66 君とここで
「うん? シチュー?」
「うん! シチューだよ。りおくん、シチュー好きだったよね?」
「あれ……? 俺……あいの前でシチュー食べたことないけど、なんでそれを知ってんの?」
「ふふっ、北川さんに聞いてみたからね!」
「へえ……、そっか」
笑みを浮かべる霞沢がシチューの味見をする。
なんか懐かしいなと思う時、じっとこっちを見つめる霞沢が俺にシチューを食べさせた。温かくて美味しい。そういえば……、俺霞沢が作った料理あんまり食べたことないような気がする。霞沢と直人が付き合ってからどんどん距離感を感じていたからか、こんなことをするチャンスもなくなってしまったよな。
てか、霞沢料理上手いな……。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「あっ、そう! 隣に座っていい?」
「構わないけど……、食べる時に不便じゃないのか?」
「昔はこうやって、りおくんのそばで食べていたからね! 一緒に食べる時は……口元を拭いてくれたり、さりげなく食べさせてくれたり、楽しかったよ。りおくん!」
「それ、まだ覚えてるんだ……。小学生の時だろ?」
「うん! りおくんがいつも私の面倒を見てくれたから……。私はそんなりおくんがすっごく好きだったよ」
「食べる時には恥ずかしいこと言うな……バカ」
「ひひっ」
シチューを食べた後、俺たちは居間のソファでくっつく。
普段はテレビを見たりするけど、今日は甘えてくる霞沢のせいでそれを見る暇はなかった。
「……ううん」
ワンちゃんみたいに体を丸くして、俺に寄りかかる霞沢。
こういうのが好きだなんて……。
ちょっとおかしいかもしれないけど、食後はいつもこんな風になってしまう。
「焼きたてのパンも美味しかったよね? りおくん」
「そうだな」
「りおくん、いっぱい食べた?」
「うん。美味しかったよ。あい」
「ふふっ」
そばから見える霞沢のうなじと、その小さい耳が可愛い……。
そして、俺の前で赤くなる顔も……。
彼女の細い体を抱きしめると、あの時みたいに甘えてくるから好きだった。
「おお……、何か感じられるよ! りおくん」
「うん? 何が?」
「ドキドキするりおくんの心臓、その鼓動が私に伝わるから……。なんか、恥ずかしくなってきた……」
「し、仕方ねぇだろ。ずっと好きだった人とくっついてるからさ」
「だよね? ふふっ」
こっちを見て、霞沢が微笑む。
「私もすっごくドキドキしてるけど……、聞いてみる? りおくん……」
そう言ってから俺の頭を抱きしめる霞沢、びっくりして体が固まってしまった。
うん……? い、いきなり……?
「どー?」
しかし……、霞沢の鼓動もすごいな。
てか、今胸に頭を……。
「は、離してくれ……あい」
「どー!」
「何がどー!だよ!」
「あっ……、りおくん。顔真っ赤〜。あははっ」
「あい……」
「うん?」
「恥ずかしいことは禁止だ……。今は二人っきりだから」
「それがどうした?」
「あのさ……! お、俺たちがこうやって同じ場所にいるのはある意味で良くないんだから!」
「なんで? りおくん、私のベッドで一緒に寝たよね? うちのお母さんも許してくれたし、それに……朝日が昇るまで私とキスしたくせに……」
「…………」
まあ、そうだよな……。
てか、霞沢さんはそんなことあんまり気にしないんだ……。幼い頃からずっと一緒で警戒心がなくなるのも分かるけど、今の俺にはちょっと……なんっていうか、我慢できないっていうか……。積極的にアピールする霞沢を見ると、どうすればいいのか分からなくなる。ずっと我慢してきた「好き」って感情が溢れてしまうから、俺にはとても危険な状況だった……。
「ねえ……、久しぶりに……」
「うん?」
耳元で囁く霞沢がくすくすと笑っていた。
「どうした?」
「一緒に……お風呂入らない……?」
「…………しょ、正気かよ! あんなことできるわけねぇだろ! あい!」
「ええ……、私はりおくんと一緒に入りたいけど! ダメ? いいじゃん〜。私、りおくんと一緒に入りたい!」
「いや、今日はダメだ。また今度にしよう……」
「ええ……」
「時間も遅いし、早く寝た方がいいよ……」
「じゃあ、先にお風呂……入ってくる。ねえ! 最後のチャンスだよ! 一緒に入らないっ———」
「早く入れ!」
「うん……」
顔が熱くなるのは気のせいか……。
はあ、なんで今更……照れてるんだよ。俺ってやつは……。
霞沢の裸は中学生の時まで見ていたから、もう慣れたはずなのに……。
今更、こんな反応をするなんて、俺もダメだな。
一緒に寝る時もそうだったし……、好きすぎてもう我慢できなくなる。
「一緒にお風呂か……」
心臓、うるさいよ。
「…………てか、何変なこと考えてるんだ。俺は……」
……
「…………」
俺の中から直人の存在を消しただけなのに、まるで別の世界みたいだ。
あいつがいなかったら俺たちはもっと早く……。馬鹿馬鹿しいけど、風呂の中でそんなことばかり考えていた。
「はあ……、今はあいだけ。あいに集中しよう……」
そして、部屋の扉を開ける時だった。
「じゃんー! 私、可愛いでしょ!」
「なんだ……。その黄色の服は……」
「〇〇モンスターのパジャマだよ! ネズミバージョン〜」
「はあ? またそれを着るのかよ!」
「もちろん、今日のために……りおくんのも買っておいたからね!」
「…………」
「どー!」
でも、可愛いからいっか……。
「可愛いよ。あい」
「ひひっ。今日はこの格好で寝たい! だから、りおくんも……」
「うん。分かった」
一緒に夕飯を食べて、同じパジャマを着て、そばで寝る。
まだ慣れてないけど、こういうのが好きだった。
やっと……戻ってきた。俺たちの大切な日常に———。
「りおくん……」
「うん?」
「ここに……、りおくんのマークをつけてくれない?」
髪の毛を持ち上げる霞沢が照れていた。
「いいのか……?」
「うん。りおくんのマークが欲しい! 赤いそのマーク!」
「分かった……」
鎖骨のところに、霞沢がつけてくれたキスマークがたくさん残っている。
そして、今度は俺がつけてあげた。
すぐ見えるところに、俺のキスマークを。
「うっ……♡」
「エロい声出すなよ……!」
「ごめん……。気持ちよくて……」
「…………」
「りおくん…………♡」
「変な声、禁止…………!」
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