59 愚かな選択
首と腕と……、お尻と頬と……胸、体のあちこちが痛い。
最近、どんどん激しくなる直人くんに私は何もできず、私のベッドでやられっぱなしの時間を過ごしていた。私はどうしてこんな人生を送ってるのかな……? 今更だけど、もっと楽しい学校生活を送りたかった。でも、私みたいな汚い人は誰も好きになってくれないから、ずっと一人ぼっちだった。
直人くんが私に声をかける前までは、ずっと一人で無意味に時間を過ごしていた。
やりたいこともないし、他の人たちと仲良くなるのもできない。コミュ障だった私はずっとクラスの隅っこで寝ていた。
私は暗い人で友達もいないから、当然なことだよね。
「…………吉乃ちゃん!」
「京子ちゃん……」
今日は私があやかちゃんに頼んで、みんなにあの時の話をしたかった。
私の間違った選択があの二人を傷つけちゃったから……、そしてずっと部屋に隠れていても私が犯した罪は消えない。だから、みんなの前でちゃんと話すことにした。
「みんな……来てくれてありがと……」
「水瀬……。直人と何があったんだ……?」
「うん。全部、話すから……」
……
直人くんと初めて出会ったのは移動教室の時だった。
中学時代、ずっと一人だった私に声をかけてくれた人。それが直人くんだった。
「あれ? 水瀬、まだ教室にいるのか? 移動教室だぞ?」
「…………」
私、人と話すのが怖かったから……。
直人くんの話に答えず、こくりこくりと頷くだけだった。
「行こうか?」
「…………」
男の子に声をかけられて不思議だったのもあったけど、どうして私みたいな人に声をかけたのかな……? それについて私は疑問を抱いていた。西崎直人は同じクラスの人だけど、友達ではない。でも、学校でよく知られている人だったから名前くらいは覚えていた。三年の先輩と付き合ったり、いつも人たちに囲まれたりして、楽しい学校生活を送っている陽キャ……、私と住む世界が違う人。
当時の直人くんはそんなイメージだった。
「早く行かないと……、どうした? 水瀬」
「…………え、え……。あの、みんなに誤解されるから……。さ、先に行って……」
「えっ? 誤解?」
「に、西崎くん……。三年の先輩と付き合ってるから……」
「ああ、それか! いいよ、気にしなくても。別れたからフリーだよ!」
「…………」
「行こう!」
さりげなく私の手を握る直人くんがすごく不思議だった。
どうしてそんなことができるの……? でも、男の子と初めて話して、初めて手を繋いだ私に、それは特別な経験だった。カッコいいし、優しいし、直人くんは完璧な人だったから、そしてそんな人が目の前にいる……。
ドキッとした。
「あっ! 教科書! 持ってくるの忘れた! みなせぇ……」
「…………一緒に見よう」
「マジ? ありがと〜。助かった」
「…………」
直人くんと話したのはあの時が初めてだったのに、私たちの距離感がおかしい。
鈍感な私もそれくらいはちゃんと知っていた。
距離を置いても、私に近づくから……仕方がなかった。友達でもないのに、どうしてこうなるの……? すぐそばに直人くんがいる。授業に集中できないし、ずっと見られてるような気がしてすごく慌てていた。
「あのさ、水瀬」
「う、うん……」
そして放課後、教室を出る私に直人くんが声をかけた。
また、何かあるのかな?
「今日、暇?」
「えっと……」
「予定ある?」
「えっと…………」
「あははっ、ゆっくりでいいよ」
「予定はな、ないけど……」
「じゃあ、うち行かない? 今日誰もいなから、寂しくてさ……」
お、男の子の家に……? 私が……?
「……どう?」
誰かに誘われたのは初めてだったから、どうしたらいいのか分からなかった。
その話に答えられず、私は直人くんの顔を見つめるだけ。そして目が合った時、直人くんは私に笑ってくれた。その笑顔に……私は惚れたかもしれない。
でも、せっかくだから……行ってみようかな?
私は行きたくなった。
「いいの……? 私なんか……」
「禁止!」
「えっ……?」
「私なんかじゃないよ」
「ごめん……」
そうやって私は生まれてから初めて男の子の家に行った。
「ここだよ」
「えっ? こ、ここなの……?」
初めて見た直人くんの家はすごく広かった。
なんか……お金持ちの家って感じで、入り口からびびってしまう。
「あははっ、どうした? 水瀬」
「こんな家……初めて」
「えっ? そうか? 普通だと思うけど……、行こう。今日は誰もいないから」
「う、うん……」
そして私は直人くんの部屋に来てしまった。
「緊張しなくてもいいよ。水瀬」
「うん……」
「あっ、そうだ。水瀬ってずっと教室で一人だったじゃん。もしかして、友達いないの?」
「えっ……? そ、そうだけど……」
「俺と一緒じゃん……」
「えっ? どうして……? 西崎くんは……モテる人でしょ……?」
「ううん……。そう言われても、親友と言える人はあんまりないからさ。あんな人たち、いてもいなくても俺の人生は変わらない。寂しいのはそのままだから」
「そうなんだ……」
「だから、教室にいる水瀬を見た時! 俺さ! 友達になりたくて……、つい声をかけちゃった。なんか、ごめん」
「う、うん……。気にしない……から」
それがすべての始まり、私はすぐ帰るべきだった。
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