70 恥ずかしいこと②

「はあ……、気持ちよかったぁ……。一緒に入るのは久しぶりだからね。まだドキドキしてる! 私」

「…………う、うん」


 一緒に入っただけなのに、どうしてそんなに喜ぶんだろう……。

 それより霞沢を抱きしめた時の、あの感触……めっちゃやばかった。ベッドで寝る時や居間で何かをする時は、いつも俺に抱きつく霞沢だけど、一糸も纏わないその姿は反則だろ。それに今の霞沢は中学一年生の時と全然違うから……、変な妄想をする俺が嫌になる。でも、今は彼女だし、ちょっとだけエッチなことを考えても……。


「うう……。何を考えてるんだよぉ。俺は…………」

「りおくん……? どうしたの?」

「い、いや。なんでもない……」


 やっぱり、好きな人の裸を見るのは恥ずかしい……。


「はあ……、涼しい空気気持ちいいな〜」


 でも、あのバカは全然気にしていないみたいだ。


「ねえねえ、りおくん!」

「うん?」

「今年のクリスマス、雪降るのかな?」

「まだ十一月だよ。あい……」

「うん。でも、最後のクリスマスは中学一年生の時だったからね」

「そうだな……」


 コーヒーを飲みながら、外を眺めている霞沢を見ていた。

 てか、自分の荷物を持ってきたくせに、なんで俺のシャツを着てるんだ……。霞沢のあの無防備な姿には慣れているはずなのに、会えなかった時間が長かったからか、さっきからずっと緊張している。俺らしくないな……。


「私も一口!」

「うん」


 相変わらず、霞沢に甘い俺だった。


「ねえ、りおくん。田舎に住んでた時は星が見えたけど、都会じゃあんまり見えないんだ……」

「確かに……見えないね」

「…………そうだね」


 ベッドに座る霞沢が俺に抱きつく。


「ねえ、りおくん…………」

「うん。どうした?」

「りおくんは私の彼氏だよね?」

「うん。そうだよ?」

「私の未来の旦那さまだよね……?」

「うん、そうだよ? どうした? いきなり恥ずかしいことを言い出して」

「…………えっと」


 しんと静まり返る。


「あ、あい……? どうした?」


 霞沢はじっとこっちを見つめていた。

 なんだろう……、この空気。


「私……りおくんと……、その……」

「うん?」

「…………」


 さっきから何がしたいのか全然分からない……。

 お風呂に入る時は堂々と話しかけたのに、なんで今はウジウジしてるんだ? なんか言いたいことがありそうな顔をしてるけど、こっちを見つめるだけ……霞沢は何も言ってくれなかった。俺……女心はよく分からないから、こんな時にどうすればいいのか一人で悩んでいた。


「こ、これ……!」


 そして、静寂を破る霞沢。


「…………ん?」

「これ! これ…………」

「これって……?」


 薄暗い部屋の中で、霞沢は小さい箱みたいなものを見せてくれた。

 てか、よく見えないけど……ぉ……。うん?

 目の前の、この『002』って数字がすごく気になるけど、まさか……あれじゃないよな。うん、確かに……知らないとは言えないけど。でも、使ったことないからこれを見せる霞沢にどんな反応をすればいいのか分からなかった。


「…………」


 なんか悩みが増えてしまったような。


「…………あ、あのさ。あい」

「うん……」

「なんでそれを持ってるのか聞いてみてもいい……?」

「か、帰る時に……道で、拾ったけど……」


 霞沢、言い訳下手すぎ……。それにそんな新品捨てる人いねぇよ……!

 そっか。あの時か、コンビニを出た時「あれ買うのを忘れた」って言ってたよな。


「…………あい、バレバレだよ」

「お、お母さんに……。まだ学生だから……注意しなさいって言われたから……」


 霞沢さんは、娘に何を教えたんですか……?

 一応いいことだと思うけど、こんなこと初めてで体が固まってしまう。

 恥ずかしい、どうすればいいんだ……? 霞沢もさっきからずっと箱をいじってるし、早く何か言ってあげないと……。でも、何を言えばいいんだ? 分からない。


「ダ、ダメかな……?」

「いや……。ダメって言ってないけど、ちょっと……時間を」

「うん……」


 目を閉じて、しばらく考えてみた。

 そして目を開けた時、霞沢は風呂の中にいる時と同じ格好をしていた。


 な、なんで……裸?


「は、早すぎ! あい、俺はまだ何も……!」

「は、恥ずかしいから……早く……!」


 冷や汗が……、そして目の前に裸姿の霞沢がいる……。


「えっ……?」

「好き……、りおくん」


 まさか、こんなことになるとは思わなかった。

 すごく恥ずかしくて、心がドキドキしている。


「う、うん……」


 そして目が合った時、霞沢が俺にキスをしてくれた。

 本当にやるのか、俺たちは……今日あれをやるのか? それに気づいた時は手遅れだった。


 霞沢をベッドに押し倒したから———。

 今更、止めるなんてできないよな……。


「りおくんからいい匂いがする。私と同じ匂い……すっごく好き♡」

「うん、そうだな」


 最後まで我慢しようとしたけど、結局俺は我慢できなかった……。

 顔が真っ赤になって……、霞沢すごく照れてる。

 なんでそんなに可愛い顔をしてるんだ……。ずるいよ。


「…………はあ」

「りおくんの温もりも……すっごく気持ちいい。ねえ……、私ずっとこうなりたかったよ」

「…………ったく、そんなこといちいち言うなぁ……」

「ひひっ、りおくん大好き……」


 それは俺がそうしたいっていうより、体が勝手に動いてるような気がした。

 ほぼ本能に近い。

 へえ、好きな人とやるのはこんなことなんだ……。

 そして、次は———。


「…………」

「どうした? あい?」

「えっと……、なんていうか……。や、や、優しくして……! りおくん……!」

「…………うん? え? あ、あ、あ…………」


 慌てて、言葉が上手く出てこなかった。

 霞沢の話に俺はどんな反応すれば……、よく分からない。


「ちょ、ちょっと怖いから……」

「…………あい」

「だ、だって! 私……キスはドラマを見て学んだけど、そこまでやったことないから……!」

「怖いなら……、やらなくてもいいよ。あい」

「でも……、好きな人とやりたいから……。や、優しくして……」


 微笑む霞沢。


「…………が、頑張ってみる」

「——————!」


 霞沢の、その顔を見るのは初めてだった。

 可愛いし、エロいし、真っ赤になった顔でずっと俺を見ていた。


「…………りおくん、私……今すっごく幸せだよ……」


 ぎゅっと、俺の体を抱きしめる霞沢。彼女の喘ぎ声が耳に残る。


「…………」

「大好き……、りおくん」

「…………」


 あの夜は彼女とくっついて、二人っきりの時間を過ごした。

 それは頭が真っ白になるほど……、気持ちいい一時。


「…………っ」

「…………あいの声、エロい」

「う、うるさい……!」


 部屋の中には、二人の恥ずかしい声が響くだけ……。

 俺たちは止まらなかった。


 ……


「りおくん……、ずっと私のそばにいて……」

「うん……」

「ひひっ、好き。りおくん」

「俺も好きだよ。あい」


 一人しかいない俺の大切な人、バカあい。

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