89 話②
「あれ? あいちゃん……、北川くんは?」
「りおくんなら、今日実家に行ってくるって!」
「実家……?」
「うん!」
京子は自分が聞いたことをあいに言うべきなのか、しばらく悩んでいた。
りおが「実家に行ってくる」ってあいに嘘をついたのも、それなりに理由があると思って、京子はただ笑みを浮かべるだけだった。
「どうしたの? 京子……?」
「あっ、う……ううん。なんでも……ない」
「なんか、変……。何かあったの?」
「べ、別に……何も! 今日は二人で帰らないから! 不思議だな……と思ってね」
そして、慌てている京子に気づくあい。
「何かあったよね……? 京子。普段はそんなこと言わないのに、どうして今日はりおくんのことを聞くの? それより……顔に出るから嘘はやめて」
「…………うっ、やっぱりバレちゃったのかぁ……」
「どうしたの? りおくん……、りおくんに何かあったの?」
「いや……。じ、実はね……」
……
「俺は……お前の友達だったから、何も言わなかったんだ……。お前も俺のことを友達だと思っていたら、ここで謝るべきだった! 俺と、あいと、水瀬に! 謝るべきだった! どうして、そんな簡単なことすらできねぇんだよ! お前は……!」
「なんで、俺がお前らに謝らないといけないんだ……?」
ダメだ。話が全然通じない……。
どこから間違えたのか、それすら分からないやつに俺は何を望んでいたんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
「…………」
「そして……お前に負けるのが怖いってなんだ……? その出鱈目な話を、俺の前で言うのか? お前が? なんで……? あいちゃんに告白をする勇気すらなかったやつに、俺が負ける? ふざけんな! 人の彼女を奪ったやつに、そんなことを言う資格はねぇー!!」
どんどん声を上げる直人は我慢できず、りおの胸ぐらを掴んだ。
「意地を張って……、お前に何が残るんだ……? なんのために、こんなことをしてるんだ……? それを否定すれば、すべて元通りになると思っているのか? 馬鹿馬鹿しい、いい加減にしろ!」
知らないとは言わない、お前は元々そういう人だったから……。
そして今まで会った人たちの中で、どうしてお前に親友って言える人が一人もいないのか……、俺には分かる。そんな風に考えてるからだ。だから、誰もお前のそばに残らないんだよ。好きって言われただけですぐ付き合って、飽きたらすぐ捨てる。みんなにチヤホヤされて、聞きたくない言葉にすぐ耳を塞ぐ。その悪い癖をどうして直そうとしないんだ……? そんな風に生きて、お前になんの得があるんだ……? 直人。
それはお前と付き合った人たちが俺に言ってくれたこと。
でも、俺は全部無視してお前には言わなかった。
直人、悪いのは本当に俺なのか……? 俺は……、最後まで友達のお前を信じていたのに……。
「りお……! あいちゃんとキスをした人も、あいちゃんを抱いた人も、お前じゃなくて俺だから……。お前じゃねぇんだよ!」
「そうか……? 可哀想だな。直人」
本当に可哀想だ。
ここまできて、自分を否定するなんて……。
「あいちゃんと同じことを…………、お前も俺を同情してんのか?」
「同情?」
「お前みたいな負け犬に同情されたくねぇ……。お前は俺より下なんだよ! あの時からずっと!」
やっと、本音を口に出したのか……?
話をすれば、きっとうまく解決できると思っていた俺が愚かだった。お前みたいな人と俺が会話をするなんて……、今まで友達だったからお前の立場も理解しようとしていた。霞沢は可愛いから、ずっと面倒臭い先輩や同級生に告られるのもよく知っている。だから、そんな霞沢が好きになるのも無理ではない。それは人の本能だから、そしてお前も男だから……、それくらい理解しようとした……。
「俺は、ずっとお前が嫌いだった。りお……」
「そうか」
二人が付き合った時も、俺は悲しかったけど……、お前のことを応援した。
ゲームをする時も、俺はお前に霞沢の好きなものや趣味などを教えてあげた。
友達だったから、霞沢は俺の物じゃないから、友達としてずっと二人の関係を応援していた。俺はお前の悪いところをちゃんと知っているけど、友達だから、霞沢にそれを言ってあげなかった。
きっと直人は変わる、そう思っていたから……。
川に飛び込んだのは俺の愚かな選択だった。だから、お前を責めたりしない。
でも、俺はずっと……お前にいいことを教えようとした。
我慢して、お前が霞沢と楽しい時間を過ごせるように……頑張っていた。距離を置いて、もうこっちに来ないでって……線を引いて、ずっと霞沢を無視した。
ずっと好きだった人が他の人と付き合った時……、どれだけ苦しくなるのか、お前は知らないんだろ?
俺は死ぬほど、苦しかった。その相手が友達のお前だったから……、ずっとそばにいたのに、霞沢に選ばれなかったから……。それでも、俺は自分が足りなかったことを認めて二人のことを応援していた。
友達として、俺はそれ以上のことできない。
もう友達じゃないから……、言いたいことを言ってもいいよな? 直人。
「お前、実は怖いんだろ?」
「はあ……?」
「俺がどうして……お前を無視したのか、分かる?」
「どうしてだ?」
「お前は目立ちたがるやつだからさ……。ゲームをする時もエムブイピーに執着し、学校にいる時もみんなと仲良くなろうとする。お前は自分が世界の中心にいるのを当たり前だと思って……、周りにいる人たちを道具扱いしてきた」
「はあ……?」
「ゲームをする時、お前だけ声を上げて怒ってたよな……? もちろん、チームのミスだったけど、そんなに怒る必要もないのにさ……。お前は相手に負けて、エムブイピーを取られるのが嫌だった。だから、チームの人に怒った。そして俺以外の人はお前とゲームをしない。俺がグループに入った時はいつも知らない人ばっかりだったからさ……」
今更だけど、俺はこんなクズと友達だったのか……。
「俺はお前の友達だったから、嫌なことを言いたくなかったから、ずっとそれから目を逸らしていた」
「俺が……? あはははっ! りお、無能なやつと一緒にゲームをして、負けても楽しかったって言えるのか? 負け犬のお前なら楽しいかもしれないけど、俺は違う。勝てなきゃ意味ねえんだよ」
「そう。いつもそんな風に言うのがお前の一番悪いところだ」
「お前に、俺の何が分かる!」
「だから、お前を無視した」
「…………」
「無関心」
「…………」
「誰もお前に興味を持たないこと、それがお前の一番嫌いなことだろ?」
「はあ……?」
「ずっと無視していたのに、あの直人が電話をするなんて……。実は怖かったよな? そばから一人ずつ離れていくのが……。もう、お前のそばには誰もいない。誰も、いないんだよ。直人」
俺もバカじゃないから、それくらい知っている。
もう、俺たちの前で消えてくれ……! 頼むから。
「クソがぁ……!」
「うっ……!」
「お前は……。あの時……、川の中で死ぬべきだった!」
こいつ……!
「死ねぇ———! りお」
あ、あい……。
「…………!」
なんで、こんな時にあいの顔を……。
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