35 線② (改)

 それは数日前の話、私が北川くんに振られた時のこと……。

 あの日は何もやりたくなくて塾にも連絡せず、ずっと部屋に引きこもっていた。理由はともかく、私じゃダメだったから……。それから学校で北川くんの顔を見ると胸が苦しくなって何もできなくなる。好きだったから勇気を出して告白したのに、北川くんはなぜか彼氏持ちのあいちゃんを見ていた。


 幼馴染だった二人の間には私が知らない何かがある……。

 だから、西崎くんに私が感じたその感情を言えなかった。


 そして、私の居場所もなくなっちゃった。


「分からない……」


 枕に顔を埋めて、恥ずかしかった自分の言動に後悔する。

 そして考えをまとめた。

 西崎くんはいい人でなぜか積極的だし、北川くんはたまにすごく悲しそうな表情をする。私はあの三人についてよく知らないけど、一つ気になるのはあいちゃんから感じられるそのわけ分からない雰囲気だった。


 あいちゃんはどうしてそんな顔をするのかな……?

 そして、北川くんも……。


「……今更、そんなこと考えても終わっちゃったよ。私の片想い……」


 ため息をつくと、あやかちゃんから電話がくる。


「お〜い。京子ちゃん今どこ?」

「…………家」

「えー、マジ? 今日も来ないの? 塾」

「行きたくない……」

「ふーん。じゃあ、今日は一緒にカフェ行かない? 甘いもの食べようよ〜」

「うん……」


 この子の名前は小林こばやしあやか。

 あやかちゃんは塾で出会った女の子で、友達がいない私はほとんどの時間をあやかちゃんと過ごしてきた。たまには一緒に勉強をして、たまには遊びに行く時もある。でも、あやかちゃんは私と同じ学校じゃないから……学校にいる時はいつも一人ぼっちになってしまう。


 そして私が落ち込む時、あやかちゃんは何があっても私の話を聞いてくれる一人しかいない大切な友達だった。

 頼りになる人、今はあやかちゃんしか残ってないから。


「それで、どうして塾に来ないの? 何かあったよね? 京子ちゃん」

「わ、分かるの……?」

「どうせ、三年の先輩に告られたよ……でしょ?」

「違う、逆だよ……」

「そうなんだ……。えっ? 逆なの? 京子ちゃんが男に告白したってこと……?」

「うん」

「ええ……、マジ? しかも、京子ちゃんに告られたのにそれを断ったの……? 信じられない」

「へへ……。一年生の時からずっと好きだったけど、もう終わっちゃったよ」

「マジありえない。あ、そうだ。私が一言言ってあげようか?」

「うん……? ダ、ダメだよ!」

「どうして? その男に一言言ってあげないと! 腹立つ……! うちの京子ちゃんを断るなんて……!」

「そう言ってくれて嬉しいけど、本当にいいよ。北川くんに何かあったかもしれないから……、私の知らない何かが……」


 コーヒーを飲んでいたあやかが、りおの苗字にビクッとする。


「えっ? 今なんって?」

「うん?」

「北川……? それってもしかして……北川りおのこと?」

「えっ? 北川くんのことを知ってるの? あやかちゃん……」


 不思議だった。あやかちゃんは塾で出会った友達だから、北川くんのことを知るわけないのに。その顔はどうやら北川くんを知ってるみたいだ。何、私だけ……? 北川くんのことを知らないのは私だけなの……? その場で言えなかったけど、ちょっと悔しかったと思う。


 私も、北川くんの……。


「そんな顔しないで、京子ちゃん」

「…………なんか、私だけ。浮いてるような気がしてね」


 それから北川くんとあったことをあやかちゃんに話してあげた。


「へえ……、そっか。が出て来ない理由、今ならわかりそう……」

「あの子……?」

「隣席に座ってたじゃん。忘れたの?」

「ああ……! 覚えてる! ここ最近塾に来ないから……、あの子のことをうっかりしちゃった……。なんか、ごめん」

「私に謝ってどうすんのよ〜。それで、あの子と連絡してるの?」

「ううん……。半年前に送ったラ○ンも未読のままだから」

「そっか……、仕方がないね。それは……」


 コーヒーを飲むあやかちゃんをちらっと見る。


 あやかちゃんはあの二人について何か知ってるのかな……?

 北川くんの名前を知ってるってことは、やはりあの二人のことも知ってるってことだよね……? 聞きたいけど、どうしたらいいのか分からなくてすごく悩んでいた。すぐ聞きたいのに……どこから聞けばいいのかな。


「もしかして、京子ちゃんは知りたいの? 北川くんのこと」

「えっ? あやかちゃんは何か知ってるの?」

「やっぱりそうだよね。気になっちゃうよね……。北川くん割とカッコいいから、好きになるのも無理ではない」

「…………」

「一応、連絡が途絶えたのは北川くんのせいじゃないと思う。もしかして、あの二人も転校してきたの? 西崎直人と霞沢あい」

「えっ……、どうしてそんなことまで知ってるの?」

「へえ……、あのクズどもまだ生きてるんだ。さっさと死んでほしかったのにね」

「えっ……? ど、どうしてそんなことを言うの……?」

「京子ちゃんはまだ知らないから、そんな反応をするのも当然だと思う。でも、あの二人と関わっちゃいけないよ」


 そしてあやかちゃんの顔がどんどんく暗くなる。

 一体、何があったの……?


「…………」

「人を傷つけることしかできないクソ男とクソ女じゃん。北川くんが可哀想だよ。霞沢と北川くん、あの二人が小学生の頃から一緒だったのを私は知っている。いや、それはあの中学校に通っていた人なら誰でも知っている常識だったよ」

「…………」

「なのに、あんな風に人を裏切るなんて……ありえない。ありえない……」


 あの優しいあやかちゃんが怒っている……。

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