36 線③
「お、落ち着いて……。あやかちゃん……」
「それより京子ちゃんの好きな人、北川くんだったの? 全然知らなかった。そんなことあったら早く教えてよ……」
「ごめん……。でも……振られたから」
「それは仕方ないね。こんなに可愛いのに、京子ちゃん……」
「そ、そんなことない……」
私もできればあやかちゃんに相談したかった。
でも、それは私の片想いだったから……、どうなるのか分からなかったから……、言えないままずっと我慢していた。今は全部終わっちゃったからあやかちゃんに言えるけど、それでも北川くんの顔を見るたび……心臓がドキドキしてしまう。その気持ちだけはどうしても忘れられなかった。
恥ずかしい……、西崎くんの話に勇気を得て告白したのに。
絶対、いけると思ってたのに……。
全部、私の勘違いだった。
「…………」
「京子ちゃんが塾に来ないのは失恋のせいだよね?」
こくりこくりと頷く京子。
「気持ちは分かるけど……。京子ちゃんまでいなくなったら私はどうすればいいの? みんなそうやって部屋に引きこもって……私一人じゃ寂しいよ」
「ごめん……」
「でも、恋ってそういうものだから……仕方がない」
「うん。そ、それよりあやかちゃん! 私、聞きたいことがあるけど……」
「うん。何?」
「私にも教えてくれない……? 北川くんのこと……、私も知りたい」
「…………ううん。いいけど、私も全部知ってるわけじゃないから」
「うん。あやかちゃんが知ってること……私に教えて」
少しだけでもいいから、北川くんのことが知りたい。
誰か、私にそれを教えてほしかった。
「みんな同じ小学校を卒業してそのまま同じ中学校に行っちゃったから、全部友達って感じだったよ」
「うん」
「でも、二人だけ。違う世界に住んでるような気がした。それが……」
「…………北川くんと、あいちゃん」
「そうだよ。実際どうだったのかは分からないけど、あの時はみんな絶対付き合ってるってそう思ってたから……」
「うん」
「そして中学生になってもあの二人は小学校の頃みたいにくっついてた。それを見てからかう人もたくさんいたけど、いつの間にかあの二人はみんなの憧れになった。北川くんは誰よりも霞沢のことを優先して、女の子の間では優しい彼氏そのもの。そして霞沢は学校で一番可愛い女の子って男子の間で噂された……」
私は初めてあいちゃんと出会った時を覚えている……。
綺麗な女の子。私とはレベルが違う人だった。
そしてそんなあいちゃんが西崎くんの彼女だったことに、私はホッとする……。もうちょっと頑張ればできると思ってたから……、私にもチャンスはあると思っていたから……。
「確かに、二人は幼馴染だったから……」
「うん。でも、ずっと変わらないと思ってた二人の前に……あの西崎直人が現れた。それからとんでもないことが起こってしまう」
「と、とんでもないことって……?」
「あの三人が友達になってから、北川くんと霞沢がどんどん距離を置くような気がした。最初は気のせいだと思ってたけど、まさか…あの二人が付き合うとは思わなかった……。信じられないことが目の前で起こったよ。京子ちゃん」
「それって、西崎くんとあいちゃんのこと……? 信じられない」
「そうだよね? だって、みんなあの二人がどれだけお互いのことを大切にしたのかをちゃんと知ってたから……。それは私も予想できなかったよ」
「どうして北川くんとあいちゃんは結ばれなかったの……?」
「私にも……よく分からない」
今の北川くんはどう見てもあいちゃんのことを気遣ってるような気がする。
それは幼馴染だったから……癖になっちゃったこと? そしてあいちゃんも北川くんとたまに何かをするから、そこがよく分からない。今は西崎くんがいるのに、どうして北川くんとそんなことをするの? 二人っきりで何をするの? 知りたかった。でも、それより気になるのはたまに悲しくなるあいちゃんの顔……。
謎だらけの関係———。
「…………」
「そして、私は見てしまった。あの時のことを、それはショックを受けるしかない状況だったと思う……」
「何があったの?」
「あの二人、学校でキスをした……」
「キ、キス……?」
「私は西崎のせいだと思っていた。彼が汚い手を使って二人の関係を壊したと……そう信じていたのに……。私は霞沢が北川くんを裏切ったのを最後まで否定していたのに……。全部、私の勘違いだったよ」
「えっ?」
「あの子が廊下で大声を出した時のこと。京子ちゃんは知らないと思うけど……霞沢はあの子から西崎を奪ったよ。信じられないよね?」
うん……? 今の、なんの話……? えっ?
あいちゃんはあの子から西崎くんを奪ったの……? どうして……?
その話、私には理解できなかった。
「北川くんとそんなに仲が良かったのに、人の彼氏を奪って……学校で堂々とイチャイチャする人たちを私は許せなかった。しかも、西崎はそのままあの子と別れて……霞沢と付き合うことにした。私が知ってるのはここまでだよ。西崎とはクラスメイトだったからね……」
「ちょっと待って! あいちゃんがそんなことを……? いや、あやかちゃんの見間違いじゃないの……?」
「ん? どうして京子ちゃんが霞沢のことを庇うの……?」
「いや……、それは……」
「だから、あの子も部屋に引きこもって出ようとしないんだよ。霞沢に西崎を取られて、振られちゃったから……。今なら分かる。どうしてあの子が塾にこないのか、どうして連絡もしないのか……、全部あの二人と関わっているからだよ。それでも、あの二人と友達のままでいたい……? 京子ちゃんはそうしたい……?」
「わ、私は……」
ショックだった。
私が予想したことと全然違って、どうしたらいいのか分からなかった。
あやかちゃんの話に上手く答える自信がない……。
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