82 霞沢さんのイタズラ

 今日は霞沢と井原がカフェに行ったから、一人で帰る。

 しかし、一人ぼっちになったのは久しぶりだな。

 最近、ずっと一緒だったからか、なんとなく虚しさを感じてしまう。それでも女子同士で遊ぶのはいいことだから、帰りに霞沢の好きなものをたくさん買って帰ることにした。


「えっと……」


 ケーキと、フルーツと、お菓子……これでいいよな?

 霞沢は甘いものめっちゃ好きだから……、たくさん買っておかないとあっという間に消えてしまう。


「ただいま……」

「お帰り、りおくん!」

「えっ……? あい……じゃなくて……」


 ええ……、どうして霞沢さんがここにいるんだ……?

 もしかして、今日は霞沢さんがくる日……? そうなのか?

 でも、俺……霞沢に何も聞いてないし。もし、来る予定なら先に連絡するって言ったけど、ラ〇ンも電話も全然なかったよな……? なんか、俺たちに重要な用事でもあるのか……? 玄関で微笑む霞沢さんに、俺は緊張していた。


 そして、体が固まってしまう。


「あら、急に来ちゃってごめんね」

「い、いいえ……。あっ! あの……今ケーキ買ってきましたけど、た……食べますか?」

「うん。相変わらず、りおくんは優しいね〜」

「い、いいえ……」

「上がって上がって」

「は、はい!」


 ……


 別に霞沢さんのこと嫌いじゃないけど、なんか苦手だよな……。

 この空気……。


「あの……、あいは今……友達とカフェにいます」

「うん、今日はね。二人が仲良くしてるのか気になって! ゆみに鍵をもらっちゃったよ〜」

「…………お母さん……」


 やっぱり……、あの三人は俺の言うことを全然聞いてくれない……。

 昔からそうだったし。一応慣れてるけど……、それでも来る前にはちゃんと連絡してほしかった……。いきなり入ってくると、心の準備をする時間がなくなるから。それに霞沢さんが俺と話す時はいつも霞沢のことばっかりで、余計に緊張して、恥ずかしくなるんだよ……。


「…………」


 こうやって、うちの鍵を持っている人がまた増えてしまった。


「ねえねえ、りおくん……。大人としてこんなことを言うのはちょっと恥ずかしいけど……」

「は、はい……? なんでしょう……?」

「お嬢さんと結婚させてくださいとか……、言ってくれない……?」

「は、はい……? えっ?」


 ふと、霞沢とあったことを思い出す。


「あれ、あい。ドラマ、好きだったっけ?」

「うん! 幼い頃にお母さんと見てたし、たまに見たくなるよ!」

「へえ……、霞沢さんもドラマ好きだったんだ。知らなかった」

「ふふっ、うちのお母さん恋愛ドラマめっちゃ好きだからね。いきなり電話して、りおくんと上手くいってる?みたいなこと聞いてるし……」

「へえ……、それは大変だな」


 俺がこんなことを聞かれたのは、もしかしてドラマの影響か……?

 それにしても、霞沢さん……めっちゃ期待してる表情だけど……?


「うん? うん?」

「お、お嬢さんと……け、け、結婚させてください…………」

「もうちょっと大きい声で……!」

「えっ……?」


 な、なんで……そんな恥ずかしいことを……!

 てか、霞沢さんめっちゃニヤニヤしてるし……。


「あの……」

「大丈夫! 今、誰もいないから! 早く早く!」


 目の前に霞沢さんがいるんですけどぉ……。

 そして俺は帰ってきたばかりなのに、どうしてこんな恥ずかしいことを言わなきゃならないんだよぉ……。もし、ここに霞沢がいたらもっと恥ずかしい状況になったかもしれない。不幸中の幸いって言えばいいのか、霞沢が来る前にさっさと終わらせよう。


 深呼吸をして! よっし……。


「お嬢さんと結婚させてください!!」

「うん! それだよ!」

「お母さん、りおくんと何してんの……?」


 この声は、まさか……?

 いつ帰ってきたんだよ! 霞沢は……!


「あら〜! あいちゃん、この前に頼まれた物全部持ってきたからね〜。ちょうどいいところに来たよ! さっきの聞いた?」

「うん……。お母さん……、りおくんに恥ずかしいこと言わせないで———!!」


 俺に恥ずかしいことを言わせる霞沢が、霞沢さんにそれを言うのか……。

 それにしても両手にショッピングバッグがたくさん、井原と楽しんできたのか。安心した。


「あいちゃん、同居は楽しい?」

「……っ! い、いきなりそんなことを!」

「どう? りおくんと一緒に暮らすのはあいちゃんの夢だったよね?」

「夢…………」

「そ、そんなこと言ってないし! わ、私はりおくんが私と一緒にいたいって言うから……仕方がなくて! わ、私は……別に……」


 声が震えてるのに……、堂々と嘘をつくのか……! あい。

 それにめっちゃ照れてるじゃん。


「あはははっ、りおくんの顔。面白いね」

「いいえ……。ちょっと……」


 脇腹をつつく霞沢に、俺は沈黙した。


「今日は友達と遊んだの……? あいちゃん」

「う、うん」

「よかったね。カッコいい彼氏もできたし、友達もできたから……。お母さん、ずっと心配してたよ?」

「お母さん……」

「そろそろ帰るね。そして、二人とも!」

「は、はい?」

「それがよくないとは言わないけど、エッチなことはほどほどにしなさい……!」


 その一言に、顔が真っ赤になる二人だった。


「お母さんはなんでも知ってるよ? あいちゃん」

「ち、違う……! りおくんとそんなにやってないし……!」

「ふふっ、冗談だよ〜? あはははっ」

「お、お母さん!!!」

「あはははっ。じゃあ、またね! 二人とも」

「は、はい……」


 相変わらず、嵐みたいな人だな。霞沢さんは…………。

 まあ、俺たちのためにいろいろ持ってきたし……、いっか。


「ねえ、りおくん」

「うん?」

「わ、私たち! そんなにやってないよね?」


 やっぱり、さっきの言葉が気になるのか……。

 しかも、霞沢の顔……真っ赤になってるじゃん。


「いや……、俺も否定したいけど……。あいはいつも欲求ふ———っ!」

「知らな———い!」


 殴られた。


「バカ!」

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