十、チェンジ
57 日常
天気がいい朝、俺は霞沢と朝ご飯を食べていた。
そして、昨日全然寝られなかった霞沢が目の前でうとうとしている。だから、ほどほどにしろって言ったのに……。まさか、朝になるまで離してくれないとは……一体どれだけ我慢してたんだよ。昨日の霞沢はペットみたいにくっついて、ずっと愛情表現を求めていた。「ぎゅっとして」とか「キスして」とか……。
むしろ、霞沢のせいで寝られない俺だった。
まあ、どれだけ時間が経っても霞沢に甘いのは変わらないってことか……。
「あい、ちゃんと食べないと……」
「はい……。はあ〜」
「あくび禁止」
「はい……」
さっきからうとうとしている霞沢に、仕方がなく隣の席に移る。
このままじゃ遅刻確定だからな……。
「ほら、あーん」
「あーん」
「一人で食べれるんだろ?」
すると、頭を横に振る霞沢がまた「あーん」する。
なんで小学生の時にやったことを……今。
「へへ……、朝ご飯はずっと一人で食べてたからね。いつもと同じ朝ご飯だけど、なんか違うって気がする」
「一応、二人だから……」
「ふふっ。あーん」
「てか、自分で食べろ!」
「いいじゃん。あーん」
「全く……、成長しないな。あいは……」
「りおくんがそばにいるから成長しなくてもいいですよ〜」
「いや、ご飯くらい自分で食べろ! あい!」
「えへっ」
なんかムカつく……。
……
やばっ。全然寝られなかったからか、目の下にクマができてしまった。
てか、さっきまでうとうとしていた霞沢がなんで今はイキイキしてるんだ……。
「うわっ、りおくん。クマ!」
「誰のせいだと思う……?」
「あいにはよく分かりません!」
「…………学校、行こう」
「は〜い」
外で手を繋ぐ二人、霞沢が笑っていた。
明るくなったのはいいことだけど、まだ問題はたくさん残っている。あの時、俺たちには誤解を解くチャンスはあったはずだ。でも、そのチャンスがなくなってしまったのは直人、お前のせいだろ? 裏で何を企んでいるのかは分からないけど、俺たちはもうお前の思い通りにならないから……。
「なんか、寒くなってきたよね? りおくん」
「うん。あいの手、冷たいね」
「でも、大丈夫! りおくんの手があったかいから!」
「バカ……」
今更だけど、直人とゲームをやってた時……。
霞沢の趣味とか、好きな食べ物とか、いろいろ聞いてたよな。それは転校した後のことだから、俺と霞沢の関係を知っている直人ならそんなことを聞くはずない。まさか、あいつ俺が記憶喪失だったのを知っていたのか? だから、ずっとゲームをしながら……俺から必要な情報を……。もし、それが本当ならマジ怖いんだけど……。そして水瀬とあんなことをやってきた直人なら、きっとそれを知っているはずだ。
今日はあいちゃんとデートする予定だから、どんな服がいいのか教えてくれない?
そろそろあいちゃんの誕生日だからさ、何がいいのか選んでくれない?
りおさ、好きな人いないのか……? 彼女、作った方がいいぞ?
など……。
直人の行為、そのすべてが意図的だった。
今の俺はそう思っている。
「あのさ、あい」
「うん……?」
「あいつの名前を口に出すのは俺も嫌だけど……、一応同じ学校だから昨日のラ〇ンで終わらないはず。あいはどうする?」
「うん……。無視すればいいんじゃね? あんな人……」
「あいつ、また汚い手を使うかもしれない。騙されないように注意しよう」
「うん。私は……西崎を許せない。絶対に……。私の知らないところで……あんな汚いことを……」
「うん。もういいよ。あい」
「…………」
……
「あっ、北川くん! あいちゃん!」
教室に入ると、明るい顔で挨拶をする井原が俺たちを待っていた。
「京子……」
「二人とも上手く行った?」
「ありがと……、京子。そして……ごめ……っ」
「いいよ。気にしなくても……」
「うん……」
二人の間に何かあったみたいだ。
「そんな顔しないで、あいちゃん。私は大丈夫だから」
もし井原が小林を呼ばなかったら俺たちは何も解決できず、ずっとお互いのことを誤解したかもしれない。もちろん我慢していた俺も悪いけど、小林がそう言ってくれなかったら……俺一人じゃ何もできなかったはず。ずっと霞沢と距離を置くことだけを考えていたからな……。
「あ、そうだ。今日学校が終わった後、時間あるの? 二人とも」
「うん」
「北川くんは?」
「俺? 一応、予定はないけど……?」
「じゃあ、行きたいところがあるから私に付き合ってくれない?」
「分かった」
「そして西崎くんとは話さない方がいいかもしれない。そうだよね? あいちゃん」
「うん……」
あれ? 井原も直人のこと知っていたのか……?
「その顔はどうして知ってるのって顔だね。それも学校が終わった後にちゃんと説明するから」
「分かった……」
「それより、聞きたいことがあるけど……」
「うん?」
「二人、付き合ってんの……?」
それを聞いた霞沢は震える声ですぐ否定した。
「えっ? そ、そんなことで、できるわけないでしょ!」
「あいちゃん……、めっちゃ照れてるじゃん……」
「ち、違う……!」
「私あいちゃんのことをずっと見ていたよ。初めて北川くんと話した時からずっと」
「…………」
「ねえ、知ってる? 二人同じ表情をしていたから、きっと二人の間に何かあったと思ってね。北川くんもそうだったし、あいちゃんもそうだったから。ずっと悲しそうな表情でお互いのことを見ていたよ。私にはそれが分かる」
「うん……」
「井原はいい人だな……」
「そう? 私はただ気になっただけ。二人は……友達以上の関係だったはず、私には最初からチャンスなどなかった」
「京子……!」
「うわっ!」
井原に抱きつく霞沢が泣いていた。
「ありがと……。京子……」
「よかったね。あいちゃん……」
そして井原が微笑む。
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