四、破片

20 突然の来客

 天気のいい土曜日なのに、俺は直人とゲームをしている。

 でも、直人のやつ……せっかく都会に引っ越してきたくせに、なんで霞沢と遊ばないんだ? 週末にはいつもどっかに出かけたやつがここに来てからずっとゲームばっかりだった。別に俺は構わないけど、直人らしくないからちょっと不思議だった。


 早起きして、あくびが出る。


「おい、直人」

「うん」

「今日は天気もいいし、ゲームより霞沢とデートした方がいいんじゃね?」

「ああ……、俺もそう思ったけど。今日は用事があるって言われたから」

「あれ……? 前にもそう言ったような気がするけど?」

「そうだよ。あいちゃんに聞きたかったけど、家のことだから聞けなかった……」

「そっか? まあ、仕方ないな」


 家のこと……?

 その言葉が気になって昨日霞沢とのラ〇ンを確認してみたけど、そういう風に言ってないし。むしろ、甘いものが食べたいとか、またうちでパーティーがしたいとか、そういう話だけだった。家のことってなんだろう。そもそも、霞沢に悩みとかそういうのはなさそうに見えたからな……。


 一応、言わないことにした。


「そろそろ落ちるぞ。腹へった」

「ええ……、俺今日約束ねぇんだからもうちょっと!」

「お前……、朝の八時からずっとゲームばっかりだったのを忘れたのか……!」

「えへっ!」

「俺はご飯食べるから、落ちるぞ」

「はいはい」


 全く……、朝の七時から電話して「ゲームしよう!」はひどすぎるだろ……。

 ちゃんとご飯を食べながらゲームした方がいいぞ。直人……。


 そして部屋を出た俺がご飯を作ろうとした時、ベルが鳴いた。


「あれ……?」


 扉の向こうにはなぜか私服姿の井原が立っていた。

 もしかして……俺たち約束でもしたのかな? どうして、井原がここにいるんだろう? その理由が分からなくて、じっと井原の顔を見つめていた。


「こ、こんにちは……」

「……井原?」

「う、うん! 今日はね……。えっと、ごめん! いきなり来ちゃって……」

「えっ? あっ、遊びに来たってわけ?」


 こくりこくりと頷く京子。


「そんなことなら、来る前に連絡くらいしろ……」

「ご、ごめんね」

「いやいや、怒ってないからそんな顔しないで……」

「うん!」


 てか、俺先まで直人とゲームやってたからまだパジャマ姿だけど……井原はオシャレしてるじゃん。もしかして、今日友達とどっかに遊びに行く予定だったり……? いやいや、私服姿の女の子がうちに来るなんて……、それにスカートは絶対デートだろう……。


「今日、可愛いね。井原」

「えっ! そ、そう……? ありがとぉ……」

「それで、どうしてここに? 俺に何か用でもある?」

「ないけど……」


 えっ……? ないのか?

 じゃあ、なんでここに来たんだ……。本当に、遊びに来ただけ?


「座っていい……?」

「うん」


 今からお昼を作る予定だったけど、井原が来てしまった……。

 そして「ぐうぅ」とお腹から恥ずかしい音もする。


「お昼……まだ食べてない?」

「そ、そうだけど……」

「い、一緒に食べよう! 私……お弁当といろいろ買ってきたからね!」

「えっ! なんで?」

「…………それは、一緒に食べたかったからかな……」


 そうやって俺は土曜日のお昼を井原と食べることになった。

 二人で映画を見ながら、お昼を食べるこの展開は一体なんなんだ……? 井原が何を考えているのか、全然分からない。もしかして、あれか……? 体育祭の時に言えなかったその言葉を今日……。確かにまた今度にしようってラ〇ン送ったよな。


 なんか、こっちを睨んでるような……井原ぁ……。


「私、北川くんのも食べたい。一口ちょうだい!」

「そっか……。いいよ」

「ひひっ」

「そういえば、不思議だな」

「うん?」

「ちょうどいいタイミングにお弁当を買ってくるなんて……」

「ひひっ。この前、ここで打ち上げパーティーしたでしょ?」

「そうだけど?」

「あの時、北川くんの冷蔵庫……何も入ってなかったし。普段は料理をしないのかなと思って、来る時に買ってきちゃったよ」

「…………あ、ありがと」


 ど正論……。

 確かに料理はあんまりしないからな……。やる時もあるけど、ゲームばっかりでほとんどインスタント食品だった。


 そして、食後。

 持っていたお箸をおろして、りおの方を見つめるあい。


「…………私、今日北川くんに会いにきたの」

「そっか……? もしかして、この前の話? 体育祭が終わった後……言いたいことがあるって言ったよな?」

「……うん。でも、私……それだけじゃなくて」


 そう言ってから、しばらく何も言わなかった。

 なんだろう……? もしかして、話しづらいことなのか……?

 いつも明るい井原と違って、今日の井原はなんっていうか……すごく悩んでるように見えた。


「あのね……。私、私は……バカだから……。頭がいい人じゃないから上手く言えないけど……。北川くんは私の話にうんって答えてくれるだけでいいよ。そう言ってくれたら、私はあの日のことを忘れてあげる」

「……あの日のこと? なんの話だ? 井原」

「私は……、私は……見たよ。北川くんとあいちゃんが、学校の裏側でキスをしたのを……。見たよ……」

「…………」


 今、なんって……?

 まさか、そこにいたのは井原だったのか? 井原に俺たちがキスをしていたのをバレてしまったのか……。それは否定できないこと、俺はこの状況で何を言えばいいんだ? こっちを見ている井原に、俺が言えるのは何もなかった。


 どうせ、いつかバレることだと思っていたから。

 言い訳など、できない。


「北川くん……?」

「う、うん。井原……」

「私、なかったことにするから! 頭の中にあるその記憶を消してあげるから……、私と付き合って……。好きだよ。北川くん……」

「えっ?」


 涙を流しながら俺に告白をする井原に、頭が真っ白になる。


「…………」

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