18 混乱

 私が見たのは一体なんなの……?

 とんでもないことを見てしまって、頭の中が複雑だった。あいちゃんは西崎くんの彼女で北川くんの幼馴染……、私もそう思っていた。なのに、どうして友達の二人がそこでキスをするの……? 私には分からない。理解できない。その場所から逃げ出して、一人でずっと考えてみたけど……。それでもどうしてそうなっちゃったのか私には理解できなかった。


「…………」


 北川くん……どうしてあいちゃんとそんなことをしたの……?

 今日は北川くんに告白したかったのに……やっぱり無理だった。私は一年生の頃からずっと見てきたのに……、北川くんみたいな人がタイプだったのに……。その状況をどう受け入れればいいのか私にはよく分からないよ……。どうしたらいいの?


 誰か教えて……、私に教えて……。


「あれ? 井原? そこで何してんの?」

「に、西崎くん……。どうして、ここに……?」

「あっ、いや……。なんか……二人三脚の時、井原に悪いこと言っちゃったような気がしてさ。ごめん……」

「えっ……? い、いいよ……」

「俺負けず嫌いだから、つい思ったことを口に出しちゃって……。本当にごめん!」

「ううん。大丈夫。あれ? 西崎くんはあいちゃんと一緒じゃないんだ……?」

「ああ。あいちゃんなら今忘れ物を取りに行ったからさ、もうちょっと時間がかかるかもしれない」

「そっか……。じゃあ、私も北川くんにラ○ン送るからここで待ってみよう!」

「うん。あっ、そうだ。二人の間に何かあった? いいことあったら教えてくれ」

「ま、まだ……だけど」

「え……」


 西崎くんはまだそれについて知らないみたい。

 とはいえ、それを私の口で言うのもあれだし……言えなかった。

 二人があんなことをした理由は分からないけど……、そのままじゃ今の関係が壊れてしまうから心配していた。みんな大切な友達だから……。それに西崎くんは落ち込んでいた私にいろいろ教えてくれたし。西崎くんがいなかったら……私の片想いもそのまま終わったかもしれない。


 下駄箱で、西崎くんの背中を見つめていた。


「…………」

「遅いなぁ〜」


 ……


 私が高校一年生だった頃、北川くんがここに転校してきた。

 第一印象は冷たい人、それでも私の目にはカッコいい人だった。実際、どんな性格だったのかは分からなかったけど、初日は女の子の間で「北川くんってカッコよくない?」とか、そういう話があったのを覚えている。


「ねえ! 北川くん、一緒に写真撮らない?」

「いや……、俺はいい」

「ええ……」


 みんなSNSが大好きで、あの頃は彼氏と写真を撮るのが流行っていた。

 そして彼氏がいない女の子たちはカッコいいクラスの男子と写真を撮って、それをSNSにアップロードする。北川くんが転校してきた時もそうだった。みんな北川くんと写真を撮りたくて声をかけてみたけど、彼は全部断ってからすぐ机に突っ伏した。


 あんなことに興味ないらしい。


「ねえ、北川くん……」

「うん……」


 なんか、話したくないってオーラが感じられたっていうか。

 北川くんはずっとそうやって一人ぼっちだったのを覚えている。普通なら転校してきてすぐ友達を作ったりするはずなのに、北川くんだけは何もせず、そのまま一人の時間を過ごしていた。


 不思議。


「ねえ、北川くん! さっき先生が二人一組でこれを提出しないといけないって言ったけど……一緒にやらない?」

「そう……? じゃあ、やる」

「うん!」


 知りたかった、君のことを。

 どうしてそんな顔をしているのか。

 そして北川くんと話してみた結果、何もなかった。北川くんは私に何も話してくれなかった。心の扉が閉ざされたまま、彼は「うん」を繰り返すだけ……。本当に、それだけだった。


 どこからきたの? そこはどうだったの? いろいろ話してみたかったのに、できなかった。何も言ってくれないし……、なんか嫌われているような気がして、私は北川くんのことを諦めてしまった。そして二年生になった時は別のクラスになって、もう声をかけるチャンスもなくなった。


 ……


 そして西崎くんが転校してきた。


「よろしく……」

「よろしく! 俺けっこう遠いところから来たぞ! 地名言っても都会の人は知らないかも? 日本は広いからな!」

「え……、そうなの?」

「そして隣のクラスに友達もいるし! 学校生活楽しみだな!」

「そうなんだ! 誰?」

「うん。北川りおって知ってる? あいつは同じ中学校の友達で、先に転校してきたからさ」

「えっ! 北川くんの友達なの?」


 隣席の彼はテンションが高くて社交性がいい人だった。

 それに私がびっくりしたのは西崎くんの友達があの北川くんだったこと。

 それはとんでもない偶然だった。


「ええ! りおのこと知ってんのか?」

「一年生の時に同じクラスだったよ?」

「そっか! よかった〜! じゃあ、休み時間になったら一緒に行こうか? 俺たち友達だよな? な、名前まだ聞いてないけど……」

「あははっ。井原、井原京子だよ」

「西崎直人、よろしく! 井原!」


 そして、夢を見た。

 北川くんの友達が私の隣席だったから、もう一度……声をかけるのができる。それがすっごく嬉しくて、すぐ西崎くんと友達になってしまった。そして西崎くんは北川くんとあった面白い話とか、恋バナとか、たまには恋愛相談にも乗ってくれて、けっこう楽しかったと思う。いまだに覚えているのは自信のない私が問題だったのを指摘してくれた西崎くんに、私が納得してしまったこと。


 西崎くんは頭が良くてすごい人だった。


「それで、井原はりおのことどう思う?」

「わ、私……? 私は……カッコいい人だと思うけど……」

「そっか! 井原は可愛いから俺はいけると思うよ」

「そ、そうなの? わ、私と北川くんが……?」

「そう。見る目があるからな。俺は!」


 その一言に、私は勇気を得た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る