55 今の二人③

 自分がやったことをずっと後悔しながら……俺の前で泣いていた。

 つまり直人はトラウマになりそうな状況を作って、霞沢の心が壊れた瞬間を狙ったことになる。そしてどんな方法を使ったのかは分からないけど、俺たちはあの日から連絡できなくなった。ずっとタイミングが悪かったと思っていたのに、全部直人の仕業だったのか……。今更だけど、あいつ……俺と霞沢が会えないように裏で何かを企んでいたような気がする。


「…………ごめんね」


 俺はその景色を眺めていた。

 俺はいつの間にか一人ぼっちになって……、直人はその間に見えない線を引いていた。


「いいよ……。もう、いいから……」

「私……。本当に……西崎とあんなことやってないから……。私がずっと好きだったのはりおくんだけだよ。こんな風になっちゃって……本当にごめんね」

「振り回されただけだろ……? あい」

「……うん。でも、りおくんを傷つけちゃったから……」

「いいよ……。もういい…………。だから、あいも自分を傷つけるようなことしないで」

「うん……」


 啜り泣く霞沢を見て、俺はしばらくじっとしていた。

 お前……いいやつだと思っていたのに、知らないところでそんなことばかりやっていたのか。本当に信じられない……。そんなことをやりながら俺とゲームをしていたのかよ、何もなかったように笑っていたのかよ……! 汚い、汚い…………。あんなやつと友達になるんじゃなかった。そうしなかったら……、俺と霞沢の間には何もなかったはず……。何もなかったはずだ!


 心が痛い。


「あい……、こっち見て」

「うん……?」

「……っ」


 何年も、自分の気持ちを抑えてきた。

 友達の彼女だと信じていたから、はっきりと言えなかった俺が悪かったから、そのすべてを心の底に埋めていた。もし、あの時……二人でちゃんと話したらきっと違う結末になったはず。そんなこと、どうでもいい。過去は過去だから……今は霞沢と一緒にいられる。俺はそれでいい……。


「…………」


 そして、彼女をベッドに倒した。


「キスしていい……?」

「うん。したい……」


 霞沢は両腕で俺の体を抱きしめてくれた。


「りおくん、もうちょっと…………。もう……ちょっと……、りおくんとキスがしたい」

「…………いいのか?」


 こくりこくりと頷くあい。


「…………」


 ずっとこうなりたかった……。

 恥ずかしいけど、いつか霞沢と付き合ってこんなことをする日を俺はずっと待っていた。とても長かった……。とても…………長かった。二人は指を絡めて、ベッドでくっついて、長いキスをする。俺は……この温もりが欲しかった。


 そう、あの時と同じ感覚だ……。


「はあ……」

「なんで、また泣くんだよ……」

「だって……、私が悪いんだから……。全部私が悪いんだから……」

「さっき、俺がいいって言っただろ……?」

「うん……」

「もういいよ。あい……」


 夜の十一時、すやすやと寝ている霞沢を抱きしめてあげた。

 幼い頃にはこうやって二人で寝ていたから、懐かしいな。それにベッドではなく俺の上で寝る時もあったし……、その寝癖は本当につらかった。重いってずっと言ってたのに、その癖が直るまで時間がけっこうかかっちゃったから。てか、俺はそんな些細なことまで覚えているのかよ……。ずっと一緒だったから仕方がないか。


 目を開けると、すぐ霞沢の寝顔が見えるから……。

 ずっとそばにいたよな。


「ううん……。りおくん……」

「寝言か……」

「…………」


 そろそろ帰るか……、もう〇時になりそうだし。

 でも、寝ている霞沢は俺を離してくれなかった。


「……ええ……」


 仕方がなく、ゆっくり動いていた。

 そして霞沢に布団をかけてあげた後、頭を撫でる。


 ブンー。


「うん……? こんな時間に誰が? いや、あいのスマホか」


 テーブルに置いていた霞沢のスマホに、ラ〇ンの通知がたくさん……。

 誰がこんな時間に……?


「ごめんね。あい……」


 俺はスマホのロックを解除し、ラ〇ンを開いた。


「うわ……、マジかよ。これ……」


 五十件以上のラ〇ン通知、すべて直人からのラ〇ンだった。

 鳥肌が立ってしまう。『どうして?』『別れたくない』『ずっと一緒だったのになぜ今更?』など……。どうやら直人、焦ってるように見える。お前、そんなに霞沢のことが好きだったのか……? いや、お前は自分の何かを満たすために……霞沢が必要だっただけだ。


 イライラするから……、スマホをテーブルに戻した。


「あいはもうお前の彼女なんかじゃない。直人…………」


 部屋を出て玄関でため息をつく時、目の前の扉が開かれた。


「えっ?」

「あれ? りおくん?」

「霞沢さん……?」


 し、しまった……。

 こんなタイミングで霞沢さんが……帰ってきた。


「久しぶりだね……。あいちゃんは?」

「あ、はい。寝てます」

「そっか、いつもあいちゃんの面倒を見てくれてありがと。りおくん……」

「いいえ」

「そうだ。久しぶりだし、話をしようか? あっ。でも、時間が遅いから……また今度に……」

「いいえ、話しましょう。霞沢さん……!」

「いいの?」

「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る