73 完璧な人②

 どうすればあの二人と友達になれるのか、ずっと考えていた。

 でも、あの二人には二人だけの世界があって、誰かと仲良く話すのを見たことがない。学校にいる時もそうだった。いつもくっついていて周りの視線など気にしない。今までずっと一人だった俺に、あの二人の関係はとても羨ましかった。あいちゃんはいつも可愛い笑顔でりおに声をかけたり、さりげなくくっついたりするから、俺もあいちゃんみたいな女の子が……。いや、あいちゃんが欲しかった。


 もちろん、あの時の俺には水瀬がいたけど……それも飽きたし……。

 もうちょっと人生に刺激が必要だった。俺は今まで感じたことない新しい感覚が欲しい……。あいちゃんを見ると、心がすぐドキドキするから……その気持ちを彼女に伝えたくなった。


 誰かを好きになるのは初めてだから……、その感覚がとても不思議だった。

 俺が感じたあの感情はなんだろう……? 我慢できないほど、興奮していた。

 それはあいちゃんがりおの大切な人だったからか……? ベッドに押し倒した時の顔が見たい、俺の前で喘ぐそのエロい声も聞きたい。きっと今まで付き合ってきた先輩たちとは……格が違うはずだ……。ちょっと妄想しただけなのに、すごく気持ちよくてドキドキしている。


 俺は一人でそんなことを考えていた。


「二人は本当に仲がいいな……」


 さりげなく声をかけた時、二人の反応は意外だった。

 今まで友達がいなかったから、俺と友達になりたいって……面白い。

 俺はくっついてる二人がすごく気に入らなかったけど、友達になったばかりだから何も言わずに笑うだけだった。それから仲良くなって、二人の話を聞いて、あいちゃんに近づく。俺には自信があった。りおに負けない自信がさ……。


 そしてどうすればいいのか考えていた。

 一応友達になったけど、俺とあいちゃんの関係はずっとそのままで彼女は俺を見てくれなかった。そう、一ミリも縮まらない二人の関係が嫌だった。彼女は何をしてもりおのそばにいて、りおと何かをするのが当たり前のようになっている。


 気に入らない、俺の居場所を作らなければならない。


 俺は二人と仲良くなるために、ずっと二人に合わせていた。

 りおとはゲームを、あいちゃんとは俺が作ったくだらない恋バナを、俺は俺のためにずっと努力をしていた。でも、このままじゃダメだと思っていたから、あいちゃんが一人になった時に声をかけてみた。


「あのさ、霞沢はその……好きな人とかいる?」

「……す、好きな人! 私に……?」

「そうだよ。いつもりおとくっいてるけど、二人……付き合ってないような気がしてさ」

「どうして、それが分かるの……?」

「俺、人の恋愛には詳しいからさ。それで、やはりりおだよな? 霞沢の好きな人」

「う、うん……。りおくんのこと好き……。でも、まだりおくんには言ってないから内緒だよ?」

「うん」


 りおには「りおくん」か、その呼び方も羨ましかった。

 りおだけが持っているその権利、俺も欲しい。

 どうすればいいのか、ずっとそれだけを考えていた。


「…………」


 そしてりおにも同じことを聞いてみたけど、あいつは何も言ってくれなかった。


「…………今はできないってことか」


 俺はチャンスを待っていた。

 焦る必要はない、家に帰ると水瀬が俺を待っているから。ムカつく時とか、腹いせがしたい時は、いつも水瀬とやる。本当にいい女だよ。あの先輩たちと違って、水瀬は俺の言う通りにしてくれるから……。


 それでも飽きるのは仕方がなかった……。

 やるだけなら……、そんなに悪くないかもしれないけどさ。

 とにかく、水瀬はまだ使える道具だ。


「りおくん! りおくん! 昨日のホラー映画めっちゃ面白かったよね!!」

「ええ……。ほぼ一時間俺にくっついてたくせに、何が面白かったよね!だよ!」

「だって! 小学生の時は全然ダメだったから! ふふっ、私成長してる!」

「あれ? 一緒に映画を見たのか? 二人」

「うん! りおくんの家で映画を見るのがルーチンだからね!」

「ルーチン……?」

「何がルーチンだよ……! 勝手に入ってきたのはあいの方だろ……」

「ええ〜。いいじゃん。すぐ隣だし〜」


 すぐ隣……。


「それは構わないけど、映画を見るならホラーじゃなくて他のジャンルにしろ! ロマンスとか、ミステリーとか! いろいろあるだろ……!」


 構わない……。


「ええ〜。いいじゃん! ホラー映画〜」

「いやいや……。あいが悲鳴を上げるたびにびっくりするから、勘弁してくれ」

「まだまだですね! りおくん!」

「…………あい、次は絶対ロマンスジャンルにするから」

「嫌です〜」

「断る!」

「嫌です!」

「断る!」

!」

!」


 二人はいつもこんな感じで、俺が隣にいてもたまに無視されるような気がする。

 目的を果たすためには我慢するしかないと思うけど、やっぱりあいちゃんは可愛いな……。あんなやつより俺と一緒にいた方がもっと楽しいはずなのに……、一体りおのどこが好きなんだろう。ここ最近ずっとりおを見てきたけど、りおの魅力全然分からない。


「どうした? 直人?」

「ううん? ああ、なんでもない。二人は仲がいいなと思ってさ」

「だよね! 私たち、仲良いよね!」

「なんだよ。そのドヤ顔は……バカみたい、あい」

「むっ! なんだよ! せっかく私が仲良いって言ってあげたのにぃ!」

「その顔が気に入らないんだよぉ! そのドヤ顔がぁ!!」

「私は可愛い!!」

「はあ? いきなり?」

「うん!」

「…………」


 やっぱり、分からない。

 あいちゃんはどうしてりおが好きなんだ? 普通の人だろ? りおは……。


 そして休み時間、あいちゃんが俺に声をかけてくれた。


「…………私! 西崎に相談したいことがあるけど……、今暇?」

「ああ、うん。いいよ」

「うん! ありがと! ふふっ」


 可愛いな……。

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