十三、冬の日のこと

80 ぴょん

「ううっ……! 寒い〜」

「あい、マフラー巻いてあげるから。じっとして」

「うん! ひひっ♡」


 大雪が降る寒い日、期末テストが終わった俺たちは久しぶりにデートをする。

 いや……、昔は二人でよく出かけたけど、それとデートは違うよな。

 二日前から俺と行きたいところがあるって言ってたし、朝からテンション高い霞沢とどっかに向かっていた。


 ったく……、子供じゃあるまいし。


「着いたぁ———!」


 行きたいところってここか……? めっちゃ広いな。

 普通のカップルはこんなところでデートをするのか、俺だけ時代に遅れてるような気がする。


「どー! りおくん! ドキドキするよね!」

「う、うん……。そ、そうだな」

「どうしたの? りおくん……」

「お、俺……遊園地は初めてだから、ちょっと緊張してるっていうか……」

「あはははっ、りおくん可愛い〜」

「か、からかうな……!」

「ふふっ。でも、私彼氏と遊園地に行くのが夢だったから! 今、すっごくドキドキしてる!」

「…………バカ」


 確かに、どこもかしこもカップルだらけだな。


「行こう行こう! りおくん!」

「…………」


 そういえば、霞沢は寒くないのか……?

 コートを着たのはいいけど……、短いスカートにストッキングはちょっと寒そうに見える。それに寒い天気のせいで頬も赤くなってるし、風邪を引くかもしれないからずっと心配していた。


 もし、霞沢が風邪引いたら……またお母さんに怒られるかもしれない。

 マフラーだけじゃ足りないって気がする……。


「りおくんのエッチ……」

「えっ! な、なんで……?」

「足……、ジロジロ見てたじゃん……!! 変態……」

「いや、あいが寒そうに見えたから……!」

「寒くないよ? もし、寒くなったらすぐりおくんにくっつくから……!」

「うん。そうだね……。でも、人が多いところでくっつくのはやめぇ———」

「えーいっ!」


 俺の話……まだ終わってないのに……、すぐ抱きつくのかよ。

 一言言ってあげたかったけど、可愛くて何も言えなかった。


 霞沢はなんでそんなに可愛いんだ……?

 幼い頃からずっと見てきたけど、付き合ってからどんどん可愛くなってるような気がする。寝起きのキスとか……、寝る前のアレとか……。愛情表現が増えたのはいいけど……、エッチなことばかりでまだ慣れていなかった。


 たまに、そんな霞沢が怖くなる……。


「りおくんの心臓……、ドキドキしてるね〜♡」

「う、うるさい……!」

「ひひっ♡」


 ……


 遊園地に来たのは初めてだから、視界に入るすべてが特別だった。

 すると、どっかに行ってきた霞沢が俺の頭に何かをつける。


「じゃーん!」

「うさ耳のカチューシャ!」

「そ、そうか?」

「うさ耳つけたりおくん! 可愛い!! ねえ、写真撮ろう!」

「あっ。う、うん……!」


 スマホを見て笑みを浮かべる二人。恥ずかしいけど、なんか楽しい……!

 俺たちはうさ耳をつけたまま、遊園地のあちこちを歩いていた。

 写真をたくさん撮って、温かい飲み物や甘いデザートを食べながら、二人っきりの時間を過ごしていた。てか、余裕ができたのは本当にいいことだな……。この前まで直人のことでずっと心配してたから……、今は昔みたいに霞沢と楽しい時間を過ごしたい。俺のそばにいるのが霞沢で、すっごく嬉しかった。


「……ううん〜! おいひい〜」

「ぷっ」


 もぐもぐと食べる霞沢が可愛すぎて、つい笑いが出てしまう。

 てか、ハムスターかよ……。

 そのほっぺを触りたいけど、なんか怒られそうだ。


「なんで……笑うの?」

「いや、あいが可愛いから……?」

「い、今……。めっちゃ食うなと思ってたよね……? そうだよね……?! りおくん……」

「べ、別に……そんなこと、考えてないし」

「…………」


 そして、じっとこっちを見つめる霞沢。


「どうした?」

「いちご…………」

「食べたい?」

「…………」


 こくりこくりと頷くあい。


「いいよ。あいは果物好きだから」

「へへへっ……。りおくん好きぃ……♡」

「その前に! 口についたクリームを拭いてあげるから、じっとして」

「は〜い」


 なんか、友達だった時と全然違う……。

 口を拭いてあげただけなのに、すごくドキドキしている。


「はい。あーん」

「あーん!」


 遊園地にはいろいろ楽しめることたくさんあるけど、俺たちは他のアトラクションより大観覧車に興味を持っていた。ゆっくりできる場所が好きなのはあの時も今も一緒ってことか……、田舎に住んでた時はこういうことできなかったからさ。いつも家でくっついていたし。


 遠いところまでちゃんと見えてきた。

 これが観覧車の魅力だよな。


「り、りおくん……! なんか、高くない……?」

「うん? 乗りたいって言ったのはあいの方だろ……?」

「いや……、別に怖くないけど……。りおくんが心配になって……」

「一応、自分の表情を見てくれないか……?」

「わ、私はね! りおくんのことが心配になるから! りおくん……高所恐怖症かもしれないし、私がそばにいてあげるから! 優しいよね?」

「だから、その表情はなんだよ……! あい!」


 結局、怖いのは霞沢の方だった。


「ううん……。静かでいいな〜」

「もう怖くないのか?」

「りおくんのそばにいるとなんか落ち着く……」

「弱虫あい〜」

「か、からかわないでよ……! 別に高いところ苦手じゃないから!」

「じゃあ、あっち見て。外の景色、綺麗だからさ」

「…………うん! 綺麗だね!」

「えっと、俺じゃなくて……。外の景色を……」

「だって、高いから怖いんだもん……。りおくん、意地悪い!」

「やっと素直になったのか……」


 降りるまでまだ時間あるし……、霞沢を抱きしめてあげた。

 俺もずっと大観覧車に乗りたかったけど、お父さんとお母さんが忙しかったから都会に行けなかった……。そしてテレビで見た景色と、実際俺の目で見た景色はやっぱり違うな。俺はこっちの方がいいと思う、今は霞沢も一緒にいるし……。


「ひひひっ〜」


 この甘えん坊……。


「りおくん……」

「うん?」

「チューして……♡」

「…………今?」

「うん!」


 ロマンチックな展開……、俺は霞沢の頬に軽くキスをした。

 恥ずかしいけど、悪くない……。


「ううっ———! ドキドキする! たまらないよ!! りおくん、大好き!! もう一回! もう一回!! 唇にチューして」

「なんだよぉ〜」

「チューして! りおくん! もう一回! キスしよう、りおくん!」

「分かったから……、落ち着いて!」

「うん……!」


 そして二度目のキス……、今度は向こうから襲ってきた。


「……っ」


 いきなり……、舌を入れるのは反則だろ。

 あい……! えっ? あい…………? ちょっと……。

 急にスイッチが入ったのか……? 観覧車の中で、俺を押し倒した霞沢と濃厚なキスをした。温かくて気持ちいい舌の感触に……俺は何もできず、霞沢にキスをされていた。本当にやられっぱなしだった……。


 マジ、やばいって。

 こんな……。


「…………」

「へへっ♡」

「痛っ……」

「ふふふっ♡」


 それに、首も噛まれたけど……。

 なんで…………?

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