85 二人の距離

「話……? 俺が、お前の話を……?」

「ちょっとだけでもいいから……、俺には分からないんだよ! どうしてこうなってしまったのか、俺は……ただ!」

「…………」


 なぜ、被害者面をしてるんだ……?

 自分は何も悪くないって言ってるようなその言い方……、俺は知っている。

 中学生の時、お前は同じクラスの人にもそう言ってたよな……? 人の前で「悪いのは俺じゃなくて、何もできなかったお前だ」と、当たり前のように、自分の言動を正当化した。みんなにチヤホヤされたことで、調子に乗って、すべてが自分の思い通りになるのを当然だと思っていた。


 俺はお前のことをよく知っている。

 長い間、お前のことを見ていたからさ……。


「今更、俺に話したいことでもあるのか? 俺はお前の話に興味ないんだけど?」

「いや、なんで……? 俺たち、親友だろ……? ずっと親友だろー! 俺は二人と仲良くなろうとした。それがそんなに悪いのか……?」

「ごめん。そんなこと言うなら、切るぞ。時間を無駄にしたくないし、価値のない話をするつもりもない」

「いや、俺の話を……!」

「直人、俺はもうお前のことを友達だと思わない。そして、水瀬のことも諦めろ。勝手にベルを押したり、電話をかけたりするな……! はっきり言っておくけど、お前がやってるすべては迷惑だ。なぜ、それが分からないんだ……?」

「…………話を聞いてくれ! 俺は……」


 しつこいな……。

 それにお前はなぜ「親友」とか、そんな言葉を口に出すんだ……?

 俺たちにやったことを、全部否定するつもりなのか……? そんなわけないよな。


「俺の話は終わったから、手短に頼む」

「…………」

「直人?」

「りお、来週時間あるのか?」

「ない」

「……〇〇橋で二人で話をしよう。電話じゃ通じないから……、それくらいできるんだろ?」

「好きにしろ。そして、もう俺たちに電話かけるな……」

「…………そこで待つから」

「…………」


 そう言ってからすぐ電話を切る直人、正直何が言いたかったのか全然分からない。

 俺は周りの人たちが苦しむのを見たくなかったから、言うべきことをはっきり言っただけ。


 なのに、お前は最後まで「分かった」って言ってくれないのか……?


「はあ……」

「さっきの話聞いた? なんで、被害者面してんの? 西崎……」

「き、北川くん……ありがと」

「いや……。こんなことを言っても、あいつは諦めないかもしれない。水瀬の言った通り、あいつはしつこいやつだから……」

「うん……」


 ため息をつく人と、悩む人。

 直人のせいで、余計なことまで心配している俺たちが可哀想だった。


「りおくん……」

「うん?」

「行かないで……、西崎のこと無視して。私、りおくんと一緒にいるから……怖くないよ」

「俺もそうするつもりだから、心配しないで」

「はあ……!! 本当に、あのクッソ男のせいでみんなため息ばっかり!」

「あははっ、あやかちゃん落ち着いて……」

「京子ちゃんも可哀想だよ! あんなやつと同じクラスだなんて、吐き気がする!」

「大丈夫。隣クラスに北川くんとあいちゃんがいるからね」

「うん。それはいいけど……」

「最近、この三人で遊んでるし! 平気平気!」

「分かった……」


 ……


 電話をした意味が分からない、お前は何がしたいんだ……?

 腹いせでもするつもりか、そんな立場じゃないってことはお前もよく知っているだろ。だから、分からない。あいつに言わせるつもりはないけど、お前はどうして俺たちに謝らないんだ……? 少なくとも……、「ごめん」って言ってくれると思ってたのに……。俺の考えが甘かった。


「りおくん……?」

「あい?」

「どうしたの? 大丈夫……? もしかして、西崎のことで……?」


 帰り道、霞沢が俺の心配をしてくれた。


「いや……、あ! そうだ。来週はあいの誕生日だよな?」

「覚えてたんだ!」

「彼女の誕生日だろ……?」

「嬉しい♡」

「あいは俺とやりたいことでもある?」

「……やりたいこと」


 あ、聞き方が悪かった……。


「ふふっ♡」

「なんだよ……。その顔は……!」

「知ってるくせにぃ〜」

「いいえ。全然…………」


 知ってるけど、恥ずかしくて言えなかった。


「むっ!」


 そして、頭突きをする霞沢。


「痛っ!」

「彼女のことを大切に! 言ってみ!」

「た、大切に……」

「もっと大きい声で!」

「彼女のことを大切に……!」

「よろしい!」

「俺は一体、何を……?」


 家の前で、何を言ってるんだろう……。


 そして霞沢のやりたいことって、多分アレだよな……? アレ……。

 でもさ、アレならほぼ毎日やってるし、誕生日当日はそんなことじゃなくて……二人っきりでできること……。あっ、そっか……二人っきりでできること……。遊園地も行ってきたし、確かに……アレしか残ってない気がする……。


 本当に、アレしかないのかよ……。

 俺も嫌いじゃないけどさぁ……。

 霞沢……二人っきりの時は化け物になるから、ちょっと怖くなる……。


「りおくん、変なこと考えたでしょ……?」

「いいえ……? 何も……」

「本当? じゃあ、覚悟して……! りおくんに逃げ場はないから!」

「ううう……」


 他に良いこと思い出せねぇ———。


「ねえ、りおくん」

「うん?」

「私……小学生の時にりおくんとキスしたけど、それも覚えてる?」

「小学生の時……?」

「うん! あの日は私の誕生日だったよ?」

「へえ……、ごめん。全然覚えてないけど……?」

「だよね〜」

「ふふふっ♡」

「えっ? なんだよ……」

「なんでもなーい!」


 俺……、霞沢とそんなことをしたのか……?

 誕生日のことは覚えてるけど……、キスはなんだろう……?

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