83 誰かの視線

「おはよう、りおくん……」

「おはよう、あい。よく寝れた?」

「ううん……。学校行きたくなーい……、またりおくんと遊園地行きたーい!」

「遅刻するから、早く起きろ……!」

「ひん……、りおくんのバカ」

「……っ」


 くっつきすぎ……。暖かいけど、このままじゃ遅刻確定だ……!


「ううん……。学校行きたくない……」


 冬だから寒いのもあるけど、最近楽しいことばかりだったから、俺に甘える日もどんどん増えていた。そして遊園地とか、ショッピングとか、霞沢はずっとやりたかったことを一つずつ叶える。俺たちはそんな日常を過ごしていた。


 そして、これが普通の日常だよな……?

 俺たちがずっと望んでいた、そんな日常……。


「あい、学校には井原がいるじゃん。仲良くなったよな? 最近……」

「ううん……。それもそうだけど……」


 霞沢のその目……、何かやってほしいって言ってる。


「じゃあ、何かやってほしいことでもあるのか? あい」

「うん! 私、りおくんとキスしたい!」

「…………やっぱりそれかよぉ……」


 昨日も寝る前までキスしたのに、また足りないって言うのかよ……。あいは。

 それにくっつきすぎて、俺から霞沢の匂いがする。


「へへっ」


 毎朝、こんなことばっかりで……マジしんどい。

 嫌いじゃないけど、霞沢……こういうの好きだからな。てか、幼い頃には全然知らなかった。こんなに積極的な人だったのか……? 俺もたまに霞沢とエッチなことをしたくなるけど、最近はずっと襲われてるような気がする。


 やられっぱなしで、彼女の物になった感じ。

 それでも可愛いし、エロいし、めっちゃ好き……。


「これで、いいよな……?」

「…………」


 じっと、りおの方を見つめるあい。


「ああ……、もう!! 分かったよ! もう一回やればいいだろ!」

「ふふっ♡」


 俺は、霞沢に弱い。


 ……


「あっ! 北川くん! あいちゃん! おはよう〜」

「井原、おはよう」

「おっはー」

「ふーん。今日は気分良さそうに見えるけど〜? あいちゃん、北川くんと何かあったよね?」

「べ、別に……何も!」


 仲良くなった二人を見ると、なぜか笑いが出てしまう。

 井原も、もうあの時のこと気にしないみたいだし。

 いい友達でいられるなら、俺もわざわざ井原と距離を置く必要はないから……。人間関係って本当に難しいもんだな……。


「…………」

「あいちゃん! 今日はみんなと一緒にカフェ行かない?」

「カフェ……! この前にもカフェ行ったよね……!」

「そうだよ! あいちゃん、カフェ好きだよね?」

「うん!」


 カフェか……、テンション上がってる霞沢も可愛いな。


「…………ん?」


 そしてこっちを見つめる直人、それに気づいたのは俺だけだった。

 二人はカフェのことで話してるし、今は言わない方がいいと思う。

 それにしても、まだ俺たちに言いたいことが残ってるのか……? 一人で何を企んでるのかは分からないけど、俺たちはやっと普通の日常に戻ってきたから……。もうあいつと関わりたくなかった。


 お前がいない人生こそ、完璧な人生なんだからさ。

 だから、目の前で消えてくれ……。直人。


「北川くん?」

「あっ、うん。どうした? 井原」

「北川くんも行くよね? カフェ!」

「女子ばっかりだろ……? 俺が行ってもいいのか……?」

「ええ〜。北川くん、女子ばっかりのところ苦手だったの? でも、話すだけだから来てもいいよ!」

「いや、俺じゃなくて……」

「…………」


 落ち込んでいるあいに気づく京子。


「あ、あいちゃん……!? えっ! な、何もしないから! 安心して、本当に!」

「でも、京子……可愛いし……。あの二人も……、可愛いから……」


 霞沢、いきなり小動物モード……?


「…………き、北川くん」

「うん?」

「あいちゃん、めっちゃ可愛くない……?」

「……うん、確かに」


 付き合う前にもたまに嫉妬してたけど、付き合った後は女子の話にすぐ嫉妬してしまう霞沢だった。怖いけど、可愛い……。俺も他の女子と変なことをするつもりはないから、一応安心してって言っておいたけど……。霞沢は女子ばかりのところとか、特に水瀬を警戒していた。


 あの時も電車の中でめっちゃ警戒してたよな……。


「いいよ。私のそばにいてくれるなら……」

「そばにいるから、心配するな。あい」


 そして、霞沢の頭を撫でてあげた。

 こういうのが好きって言われたからさ。


「うう……、小林と……水瀬…………」

「…………」


 でも、前とは反応が違うけど、何かあったのか?


「おい……、井原。あいと何かあったのか……?」

「あ〜! 実はね。あいちゃんとショッピングをした時、あやかちゃんと吉乃ちゃんも来たから……。みんな仲良くなったよ!」

「そっか。だから、あいが照れてるんだ……」

「女子同士でいろいろあったし……、二人があいちゃんと仲良くしたいって言ったからね……」

「そっか。ありがと、井原」

「ふふっ、友達が増えるのはいいことだからね」

「確かに……」

「そこ! 二人でこそこそしないで……!」

「何もやってなーい!」

「う、嘘!」

「本当だよ〜? 北川くん、そうでしょ?」

「う、うん……」


 そして「チッ」と舌打ちをする直人が教室に入った。

 わざと……?


「ケーキ食べたい……! りおくんと一緒に食べたい!」

「ケーキなら、家にもたくさんあるんだろ? 他に……」

「家にあるのも美味しいけど、店で食べるのも美味しいから……。だよね! 京子」

「確かに、店のケーキはレベルが違うよね……?」

「ごめん、全然分からない……」

「北川くんはね〜。デリカシーがないから〜」

「そうそう……。起きた時も、全然気づいてくれなかったし」

「うん? 起きた時?」

「えっ?」


 霞沢……。


「何? 二人とも……。もしかして、同居してるの?」


 このバカ! 井原にそんなことを言ってどうすんだ……。

 同居してるのを誰にも言ってないから、そんな風に言うとすぐバレるんだろ……!


「あっ……! ま、毎朝……りおくんの家に……行くっていうか……」

「ぷっ。あいちゃん、嘘つくの下手すぎ……」

「ほ、本当だから……!」

「はいはい。別にいいんじゃね? 二人が同居するのはそんなにおかしくないし、好きだからできることだと思う。ふふっ」

「バレちゃったぁ……、りおくん」

「だから、何かを言う時は気をつけてくれ……。頼む、あい」

「はい……」

「あはははっ。あいちゃん、可愛い〜」

「ええ……、そうなの?」


 まあ、霞沢はたまにアホっぽいことをするから……。


「ぷっ」

「りおくん、今笑ったよね!」

「…………ご、ごめん」

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