91 話④

「り、りおくん……?」

「あっ、起こしたのか……? ごめん」

「か……、体は大丈夫? 痛いところない……? それと、私のこと覚えてる? 私とあったこと、ちゃんと……覚えてるの?」

「…………」


 俺に抱きつくあいが、今まであったことをいろいろ話してくれた。

 どうやら、あの時のことでずっと心配していたらしい。

 俺はまたあいに心配をかけちゃって、その話に上手く答えられなかった。俺のせいで……、あいがあの冷たい川に飛び込んでしまったから。俺がもっとあいつに注意するべきだった……。あいを守らなければならないのに、あの時も今も……直人にやられっぱなしで悔しい。その結果がこれだから……。


 でも、あいが無事で何よりだ。


「り、りおくん……? 私のこと、思い出せないの……?」

「ううん……。あいは俺の彼女で……、俺の好きな人だろ?」

「うっ……。よかったぁ……、また……またあの時みたいに記憶を失ったら……私、私……。どうしたらいいのか、分からなくて……。ずっと、ずっと心配してたよ」

「心配かけちゃって、ごめん。あい……」


 そして、頬をつねるあい。めっちゃ怒ってるように見える……。


「なんで、私に嘘ついたの?」

「…………あいに心配かけたくなかったから」

「結局、心配かけたじゃん! このバカ!」

「ご、ごめん……」


 それからほぼ一時間、俺はあいに怒られた。

 それも当然か、嘘をついて直人がいるところに行ったからさ……。まさか、最後まで自分の間違いを認めないとはな……。俺は話をしてあいつと決着をつけようとしたけど、自分のことばっかり言い出す直人に冷静さを失ってしまった。


 それに橋から突き落とすなんて……、最悪だ。


「りおくん!」

「うん?」

「二度と私に嘘をつかないことと、何かをする時は必ず私に相談すること! この二つ、ちゃんと守って! これは彼女の命令だよ?」

「うん。分かった……。二度とあんなことしないから、今度は許してくれる?」

「よろしい!」

「ありがとうございます〜」

「バーカ!」


 そう言ってから、ベッドに潜り込むあい。


「えっ? あい、帰らないのか? 病室のベッド狭いから……」

「うるさい。このバカ」

「ええ……」

「私の居場所はここだから、帰るわけないでしょ?」

「そ、そうだな……」

「私はりおくんがいないと何もできないよ……。それくらい知ってるんでしょ? だから、もっと注意して。私、すっごく怖かったから……」


 布団の中で啜り泣くあいに、俺は罪悪感を感じてしまう。

 やっぱり、俺のやり方が悪かった。

 もっと良い方法を考えて、みんなと一緒に解決するべきだったのに……俺はずっと一人で解決しようとした。


「うん。ごめん」

「今日から死ぬ時まで、りおくんは私の言う通りにするのよ! 分かった?」

「…………えっと、死ぬ時まではちょっと……ひどいんじゃないかな……?」

「今、私に文句を言うの? りおくん……?」

「何も、何も言ってません……」

「よろしい! このバカ!」


 ……


 当たり前のことだけど、退院した後はお母さんにめっちゃ怒られた。

 前にも同じことあったし。それに今度は直人が俺を殺そうとしたから……、お母さんに「殺人未遂」って怖い言葉も聞いた。法律のことはよく知らないから、じっとして話を聞いていたけど、お母さんにも迷惑をかけてしまったな……。


 その後は「お母さんに任せて」って言われたけど、本当にいいのかな……?


「うう……、朝から疲れたぁ……」

「だから、次はちゃんと注意してね!」

「俺は病院にいる時に一度怒られたけど……、なんでまたあいに怒られなきゃならないんだよ……」

「私もムカついたから!」

「…………ええ」

「そういえば、西崎のことはもう心配しなくてもいいよ」


 直人……? なんの話だろう?

 お母さんもそれ言ってたし……。


「どうして? 何かあったのか?」

「あの日、京子が私に言ってくれたから。吉乃が今まで西崎にされたことを全部録音して、それを西崎さんに送ったって」

「へえ……、そうだったのか?」

「でもね、西崎さんもそれを知っていたらしい。だから、すぐ京子に謝って……そのまま西崎を連れていったって」

「じゃあ、もうここにいないってこと……?」

「そうだよ。もうここにいないから心配しなくてもいいよ。りおくん」

「そっか……。話してくれてありがと、あい」

「うん! これで、もう悩まなくてもいいよ! りおくん」


 あいつが素直に言うことを聞くなんて、ちょっと意外だった。

 でも、言いたかったことはちゃんと言ったから、後悔はない。


「りおくん、りおくん!」

「うん。どうした?」

「もうちょっとで私の誕生日! そしてクリスマスもあるよ! ドキドキする!! りおくんと一緒に過ごす誕生日とクリスマスは最高だからね!」

「やっと来たか、あいの連続パンチ……」

「なんだよ……! その言い方」


 そういえば……、まだあいの誕生日プレゼント決めてない……。

 一応あいつをどうにかして、その後……ゆっくり考えるつもりだったからさ。


「…………」

「今年、期待するからね!」

「あっ、う、うん……」


 てか、今まで適当に美味しいものを食べてたから……、誕生日プレゼントで何をあげたらいいんだ……? あいの好きな食べ物なら全部知ってるけど、それだけはどうしても分からない俺だった。


 彼氏なのに……!


「みんな! おっはよう〜。いい天気だね!」

「おはよう! 京子」

「へえ、あいちゃん明るくなったね〜。それに比べて、北川くんはめっちゃ暗いんだけど……?」

「りおくん? どうしたの?」

「……な、なんでもない」

「ふーん」


 誕生日プレゼント……。

 何をあげたら、あいが喜んでくれるんだろう……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る