87 ドキドキしたから②

 幼い頃の私は、自分の気持ちを抑えられなかった。

 りおくんのことが好きになったから、もう我慢できなくて……、知らないうちに手を出してしまう。それは、誕生日の夜のこと。私はそばですやすやと寝ているりおくんを見つめていた。今のりおくんは初めて出会った時と全然違って、男らしいっていうか、だんだん成長している。少なくとも、私の目にはそう見えた。


「…………さ、触ってもいいのかな……?」


 今までずっとくっついてたのに、いきなり恥ずかしくなるのはなぜ……?

 でも、私たちは堂々とくっついてたから……こんなことをしてもりおくんに嫌われたりしない。好きな人を触るのは女の子の権利だから、りおくんに反論する権利はないよね……? その言葉を自分に繰り返し、寝ているりおくんの横顔を触ってみた。


「……ふふっ♡」


 息を殺して、りおくんの唇を見つめる。

 なんか……私変態みたいだ。でも、好きと変態は違うから……、またそうやって自分を誤魔化す。そしてキスをする寸前、ドキドキする心臓の音がうるさくてしばらくじっとした。やったことないから……、すっごく緊張している。


 顔が熱くなって、息が荒い。

 これが恋なの……? すっごく気持ちいいけど、すっごくつらい……。


 そして、目を閉じた。


「…………」


 やり方はよく分からないけど、ドラマの真似をしてりおくんにキスをした。

 唇と唇が触れた時、その気持ちいい感触に頭が真っ白になる。そして、私はりおくんを独り占めしたいと心の底から決めた。今までずっと私のそばにいたから……りおくんは私の物だよ。誰にも取られたくないし、ずっと私を見てほしかった。


 もっと、りおくんのことが知りたくなる。

 私の知らないこと、全部教えて……りおくん。


「…………」

「うっ……」


 りおくんは寝耳が鈍いから、私がこんなことをしても起きない。

 ずっとりおくんのそばで寝ていたから分かる。


「ううう…………」


 ほぼ一時間……、りおくんとキスをした。

 本当に、変態みたいだ……。私。


 でも、わけ分からない感情を感じてしまう。

 りおくんが起きないのはいいことだけど、なんで胸が苦しくなるのかな……? おかしい、なんかムラムラする。りおくんとキスをして、唇とか顔とか……、いろいろ触ってみたのに……。それでも、足りないって気がした。


「…………まさか……?」


 そして、顔が真っ赤になる。

 自分が何をしようとしているのか、知っていたから……。こんなことをしてもいいのかな? りおくんと———。

 少し不安を感じる。


 でも、学校で……こうすると……、こうなるって言われたから。

 それより恥ずかしすぎて目眩がする……。

 もし、このタイミングでりおくんが起きたら……! どうしよう、息ができない。


 どうしよう……。

 でもね、私は知りたかった。


「…………人の好奇心って、本当に怖いね……」


 気を揉みながら、学校で学んだこととドラマで見たことを参考して……。

 私は……りおくんの上で……。一体、何をしてるの……? それでも、最後までやらないと私の好奇心とこのムラムラする気持ちを解消できないから……。これは、勉強! いつかりおくんとやることになるかもしれないし、そのためにしっかり勉強しておかないといけない!


「ふぅ……」


 私の中にはずっとりおくんだけ、りおくんがいない世界に生きる意味などない。

 それほど、大切な人だった。

 だから、こんなことをやっている……。


「——————!」


 なんっていうか……。本当に頭が真っ白になって、何も思い出せなかった。

 お母さんが見ていたドラマ、その中にいる人たちはこんなことをやってたの……?


「…………」


 りおくんは———こんなに気持ちいいんだ……。


「はあ……」


 もうちょっとで中学生になるし、未来のためにちゃんと勉強しておかないと……。

 すっごく恥ずかしい……。


 でも———。


「好き、りおくん……」


 誕生日の夜、私はりおくんを食べてしまった。

 めっちゃ気持ちよかった一時、絶対忘れられない私の思い出……。

 そしてりおくんはずっと寝てたから……、それを知ってるはずがない。


「りおくん……」


 私は、救われた。


 ……


「えへへへっ……、そんなことあったよね〜」

「な、なんの話だ……?」

「ううん〜♡」

「こ、怖いんだけど……? まさか、今日も……?」

「りおくん! 私はね! りおくんのことすっごく好きでたまらないから!」

「その流れは……。やっぱり…………」

「やりたい♡」


 今の生活は本当に幸せだよ。

 目の前にりおくんがいるし、朝から晩までずっと一緒!

 家に帰ってきて、宿題や勉強をして、一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、そして寝る。ずっと同じことを繰り返してるけど、それが好きだった。りおくんは私の心を満たしてくれた大切な存在、すっごく好きで死ぬ時まで一緒にいたい。りおくんと一緒に過ごした時間は本当に幸せで……、毎日がパッピーだよ。


 私の夢が叶った!


「あい……! ちょ、ちょちょちょ……!! 待って、待ってよ!」

「りおくんはベッドで私に勝てないからね〜」

「な、何変なこと言ってんだよ……! それより! その格好はなんだ!」

「あっ……! この前にね! 京子と一緒に下着を買ったから! どー? 可愛いでしょ?」

「そ、そんなの……大人になってから買ってもいいだろぉ!!」

「顔、真っ赤になったくせに〜。えへへっ」

「…………」


 私はずっとドキドキしている。

 りおくんもそうだよね? 私しかいないよね?


「私、りおくんの好きが聞きたい……」

「わ、分かったよ……」


 もっと早く…………、りおくんとこうなりたかった。

 私の宝物———。


「好きだよ。あい……」

「それだけ?」

「…………」

「可愛い?」

「うん。か、可愛い…………」

「ううっ———♡」

「ちょっと……! くっつくなぁ……!」

「だって、りおくんのこと好きだから———♡」


 あ、もう何も考えたくない。

 りおくんが好き。

 それだけ。


「ちょっと———!」

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