十四、嫉妬

88 話

 あいつが言った〇〇橋は学校からそんなに遠くないところにある。

 今更、俺と話したいことがあるなんて……。

 そしてこの前にみんなと話したから……、俺も早くこの関係を終わらせないといけない。今まで黙っていたのは霞沢のためだったけど、水瀬にやったことを考えてみれば……、いつか霞沢にも同じことをする可能性がある。


 俺の考えが甘かった……。

 無視すればできると思っていたのに、その話を聞いてから不安の塊がどんどん大きくなる。


「…………」

「りお」

「なんだ……? 学校にいる時は声かけないでくれ……、もう友達じゃないから」

「分かった。じゃあ、今日来てくれ」

「話のことか、分かった……。終わったらそっちに行く」

「うん」


 壁の後ろで、京子は二人の話をこっそり聞いていた。


「…………」


 直人と話したのは久しぶりだな。

 相変わらず、被害者ヅラをしている……。それは、なぜ自分がそうなったのか全然理解していない顔だった。俺にそれを説明させるつもりなのか……? あるいは、今まであったことをすべて否定し、また無茶を言うつもりなのか……? 今のお前ならそんなことを言いそうだ。


 顔に出てるから。


「りおくん? 今日、私ピザ食べたい……!」

「それもいいね。でも、今日はちょっと寄りたいところがあるから先に帰ってくれない? あい」

「どこ?」

「…………実家」


 やっぱり霞沢には言えないな……、ごめん。

 やっと普通の日常に戻ってきたから……、また霞沢に心配かけたくないし、俺一人であいつと話すことにした。


「へえ……、珍しいね」

「たまには実家に行かないと……、お母さんが心配するからさ。今日は遅くなりそうだけど、すぐ帰ってくるから心配しないで」

「うん! 分かった」

「…………」


 今まで霞沢に嘘をついたことないから、余計に気になってしまう。

 でも、今はやるべきことをちゃんと終わらせる時だからな。


 行ってくる。


 ……


 放課後、俺は直人が言った〇〇橋に向かう。

 てか、こんな寒い天気になんで〇〇橋なんだよ……。普通に学校の裏側とか、誰もいない教室とか、そんなところにしてもいいんじゃないのか……? わざわざここまで呼び出すなんて、あいつのやり方はあの時も今も俺には理解できない。


「…………来たか?」

「うん。話したいことがあるって言ったから」

「うん」

「俺は早く帰らないといけないから、手短に頼む」

「あいちゃんが待ってるから?」

「うん」


 俺を呼び出して、何を言うつもりだ……? 直人。


「どうして、りおがあいちゃんと付き合ってるんだ……?」

「……ん?」

「あいちゃんは俺と付き合ってるのに、なんでりおが俺の彼女と同居してるんだ? 理解できねぇんだよ」

「お前の彼女……?」


 ちょっと待って、なんだ? この状況は……。

 どうして俺が霞沢と付き合ってるのかって……? それを俺に聞くのか? あり得ない。どこから反論すればいいのか、それを考えるよりあいつの言動に飽きてしまった。直人が今までやってきたことを全部否定する気か、あんな発想ができるなんて、恐ろしい人だ……お前は。


 なんで、そんなことしか言えないんだろう?


「俺の質問に答えてくれ、どうしてりおは俺の彼女とあんなことをしてるんだ?」

「関係ないだろ? お前と……」

「関係ないわけねぇだろ……! 俺はお前がいなかった間、ずっとあいちゃんのそばにいたのに……。俺はあいちゃんに裏切られた。お前のせいで!」

「俺のせい……? 今、俺のせいって言ったのか? 俺は引っ越す前も、そして引っ越した後も、ずっとお前にアドバイスしたのに。今更、俺のせいだと? それからあいのことばっかり話したから……、俺はずっと無視していた。俺に興味もねぇことを毎回言い出して…………、一体何が言いたかったんだ? 俺が何をすればお前が満足するんだ? 直人!」


 笑えない冗談はやめてほしかった。

 なんで、全部否定してるんだ……。


「…………」

「俺のせい……? なぜだ? じゃあ、お前が水瀬にやったことも俺のせいって言うつもりか? まさか、それもなかったことにする気? 俺は長い間お前と友達だったから、最後まで嫌なことは言わないことにした。わざわざ言う必要もないし、お前もそれを知ってると思ってたから……。なのに、そんなことを言うのか?」


 我慢できなかった。

 どうして、お前は自分の間違いを俺のせいにするんだ……?

 そんなことをして、何が変わるんだ……? 自己満足かよ。


「あはははっ、何を言ってるんだ。あいちゃんを捨てたのはお前だろ……? 引っ越したのも、ずっと距離を置いたのも……! お前だろ! 俺はあいちゃんのために、ずっと頑張ってきた。それは……あいちゃんのことが好きだったからだ。お前に取られる前まで……俺は幸せだったよ! りお!」

「お前は、いつまでそんな風に生きるつもりだ……? 直人」

「はあ?」

「お前はずっとそうだった」

「何を?」

「お前は人間として最低だ。直人…………」

「最低? なんで……? 俺はお前に井原を紹介して、四人で楽しい思い出を作るつもりだった。そんな俺が最低だと?」

「違う、それはお前のためだろ? もう、このくだらない話はやめよう」


 俺は知っていた。

 お前がどんな人なのか、中学生の時から知っていた。

 でも、あの時はこうなると思わなかったから……ちょっとおかしいやつだなと思ってあんまり気にしてなかった。


 早くそれに気づいたら、こうならなかったはず……。

 そう、俺の前にいるのはただのクズだった。


「…………俺は最後まで言いたくなかった」

「はあ?」

「お前は……、俺みたいな凡人に負けるのがずっと気に入らなかったよな……? 今までずっと! 友達のふりをして……。お前は、見下す人が必要だっただけじゃないのか? 違うのか? おい、俺がそんなことを知らないと思ってたのか……?」

「…………」

「負けず嫌いのお前は優越感を感じるために俺が必要だったはず。でも、あいは奪われたくない。そうだろ? お前は……俺が苦しむのを楽しんでいただけだ……。なんで、あんなことをする必要があるんだ? 記憶を失った俺を見下すのがそんなに面白かったのか……? 楽しかったのかよ! あの時のことでずっと苦しんでいた俺に、お前は! 俺の前で! 彼女ができたって言った……!」


 このクズがぁ……。

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