81 ぴょん②

「おいひい〜♡」

「痛い……、ワンちゃんかよ……。あいは」

「でも、好きな人を噛みたくなるのは私の本能っていうか……。それにりおくんの反応も可愛いし、定期的に噛みたくなるよ! 彼女の愛情表現だからね! どー? 嬉しい?」

「ちょっとだけ……」

「ひひっ♡」

「そ、そんな目で見るなぁ……」

「りおくん〜。好きぃ〜」

「うるさいぃ……」


 しかし、どんどん寒くなってるな……。


「りおくん、あっち行ってみたい!」

「あっち……? カフェ?」

「うん!」


 さっきまで甘いものを食べてたのに、またカフェに行くのか……?

 女の子はある意味ですごいな……。


「太るからダメだ」

「ひん……」


 それより霞沢の耳と頬が真っ赤になって、このままずっと歩くのは無理だった。

 せっかくここまできたし、二人でできることないかな……?

 もちろん、食べること以外……。


「…………」


 その瞬間、視界に『モルモットワールド』という看板が入ってきた。

 モルモットか……。確かに、霞沢は動物好きだったよな……?

 動画アプリでよく見てたし、あそこなら二人で楽しめるかもしれない。


「あい?」

「うん……?」

「なんで、ワッフル食べてるんだ……? いつの間に……?」

「あそこで美味しそうなワッフル売ってたからね! ふふふっ」


 恐ろしい……。


「まあ、いいけど……。あっち行ってみない?」

「モルモットワールド! モルモット?!」

「あい、動物好きだよな?」

「うん!! モルモット、好き! 早く行こう!」


 持っていたワッフルを一気に食べた後、俺をモルモットのところに連れていく霞沢だった。

 てか、さっきもデザート食べたよな……? あい。

 俺は考えるのをやめた———。


「モルモット!!! 超可愛い!! はあ……、りおくんみたい!」

「なんでモルモットを見て俺を思い出すんだよ!」

「もふもふ……♡ 可愛い……!」


 暖かい屋内でモルモットたちがバタバタしている。

 その中に一匹、群れから離れているモルモットがいた。


「…………」


 なぜか、霞沢の方を見ている。


「りおくん! りおくん! この子、こっち見てる!!」

「そうだな」

「触ってもいいのかな?」

「いいですよ〜。みんな、人大好きだから」

「あ、ありがとうございます!」

「はい〜」


 霞沢の手にモルモットを乗せる飼育員さん。

 薄い茶色と白色のモルモットが、霞沢を見ていた。


「りおくん……! この子、可愛すぎる……! 私も可愛い子供欲しいな……!! りおくんはどう……?」

「モルモットを見て、その流れはちょっとやばくね……? あい」

「えっ……? そうなの……?」

「まだ高校生だぞ……? 俺たち。それは早い!」

「…………今すぐって言ってないし! 大人になってからだよ!」

「そっか……! ご、ごめん……」


 俺が誤解してたのか……。

 そして霞沢の手に立っているモルモットが「情けない」って表情で俺を見ていた。


「別に、今すぐって言ってないし……。そんな風に言わなくても…………」

「…………」

「ベルちゃん……そうだよね? 私、今すぐって言ってないよね? 悪いのはりおくんだよね?」

「…………あい」


 もうモルモットに名前をつけたのか……。


「あいはさ……」

「うん……?」

「人の前でそんな恥ずかしいこと言わないでくれ……」

「別に恥ずかしくない! だって、私の彼氏だもん!」


 二人を見ている飼育員たちが微笑んでいた。


「…………誰か、俺を助けてくれぇ……。恥ずかしすぎて、死にそう」

「ほら、ベルちゃんも喜んでるじゃん!」

「しゃ、写真撮ろう……。あい」

「うん!!」


 ……


 帰り道、電車の中でぼーっとする。

 今日は……いろいろあったし、なんか疲れた。


「ねえ、りおくん」

「うん?」

「私たち、いつ結婚するの……? 卒業して、すぐ?」

「い、いきなり……?」

「りおくんが決めて……」

「ううん……。それもいいけど、今はまだやるべきことが多いから、大学までは待ってくれない?」

「じゃあ、私もりおくんと同じ大学に行きたい!」

「うん。それもいいね」


 微笑む霞沢、そして好きな人と未来を約束するのはやっぱり恥ずかしいな。

 都会に来た時は一人で上手くいけると思ってたのに、結局霞沢と一緒にいるのを選んだ。やっぱり俺は霞沢がいないとダメだな……。ずっとそばにいてくれたから、霞沢と描く未来が楽しみでたまらない。


 俺の人生イコール霞沢か……、それも悪くないと思う。


「…………あい?」

「…………」


 疲れたのか、肩に頭を乗せる霞沢がすやすやと寝ていた。

 確かに、甘いものいっぱい食べたし……。

 

「あれ……? 北川くん?」

「え?」


 知らなかったけど、同じ電車に水瀬が乗っていた。

 いつの間に乗ったんだ……?


「水瀬……。帰り道?」

「うん。そうだよ……。隣、座っていい?」

「あっ、うん」

「…………あいちゃんは寝てる?」

「うん……。今日、久しぶりに遊園地行ってきたからさ」

「うん。よかったね。私、北川くんに言いたいことがあるけど……」


 前より明るくなったけど、それでも水瀬の顔は初めて出会った時と一緒だった。


「直人くんから、最近連絡きてるよね?」

「……どうかな、俺……あいつの連絡先ブロックしたから」

「私もブロックしたよ。でも、知らない電話番号から電話が来たり、ラ〇ンが来たりするからちょっと怖い……。北川くんにはそんなことなかったの?」

「俺にも……知らない番号から電話が来たけど。やっぱりあいつなのか……? 一体何をする気だ?」

「私にもよく分からないけど、多分そうだと思う。私……、最近あやかちゃんや京子ちゃんと仲良くなって直人くんのことをずっと無視してるから。そのせいかもしれない……」

「つまり、無視されたことが気に入らないってこと? 俺たち、嫌われてんのか?」

「うん……。直人くん、嫉妬深い人だからね」

「まあ、俺たちもあいつのこと無視してるからさ。ほっておけばいいんじゃね?」

「うん。でも、私は直人くんがどれだけ危険な人なのかよく知ってるから……。北川くんも気をつけて、そして……いざという時、私たちが手伝ってあげるから」

「おう! ありがと。水瀬」


 なぜか、じっとする水瀬。


「どうした?」

「ううん……、私はここで降りるからね……。それにこれ以上話したら、彼女に怒られるかもしれない」

「うん……? え?」


 そばから俺の腕を抱きしめる霞沢。

 いつの間に……? びっくりした。


「私、そう簡単に怒らないし……。りおくんが他の女の子と話しても、別に嫉妬とかしないし……」


 顔に出るから、嘘はやめよう……。あい。


「じゃね。二人とも……」

「うん」

「またね……」


 直人……、お前はやっぱり邪魔者だな。


「…………」

「あい。一応、言っておくけどさ……」

「うん?」

「俺、浮気なんかしねぇから! あの時のことは忘れてもいい……。誤解だろ?」

「わ、分かった……」

「そ、そして……!」


 すぐ言いたかったけど、人が多くて耳元で囁くしかなかった。


「好きだから……、あい」

「……うん! 私もだよ!」


 そして、霞沢の頭を撫でてあげた。

 やっぱり可愛いな……。

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