24 サイコロ

「どうだった? 井原」

「…………」

「どうやら上手くいかなかったみたいだね」

「うん……。ごめんね。そんなに応援してくれたのに……」

「気にしないで、人の心は難しいものだから」

「うん……」


 夜の六時半。俺はあいちゃんにラ○ンを送った後、すぐ井原と電話をした。

 泣いている女の子を放置するなんて、りおも悪い男になったな……。それもそうだけど、井原も割と可愛いのに、それだけじゃダメだったのか……? 可愛くて、優しくて、小さくて、それでも胸が大きい女の子。それがりおのタイプだったと思っていたのに……俺のミスだ。


 てっきり結ばれると思ってたのに、惜しいな。


「ねえ、西崎くん」

「うん? どうした? 井原」

「私……やっぱり北川くんのこと諦めた方がいいかもしれない。北川くんには……好きな人がいるらしい」

「好きな人か……。名前は知ってる?」


 りおの好きな人……?


「ううん……。知らない。でも、女の子の勘っていうか……そんな雰囲気だったよ」

「そっか……。りおの好きな食べ物とか、趣味とか、いろいろ教えてあげたけど、結局……あっちがダメだったかぁ〜」

「ごめんね」

「井原は謝らなくてもいいよ。俺のせいだから」

「ううん……。じゃあ、私帰るから。またね」


 震えている井原の声、今はほっておいた方がいいかもしれない。


 あいちゃんは今頃何をしてるんだろう。

 返事も全然来ないし、電話をかけても出ない。そして今はコールの音も鳴らずにアナウンスが流れている。電池切れかな? あるいは———。


「分かんないな……。りおも今頃夕飯を食べてるはずだから……、一体どこで何をしてるんだよ。あいちゃん」


 俺はずっとこのわけ分からない距離感が怖かった。

 あいちゃんが今何を考えているのか、俺にはよく分からない。だからこそ、俺は彼女に執着してしまう。どこに行くのか、何をするのか、どこを見てるのか、そのすべてを俺は知りたくなる。そうしないといつか俺を離れてしまうから、そうなる前に阻止する必要があった。


 俺は誰にも負けない、手に入れた物は誰にも奪われない。

 でも、この距離感はおかしい。

 まるで———。


「いや、気のせいだろう。りおもあの時のこと、気にしないように見えるし……」


 それは気にしなくてもいいこと……。

 うん。


 椅子に座ってモニターを見つめる直人は、りおのオンライン状態を再び確認する。

 そしてあいにラ〇ンを送った。


「…………」


 しかし、りおはどうして井原と付き合わないんだろう……。


 ……


 俺はずっとりおの友達だったから、遠いところに行ってもあいつが寂しくならないようにずっと連絡をして、ゲームをしたり、雑談をしたり、そんな時間を過ごしていた。みんなここにいるのに、りおだけが都会に住んでいたから……。


 まさか、あいちゃんと一緒に都会に行くなんて、それは想像すらできなかった。

 絶対ここを離れないと思っていたから……。

 しかも、そこはりおが通っている高校で、俺たちはまたこの三人で思い出を作ることになる。それを偶然……って言えばいいのか? 最初は心配ばっかりだったけど、あいちゃんと一緒にいられるならどこでも構わない。俺を離れないなら、どうでもいい。それだけだった。


 だと、思っていたのに———。


 あいちゃんは俺じゃなくて、りおと同じクラスになってしまった。

 どうしてそうなる……? それも偶然……? 違う。何かある……。それでも、落胆する暇はなかった。別のクラスになっても、あいちゃんはそこにいてくれるだけでいい。それは自分に何度も繰り返していた言葉だった。


 まだ、俺にはやりたいことがたくさん残っている。


「よろしく! みんな!」


 そして、俺は井原と出会った。

 初めて見た井原は可愛くて優しそうな女の子だったから、それがチャンスだと思っていた。俺の、この不安をどうにかしてくれる人だと。


 人と仲良くなるのはそんなに難しくない。

 俺は誰とも仲良くなるほど、社交性のいい人だったから井原と仲良くなるのは十分くらいで十分だった。そして俺は井原の話をした。いろんな話があったけど、結局彼女はりおのことが好きだったのを……さりげなく言い出して、俺の勘はいけると思っていた。


 灰色の高校生活を送ってるりおに、俺は友達として彼女を作ってあげたかった。

 それでダブルデートをする。それはどう考えてもいいプランだったからすぐ井原に声をかけた。


「井原ってさ、けっこう可愛いし。りおと付き合ってみない? 俺……りおの友達だからりおに紹介してあげるよ」

「えっ……? 本当なの? わ、私にそんなこと……できるかな?」

「もちろん! 自信持って! 井原は可愛いぞ?」

「そう……かな?」

「もし、何かあったら俺に連絡してくれ。りおのことならなんでも教えてあげるから心配すんな!」

「う、うん!」


 りおの話をしただけなのにすぐ目色が変わるなんて、ラッキー。

 これはお互いにいいチャンスだろ……?


「これ、俺の連絡先」

「うん! あっ、私のもあげないと……待って! ラ〇ン作ったばかりだから」

「ゆっくりでいいよ」

「うん!!」


 家に帰った後、俺はすぐ井原にラ〇ンを送った。

 明日一緒にりおのクラスに行こうと。

 そして井原はそのラ〇ンにすごく喜んでいた。


「…………ふっ」


 何かをする時、先に目標を立ててから動くのが好きだった。


 これは恩返しだぞ、りお。

 俺はお前の友達だから受けた恩を忘れたりしない、ずっとだからな……。りお。

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