47 弱虫りお②

 霞沢はいつも俺のそばにいてくれた。

 学校にいる時も、寝る時も、家でゆっくりする時も……、ずっと俺のそばにいてくれた。俺の人生、その半分が霞沢だと言っても過言ではない……。それほど霞沢のことが好きだった。ずっと、好きだった。でも、このままじゃ俺たちの関係は変わらないから……。今の気持ちを伝えたかった。


 その笑顔を見ると、つい頭を撫でてしまう。

 もう無理、好きすぎて……つらい。


「りおくん……! これ見て!」

「うん?」

「子猫の動画! 可愛いよね?」

「なんか、幼い頃のあいみたいだ……」

「ええ! 私こんなに可愛いの? えへへっ、嬉しい〜」

「いや、面倒臭いから……」


 すぐ頭突きをする霞沢だった。


「痛っ……」


 そうだ。彼女はいつもこんな感じだった。


 そしてそんな霞沢に「好き」って感情を感じないのは男として失格だよな……。

 当たり前のように手を繋いで、さりげなく俺を抱きしめる。

 恥ずかしくてすごく緊張していたけど、霞沢はそんなこと気にしていなかった。俺たちは告白をしていないだけ、学校ではすでにイチャイチャするカップルってよく知られていた。


 いつの間にかそんな噂が広がっていた……。


 でも、噂と真実は違う……。

 霞沢がどう考えているのか分からないし。ただ、小学生の頃から感じていたその気持ちを伝えたかっただけ。ウジウジしている間に霞沢が他の人と付き合うかもしれないから、チャンスは今しかないと思っていた。


 とはいえ、勇気を出すにはけっこう時間がかかる。


「あのさ、あいは……。す、好きな人いる……?」

「いるよ?」


 ストレートに言っちゃったけど、それ以外の言い方分からないから……。


「だ、誰……? 同じクラスの人……?」

「うん。同じクラスの人」

「…………」


 そっか……。

 同じクラスの人だったのか、霞沢が好きな人ならきっとカッコいい人だよな。

 なんか、すごく羨ましい。

 馬鹿馬鹿しいけど、そんなことばかり考えていた。


「りおくん、どうしたの……? あっ! もしかして、気になるの?」

「……べ、別に……それはあいの自由だから」

「へえ、りおくんは私のこと気にしないんだ。私は……りおくんのことすごく気になるけど……」

「……っ、なんで?」

「いつか私より可愛い女の子と付き合うかもしれないから……。私はそれが怖い。ひひっ……」

「……そ、そんなわけねぇだろ……! 俺だって…………」


 その言葉が恥ずかしくて、口に出せなかった。


「りおくん……、私ずっとここにいるから……。約束、守ってくれるよね?」

「うん」


 言えなかっただけ、あの時の二人は知っていた思う。

 そんな約束だったからな。


 ……


 そして季節は冬になる。

 雪が降って白い息が出る寒い天気、あの日も二人は一緒に登校した。


「歩きにくい……あい。それより手が冷えるじゃん……」

「……ううん。でも……手繋ぐのが好きだから!」

「全く……。じゃあ、これでいい……?」


 繋いだ手を俺のポケットに入れた。


「ひひっ、うん!」


 すると、霞沢の顔が赤くなる……。

 マジやばい……。男の保護本能をくすぐるその顔に、恥ずかしくてすぐ目を逸らしてしまった。そして、好きになってから霞沢の反応がどんどん可愛く見える。本当に耐えられない。手を繋いで、一緒に登校して、今までずっと一緒だったのに……どうして告白をするのができないだ……?


 バカみたい。


「りおくんの手あったかいね!」

「そう……?」

「ひひっ。でも、やっぱり寒いかも……」

「そうだよね。温かい飲み物でも買おうか?」

「うん! 私、コンビニ寄りたい! 行こう!」

「うん」


 霞沢の笑顔は本当に可愛い……、小学生の時と一緒だ。


「あい! 雪!」

「あったか〜い! …………うぶっ!」


 コンビニを出る時、霞沢の頭に雪が落ちた。

 全く……、ちゃんと言ってあげたのに……。


「何してんだよ……」

「うう……。冷たい! 体が冷える……」

「じっとして……」

「うん……」


 頭の雪を払う時、こっちを見上げる霞沢と目が合った。

 彼女は温かいお茶を飲みながら幸せな顔をする。


「ありがと! りおくん」

「バカ」

「りおくんも飲む?」

「いらない〜」

「ええ……、飲んでおかないと体冷えちゃうから!」

「…………分かったよ」


 てか、これ間接キスじゃね……?

 でも、霞沢こんなことあんまり気にしないから……いっか。

 いや、もしかして俺だからか……? 変な妄想に顔が熱くなる。


「間接キス!」

「ぷっー!」

「あはははっ、びっくりしたの? えへっ!」

「あい……」

「あははははっ。私の勝ち!」

「全く……」


 霞沢と過ごすこの日常が好きだった。

 だから、はっきり言いたい。

 霞沢のことが好きって……、はっきり言いたかった。


 もう少し勇気を出せばいいのに……。


 そして長い間、一人で悩んでいた。

 霞沢と過ごす時間が増えれば増えるほど……、好きという気持ちがどんどん膨らんで……もうコントロールできなくなる。そんなことないって否定できるのも昨年までで……今は霞沢が欲しい。俺の彼女になって欲しかった。


 ずっと霞沢のそばにいたいから……。


「りおくん、今年のクリスマスイブ何したい?」

「へえ、クリスマスイブか……?」

「うん! やりたいことあるの?」

「俺さ……! あいに言いたいことがあるから、学校の裏側に来てくれない? ひ、一人で……」


 告白なんて、やったことないけど……クリスマスイブには一緒にいたかったから。

 今年は霞沢の彼氏になりたかった。

 なぜか、勇気が出る。


「うん!! じゃあ、学校終わったらすぐそっち行くね! そしてわ、私! ちょっと職員室に行ってくるから!」

「うん」


 ああ……、言っちゃった……。

 どうしよう……。


「…………」


 落ち着かない。

 それにドキドキしすぎて息ができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る