61 愚かな選択③

 目が覚めた時は裸姿で直人くんに抱かれていた。

 昨日はキスまでしたはずなのに……、どうしてこうなっちゃったの……? 分からない。頭も痛いし、昨日のことを思い出せない。私はそれ以外のこと……何もやってないはずのに、知らないうちに直人くんとエッチなことをした。


 私たち、まだ中学生なのに———。


「…………っ」


 体のあちこちに変な痕がたくさん残されて……。

 特に……胸のところが真っ赤になっている。

 一体、何があったのかな……?


「…………」


 全然思い出せなくて、まずは床に散らかっている自分の服を拾っていた。


「吉乃ちゃん……。おはよう……」

「ひっ……」

「なんでびっくりするの?」

「あ、あの……西崎くん、私どうして……こんな格好になったの?」

「あ、キスした後にすぐ寝ちゃったからさ……。寝てる吉乃ちゃんが可愛すぎて、つい……」

「えっ? う、嘘でしょ……?」

「でもさ、吉乃ちゃん寂しいって言っただろ? ずっと一人で、お父さんもお母さんも自分のことを無視してきたって、だから……俺が慰めてあげたかったよ」

「……えっ?」


 私たちが仲良くなったのは、二人とも一人ぼっちだったからだ。「家にいる時はつらい」そう言うのが二人の共通点で、私も直人くんの話をずっと聞いていたから彼の状況をよく知っていた。だから、昨日は「可愛い」って言ってくれた直人くんのそばにいたかった。お父さんもお母さんも私にそんなこと言ってくれなかったから、初めて聞いたその言葉がすごく嬉しくて……、すぐキスをしてしまった。


「…………」


 でも、こんなことまでするとは……。


「いいじゃん。俺、吉乃ちゃんが初めてだから」

「…………そう?」

「吉乃ちゃんと一緒にいるのが好きだからさ……、可愛いよ。吉乃ちゃん……」

「…………」

「ねえ、週末だから……。もうちょっと……くっつきたいけど」


 ずっと聞きたかったその言葉を直人くんが言ってくれたから……、彼のそばを離れなかった。むしろ、私が直人くんを欲しがっていたかもしれない。彼と過ごした時間は大切な思い出になるから……、ずっと一人だった私に直人くんは大切な存在で私のすべてだった。だから、あんなことをしても大丈夫。直人くんは私に「可愛い」って言ってくれたから、「一緒にいたい」って言ってくれたから……、気にしない。


 ずっと彼のそばにいたかった……。

 私はその時間がもっと長く続いてほしかったけど、直人くんは他の人を見ていた。


 そう、それは霞沢あいだった。

 みんなに愛されてる女の子で、自分の幼馴染北川りおしか見ていない女の子。


 直人くんはあの二人とどんどん仲良くなっていた。


「……っ」

「吉乃ちゃん。最近積極的になったね? どうしたの?」

「…………」


 直人くんはずっと私のそばにいてくれた。


「へえ……、気持ちいい。吉乃ちゃん」

「直人くん、好き…………」


 直人くんのすべてを受け入れる人、それが私だった……。

 私たちは毎日エッチなことばかりで……、週末は飽きるまでやりまくる。それだけが私の生き甲斐だった。それ以外は何もいらない。私が見ていたのは私を可愛がってくれる直人くんだったから、この関係が壊れないように……心の底からずっと祈っていた。私は直人くんに抱かれるのが好きだったから、親とは違って……私のことを必要としてくれたから……。


「うっ……」


 ずっと一緒にいたいとか……、そんなことできるわけないのにね。


「あっ! 吉乃ちゃん、こっちだよ」


 私が北川くんと出会ったのはあの時だった。


「どうして、ここに……?」


 寒い冬の日、直人くんが私を呼び出した。


「あのさ、吉乃ちゃん」

「うん?」

「俺、友達ができたけど……」

「そうなんだ……」

「りおと霞沢だけど、吉乃ちゃんは知ってる?」

「名前だけ……知ってる」

「へえ、そうなんだ。吉乃ちゃんも知ってるんだ。ちょうどいい! 俺! ドッキリしたくてさ」

「ドッキリ?」

「そう! もうすぐあの曲がり角からりおが出るはず! そのタイミングで吉乃ちゃんが告白してくれない?」

「えっ? 北川くんに……? 私が……?」

「そうそう!」

「どうして……? そ、そんなことを?」

「この前、りおに負けちゃったからさ、なんか悔しくて……いたずらがしたいっていうか……」

「そ、そう?」


 どうしてそんなことをするのかは分からない。

 でも、直人くんがそうしたいって言ったから……やるしかなかった。私は直人くんの笑顔が好きだったから、その笑顔が見られるならなんでもするつもりだった。


 もちろん、それが正しいのか正しくないのかは考えていなかった。

 ただ……、言う通りにするだけ。


「うっ……」

「大丈夫?」

「…………私、りおくんのことが好き……」


 いきなり変なことを言い出したけど、北川くんは優しく言ってくれた。


「ごめん……。俺好きな人いるから……、今日はあの人に気持ちを伝えたくて……」

「うん。そうだよね……? ごめんね」


 断られた。でも、それが普通だよね。

 私もそう思ってたし、別に……北川くんのこと好きじゃないから。それにしてもよく分からない人に告白をするなんて……、直人くんは何を考えているのかな……? 一人で考えてみても私にできるのは何もなかった。早く直人くんのところに戻って一緒に帰りたい、頭の中にはそれしか入っていなかった。


 今日も一緒にいたい。


「私友達が待ってるから……!」

「うん」


 そして直人くんからラ〇ンがきた。


『吉乃ちゃん、教室に行ってくれない……? 俺、どっかに財布を落としちゃったみたいだ。頼むぅ!』


「財布……! それは大変……」


 私は学校の裏側に行くつもりだったけど、財布を落としたのは大変なことだからすぐ教室に向かった。そして財布を一生懸命に探していた。直人くんに頼まれたから、早く財布を見つけて直人くんの「ありがと」が聞きたかった。


 そして笑顔も……。


「ない……。どこに落としたのかな?」


 ずっと探していたけど、結局財布は見つけず、すぐ直人くんに電話をした。


「ごめん。教室にはなかった……」

「仕方がないな……。吉乃ちゃん、ありがと。そして今日は先に帰ってくれない?」

「えっ……? 私、一人で?」

「ごめん。俺、クラスメイトに相談したいことがあるって言われたからさ……。今日は本当にごめん……。明日は一緒に帰ろう」

「うん。分かった……! が、頑張ってね!」

「ありがと。吉乃ちゃん!」


 あの日はすぐ家に帰って直人くんにラ〇ンをしたけど、返事は来なかった。


「…………」

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