58 日常②

 昼休み、今日は直人がいないところで三人が集まった。


「あ、みんな来てるんだ」


 そして屋上に向かう時、廊下で直人と目が合ってしまったけど、俺はもうあいつと関わりたくなったからそのまま無視した。思い返せば……、俺と霞沢がいるところにはいつも直人がいたからな……。いつからあんなことを企んでいたのかは分からないけど、今は二人とも直人の本音を知ってるからずっと避けていた。


 今はそれで十分だと思う……。


「北川くんだ〜! こっちだよ〜」

「り、りおくん……」

「あっ、ごめん。お茶買ってきたぞ!」


 でも、あいつの……その目がちょっと気になる。


「そういえば、井原」

「うん?」

「教室で何もなかったのか? 隣席、あいつだろ……?」

「ああ、うん。そうだよね。なんか焦ってるように見えるけど、私もあんな人と関わりたくないから……」

「そっか、余計なことを聞いてごめん」

「ううん……。それより、二人とも仲良くなったね!」

「えっ?」


 そばに来て、俺の肩に頭を乗せる霞沢。

 いつの間に来たんだ……。

 今は井原もいるし、こんな風にくっつくのはちょっと恥ずかしいけど……と思ったら俺に寄りかかって寝ている霞沢だった。


「…………」


 学校に行く時はイキイキしてたのに、やっぱり我慢してたのか……。


「あい……?」

「あれ……、あいちゃん寝てる……。もしかして、寝不足?」

「まあ、昨日……いろいろ話したからさ。仕方がない」

「そうなんだ。それで、北川くんはどうする? 西崎くんのこと」

「どうするって言われたも、今はあいつを無視するしかないよな……。あいつの顔を見ると吐き気がするけど、復讐など考えていない。俺はあいと過ごすこの時間が好きだら……、これでいい」

「そうだよね。復讐など……ドラマみたいなことだから、現実でそんなことできるわけないし……」

「うん」


 てか、三人でお昼を食べるつもりだったけど、霞沢ずっと寝てるし……。

 仕方がなく、井原とお昼を食べることにした。


「…………」


 邪魔になる横髪を耳にかけて、すやすやと寝ている霞沢の頭を撫でてあげた。

 なんで直人はそんなに霞沢のことを欲しがっていたんだろう……。お前にはただ弄ぶためのおもちゃだったはず、今更恋に落ちたとか……そういうことなのか……? 霞沢の寝顔を見つめながらそんなことを考えていた。


「やっぱり……あいちゃんには敵わない……」

「うん? なんの話?」

「あいちゃん、本当に可愛いよね? 前にはずっと何かを心配してたけど……、今は幸せそうに見える。北川くんのおかげだよ。あいちゃんのこと大切にしてあげて、北川くん」

「うん……」

「私は先に行くから、あいちゃんと二人っきりの時間を楽しんでね。でも、授業はサボらないように!」

「分かった……」


 それから二人っきりになる。

 でも、霞沢は……お昼食べなくてもいいのか? ずっと寝てるし……。


「うう…………」


 暇だったから霞沢の頬をつついた。


「そろそろ起きないと、食べる時間がなくなっちゃうよ。あい……」

「ううん…………」


 無理やり起こすのも悪いし、霞沢のそばでじっと空を眺めていた。

 幼い頃にはこうやって雲を見ていたよな……。

 ドーナツの形とか、バナナの形とか、なんか懐かしいな……。幼い頃の思い出がこんなに懐かしくなるなんて……、どれだけ好きだったんだよ。俺ってやつは……こんな些細なことまで全部覚えてたんだ……。


「うん?」


 スマホの通知が……。


『りお、ちょっとだけでもいいから話をしよう』


 直人か、それより話なんて……。俺はお前と話したいこと何もないけどな……。

 無視するしかない。

 てか、俺もブロックした方が良さそうだ。


「ううん……。おはよう……」

「お昼だぞ。あい……」


 そして、俺を抱きしめていた霞沢が起きる。


「はあ……、寝不足……」

「バカ」


 昨日、霞沢は直人の連絡先を削除し、ラ〇ンもブロックした。

 直人のラ○ンを全部無視した霞沢は俺に抱きつく、俺はそんな彼女を抱きしめて二人っきりの時間を過ごしていた。直人は甘い言葉でたらし込むのが得意だから……ブロックした方がいい。元々、そんなやつだったし……。


 なんで、あんなやつと友達になったんだろう。

 俺の考えが甘かった。


 ぐうう……。


「あっ!」

「お腹すいた?」

「聞こえたの?」

「まあ……」

「食べたい! 食べさせて! あーん」


 目の前で口を開ける霞沢に、さりげなくお弁当を食べさせた。

 もぐもぐと食べる彼女を見ると、あの時のことを思い出してしまうから……なんかいいなと思っていた。


「おいひい〜」


 こっそり手を繋ぐ霞沢、俺たちの距離はあの時と一緒だった。


「なんか懐かしい……」

「そうだよな」


 俺に寄りかかる霞沢が足を伸ばせた。


「りおくん」

「うん?」

「私……今更こんなこと……悪いって知ってるけど、私……りおくんのそばにいてもいいの……?」

「構わないけど……? どうした?」

「離れたくないから……、りおくんのそばにいたい」

「昨日、そんなにキスをしたのに……また心配してるのか……?」

「だって……」

「いいよ。そんなこと気にしない」

「ごめんね……」

「そのごめんねも禁止……、もういいから。あい」

「うん……」


 自分の選択にどれだけ後悔しても、過去は過去だから変わらない。

 でも、未来のことは違う。

 今の俺にはまだチャンスがあるから、これから二人の関係を変えよう。また一つずつ……、あの時みたいに少しずつ……、何があっても俺は霞沢のそばを離れないって約束したからな……。


 そして、好きだから……。


「ぎゅっとして……りおくん」

「子供かよ……」

「いいじゃん……。いいじゃん…………」

「全く……」


 霞沢はあの時みたいに、同じ言葉を繰り返していた。


「あったか〜い、そして気持ちいい……」

「あい」

「うん……?」

「好きだよ」

「私も……りおくんのこと好きだよ」

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