六、知らないところで
34 線
賑やかだ……。
そろそろ文化祭の時期だからか、みんな朝からすごくイキイキしている。昨年までは俺と全然関係ない日だったけど、今年はどうなるんだろう。あの時は教室の裏側でデザートばかり作っていて、特にやりたいこともなかったし……。だから、目立たないところでこっそり頑張るだけだった。
そんな文化祭だったと思う。
確かに、井原も一緒にやってた気がするけど……。
「よっ! りお。遅いな〜」
「直人? お前、最近早いな……。どうしたんだ。昔はいつも遅刻してたくせに」
「そう……? なんか、最近いいことばかりでさ」
「そっか? よかったな」
「あれ……? りおからいい匂いがする」
「そう? 柔軟剤の匂いじゃね? この前に新しいの買ったから」
「ふーん」
なんか、気まずい……。
霞沢とあんなことをした俺がさりげなく直人と話すなんて、できればあの時のことを全部忘れたい。霞沢を止めなかった俺にそんなことを言う資格はないけど、それでも当時の俺はその気持ちをどうしたらいいのか分からなかった。
あの夜は霞沢に襲われたような……そんな気がする。
「みんな、おはよう〜!」
そして、霞沢が現れた。
「あいちゃんだー!」
「直人くんおはよう! 北川くんもおはよ〜」
「うん。おはよう」
「みんな、朝からイキイキしてるね! 文化祭かぁ〜。懐かしい」
「俺たち、あちこち回ってたよね。あの時は楽しかったよ〜」
「そうだよね〜」
「あれ〜。みんな、ここにいたんだ!」
俺たちの声が聞こえたのか、隣の教室から井原が出てきた。
井原、霞沢、そして直人まで……、みんな俺の大切な友達だ。
そして全員俺と関わってる人だから、この関係がとても難しい。みんなと仲良くなるのはいいことだけど、俺だけ針の筵だった。上手く説明できないこの関係を、俺は一人で乗り越えられるのか……。それに、どこから手がかりを探せばいいのかもちゃんと考えなければならない。
また……胸が苦しくなる。
「北川くん、おはよう!」
「うん。おはよう」
「ねえねえ、文化祭だよ! ワクワクする! 今年は他学校の友達が来てくれるって言ったからね!」
「へえ……。井原、子供みたい」
「そ、そんな……。だって、昨年は北川くんとデザートばっかり作ってたから……」
「あっ、さすがに……それは文化祭よりバイトだったよな……」
「そうそうそう……。だから、今年はあちこち回りたい! へへっ」
「いいな。それも……」
それにしても、文化祭か……。
今年も楽しいイベントがたくさん行われる予定なのに、俺はまた一人で回ることになるよな。
言わなくてもその未来が見えてきて、なんか悲しくなった。
「じゃあ、俺たちは先に行くからな」
「どこ?」
「ふふっ、気になるのか?」
「まあ、イチャイチャするのは構わないけど、ほどほどにしとけよ。学校だから」
「オッケー」
ウキウキしている直人はいいとして、霞沢はどうしてそんな顔をするんだ……?
その表情の意味が分からない。
「…………」
ちらっとりおの方を見るあいと、その視線に気づく京子。
「なあ、りお。お昼はみんなで食べよう。じゃあ、行ってくる!」
そう言ってから、霞沢をどっかに連れて行く直人だった。
「行っちゃった……」
「うん」
「ねえ、北川くん! 今忙しい?」
「暇、まだ時間あるから」
「じゃあ、私たちも人けのないところでゆっくりしよっか?」
「うん。そうしよう」
……
この学校でリラックスできる場所なら、やはり屋上しかないよな。
「ねえ、北川くんは……まだあいちゃんのことを……」
「ぷっ……、えっ? い、いきなり?」
「ご、ごめん……。だって、あいちゃん……。いや、やっぱりなんでもない。ごめんね、北川くん」
「井原……」
「へへっ……、ごめんね」
いけない。霞沢の名前を聞いただけなのに、すぐ緊張してしまうのかよ。
俺ってやつは……。
「あのね。文化祭の時、北川くんは一人で回るの?」
「まあ、そうなるかもしれない。悲しいけど……」
「じゃあ、私の友達も来るから三人で回らない……? どうせ、あいちゃんは西崎くんと一緒に回るはずだから、三人で楽しもうよ!」
「構わないけど、女子たちの間に俺がいてもいいのか?」
「うん! もちろん! そして昨年は北川くんと一緒にデザートばっかり作ってたから、今年はいろいろやってみたいなと思ってね」
「いいよ。井原がそうしたいなら、俺も構わない。どうせ、一人ぼっちの文化祭になるはずだったから」
「今年は私と私の友達がいるよ! 一緒に楽しもう! 北川くん」
「おう! あっ、そうだ。そろそろ教室に戻らないと……」
「うん!」
急いで教室に戻るりお、そして屋上に残された京子が誰かに電話をかける。
「も、もしもし……。うん、私だけど…………」
「————」
「うん。話通り……北川くんを誘ったよ……。でも、本当にそれを言うつもりなの? もし……」
「————」
「えっ? 私? わ、私は………」
「————」
相手の話に、京子は悩んでいた。
「————」
「うん。もし、そうなるんだとしても……私は後悔しない」
「————」
「私もちゃんと分かってるから、その話はもういい……」
そして電話を切る京子。
「…………」
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