22 届かないところにあるもの
午後の六時、私は一人である場所に向かっていた。
そこには私がずっと探していたのがあったから、今日で三回目かな……ベルを押してもあの子は出てこなかった。ちゃんと話をしないと何も解決できないのに、どうやらまだあの子に嫌われてるらしい。どうしたら、あの子が出てくれるのかな……? 心も扉も閉ざされたまま……私にできるのは何もなかった。
そして、スマホには直人くんからのラ〇ンがたくさん来てる。
さっきちゃんと忙しいって返事したのに、どうしてまたラ○ンを送るの? 私にはよく理解できない。直人くんはいい人だけど、私の話を全然聞いてくれなかった。今みたいに、私が何をしようとする時はいつも連絡をする。そのタイミングがすごく不思議だったから、怖い。どうしてそれを知ってるのかな……?
ため息をついたあいはスマホの電源を切ってしまう。
「今日もダメかな……」
それでももうちょっとだけ待ってみることにした。
うちからそんなに遠くないけど、歩いて四十分くらいかかる距離だから今日はこのまま帰りたくなかった。それより電気もつけてないし、やはり家にいないのかな? 私はあの子と仲直りして、あの時の話がしたいのに……。せっかく……ここまで来たのに……。これじゃ仕方がない。
「…………はあ、帰ろう」
確かに、りおくんのマンションがうちより近かったよね。
じゃあ、今日はりおくんと一緒に…………。
「…………」
そして道を歩く時、私はあの子とあったことを思い出してしまう。
それは……多分中学生の頃のこと。
……
「あんたみたいな人が一番嫌いだよ!!」
「えっ?」
「そんな顔をして……、霞沢あい! 大嫌いだよ!」
ある日、廊下を歩いていた私は突然あの子にそう言われた。
すごく怒っていたから「どうして?」って聞きたかったけど、あの子はそう言ってからすぐどっかに行ってしまった。あの時はみんなびっくりしてて私のことを庇ってくれたけど、私はその理由が知りたかった……。
どうして、私にそんなことを言うの?
「ねえ……」
「声かけないで……!」
「ご、ごめん……」
どうして……? 私は何もしてないのに、分からない……。
名前も知らないし、話したこともないし、なのに……いきなり大嫌いって言われてすごく悲しかった。少なくともあの子が大嫌いって言った理由を教えてくれたら、こうならなかったはずなのに……。
それから何度も声をかけてみたけど、「声かけないで」って言われるだけだった。
「ねえ、直人くん。私、あの子に嫌われてるような気がする。いや、確実に嫌われてるけど……」
「ああ……、そうだね。この前にも廊下で大声出したし」
「私、名前も知らない人にそんなことを言われて……ちょっと悲しい……」
私が落ち込んでいる時はいつもりおくんが話を聞いてくれたのに……。今は家のことで引っ越ししてしまって、もうりおくんに頼るのは無理だった。そして引っ越す前まで全然話をしなかったくせに、こういう時はすぐりおくんのことを思い出してしまう。今は連絡すらできない状況なのに———。
だから、私には直人くんしかいなかった。
「そうだな。なんでだろう……? もしかして、俺のせいかもしれない」
「えっ? 直人くんのせい……?」
「そう。俺の口で言うのは恥ずかしいけど、けっこういるから……俺のこと好きっていう女の子たち」
「だから……私嫌われたんだ……」
あの時の私は「直人くんのことが好きだったから嫉妬をした」と思っていた。
誰にも聞けなかったし、みんなあの子を嫌な目で見ていたから……。私もあの子を避けるしかなかった。
そして、数日後……あの子は忽然と姿を消した。
どこに行ったのかは誰も知らない。
まだ聞きたいことがたくさん残ってるのに、時間がそれを解決してくれると思ってたのに、私の考えが甘かった。もっとあの子と話すべきだったのに、どうして私は何も言えなかったのかな……? 心に引っかかるあの時の話は、ずっと私の中に残っていた。
……
「結局、私には分からないから……。そこで、ずっと待っていたのに……」
独り言を言いながら歩いているあい。
その後ろ姿を、誰かが部屋の中でじっと見つめていた。
「あっ、そうだ。りおくんに連絡するのをうっかりぃ……」
でも、今スマホの電源を入れたら……。
ダメだよね。
「…………」
また面倒臭いことが起こるかもしれないから、そのままりおくんの家に向かう。
そしていつものように鍵を使って、りおくんをびっくりさせるつもりだった。
「りおくん〜。寝てるかな……?」
ベッドですやすやと寝ているりおに気づくあい。
「わあ♡♡♡」
本当に寝てる……!! やばっ、可愛すぎる♡
「あれ……?」
なんで、りおくんの首に知らない傷が残ってるのかな……?
しかも、これは人の噛み跡……?
「…………」
じっと見つめるあい。
私がいない間に、誰かといやらしいことでもしたのかな……?
首筋にはキスマークに見えるのもあるし……。
「りおくん……。りおくん…………起きて」
「う、ううん……。ごめん、あい……。俺、もうカレー無理だよ。明日は……肉じゃが食べたい」
「…………えっ、寝言?」
その寝言にくすくすと笑うあい。
彼女はさりげなくりおの頭を撫でてあげた。
「まあ、いっか……」
「…………アツ……」
「私ね……。ずっと言えなかったけど、りおくんのこと大好きだからね……」
そう言ってから、静かに服を脱ぐあいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます