ、私たちはそろそろ帰ろうかな?」
「えっ? どうして?」
こっそり合図を送る京子。
「あっ、そうだね! 今日……お父さんとお母さんの結婚記念日だから!」
「わ、私も。急に、約束ができちゃって……うっかりしてた……」
「じゃあ、私たちは帰るから! 二人で楽しんでね〜」
今日が両親の結婚記念日だった小林も、急に約束ができちゃったのをうっかりした水瀬も。
みんな、ありがと……。
でもさ、普通に言ってもいいのに……。
「みんな……、帰っちゃった」
「そうだな」
「それに、りおくんのプレゼント……! 気になる!」
「気になるのか……? た、大したことないけど……。じゃあ! 目を閉じてくれない?」
「うん!」
けっこう高いのを買っちゃったけど、普段から貯金してるし……これくらい平気。
そしてあいのためだから、なるべく良い物をプレゼントしたかったのもある。
俺、女の子の好きな物全然知らないから今年は井原が手伝ってくれたけど、次は自分で選ぶからさ……。
「じゃあ、そのままじっとして」
「うん」
箱からネックレスを取り出して、あいの首につけてあげた。
「いいよ」
「あれ……? これは! あの時の!」
「うん、この前に……気に入ったって言ったよな。だから、買っちゃった」
「え? こ、これ……めっちゃ高かったはずなのに……」
「あいの誕生日プレゼントだから、気にしなくてもいい。そして……、誕生日おめでとう。これを言うのは二年ぶりかな?」
それより、その破壊力はなんだ……?
めっちゃ似合うし……、見てるだけで顔が真っ赤になる。
「…………嬉しい、めっちゃ嬉しい!」
涙声で話すあいが、俺に抱きつく。
「ありがと……。私、今年の誕生日絶対忘れないから……」
「だよな。いい友達もできたし、いい思い出も作ったから……」
「うん。私、生きていてよかった……」
「…………うん」
生きていてよかった……か。
幼い頃のあいはいつも一人で「どうして、生きているのか分からない」とか、言ってたよな……。
「ずっと一緒だよね……? りおくん」
「そう。死ぬ時まで、一緒……。好きだよ、あい」
「うん、私も♡」
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