14 体育祭②

「どー!」

「どうって言われても、ただのジャージーだろ?」

「…………むっ」


 そして体育祭の当日、人がこんなに多かったのかと思うほどたくさんの人たちが運動場に集まっていた。それに霞沢を含めて「今年は絶対勝つぞー!」って大声で叫ぶクラスメイトたち、なんか俺だけが浮いてるような気がする。


「おう!」

「おう———!」


 霞沢もテンション高いな……。


「ワクワク! こんな体育祭初めてだよ〜」

「そっか。まあ、体育祭は人が多い方が楽しいから」

「うん!」


 そんな二人をじっと見つめている京子。

 そこには二年生の椅子がずらっと並んでいて、りおとあいの隣にすぐ直人と京子のクラスがあった。


「えっと、今やってるのは何?」

「障害物競走か……」

「へえ。それ、小学生の頃によくやってたよね? 懐かしい〜。私ね、一位を取ったあの時のりおくんをまだ覚えてるよ? 本当にカッコよかった!」

「なぁ……、霞沢。みんないるから下の名前で呼ぶのは……やめてくれない?」

「ふーん。分かった……」

「素直だな」

「ふふっ」


 一応俺たちの出番はまだだから、じっとしてみんなが頑張ってる姿を見ていた。

 すると、向こうから走ってくる委員長が俺の名前を呼ぶ。


「ねえ! 北川くん! はあ……。うわ〜。遠い〜!」

「どうした? 委員長?」

「実はね? 障害物競走に出るはずだった松下くんが先足を挫いちゃって……」

「えっ? 大丈夫?」

「うん。歩けるけど、走るのは無理だって。だから、北川くんが松下くんの代わりに障害物競走に出て欲しい!」

「えっ?」

「いいじゃん! 北川くん! カッコいいとこ見せてよ!」


 別に構わないけど、霞沢……今日テンション高すぎじゃね?


「分かったよ……。じゃあ、委員長どこ行けばいい?」

「うん! 行こう!」


 スタートラインに立つのは二年ぶりか……? 俺が覚えている最後の体育祭は中学二年生の頃だった。なんか懐かしいな。それになぜかカッコいいところを見せてって霞沢に一言言われたけど、直人も障害物競走に出るのか……? こうなったら一位を取るのは無理だな。こいつマジで速いから……。


「よっ、りお。勝負だな」

「直人……」

「お前、今年はリレーに出ないのか?」

「いや……。やろうとしたけど、終わっちゃってさ」

「そっか……。一応、俺たちは敵だから全力で走るぞ?」

「はいはい」

「負けないから」

「………はいはい」


 ホイッスルの音とともに走り出す人たち、俺もその中にいた。


「なあ! りお」

「はあ?」

「勝てないゲームはリタイアした方がいいぞ! 俺は絶対負けねぇからな!」

「はあ?!」

「あはははっ」


 どんどん差が……、やっぱり直人はそのままか。

 二位で走ってるけど、この差が縮まらない。


「お前はいつも俺の前を走るんだ……」


 ……


「西崎くん、速いですね? 霞沢さん」


 静かにりおの方を見ていたあいに、京子が声をかける。


「……確かに井原さんでしたね? 直人くんと同じクラスの」

「同級生だし、ため口でいいかな? あいちゃん」

「そうしよう。私も堅苦しいのは嫌だからね」

「うん!」


 自分より背が高くて、綺麗な人。

 京子はそう思いながら勇気を出して話を続けた。


「あのね! あ、あいちゃんは西崎くんとどれくらい付き合ったの?」

「一年半くらいかな……? 大体それくらい、どうしたの? 気になる?」

「わ、私……。あいちゃんに聞きたいことがあるけど!」

「うん。何? 遠慮しなくてもいいよ」

「あいちゃんは付き合う前に、その……西崎くんに告られたの?」


 拳をぐっと握った京子があいと目を合わせる。

 知りたいのもたくさんあって、溜まっていた話もたくさんあったけど、それを全部言うのは恥ずかしいから、それ以上は言えない京子だった。


「うん。先に告白したのは直人くんの方だけど、それが気になるの?」

「やっぱり、告白とか……そういうのは男子の方から言うのが普通だよね……?」

「ふーん。もしかして、好きな人とか……いるの?」

「えっ? ど、どうして分かるの?」

「あはははっ、顔にすぐ出るから。好きな人か〜、それもいいね」

「でも、片想いだから私にもよく分からない。だから、美人のあいちゃんにそれを聞きたかったよ。どうしたら、相手が私に告白してくれるのかを……」

「ええ……。そんなこと言われても……、私恋愛相談下手だからね」

「だ、だよね……?」

「でも……」


 真っ赤になった顔であいを見つめる京子。


「——————」

「走れ! 北川! もうちょっとだ!」

「えっ?」

「負けるな! 直人! そのまま行けぇ———!」


 急に盛り上がる周りの応援に、あいの声が全然聞き取れない京子だった。


「えっ……、えっと」


 ……


 一生懸命に走ったのに、それでもあいつに勝てないのかよ。

 やはり、直人には敵わないんだ……。悔しいけど、これが現実だった。

 それにこうやって走るのも久しぶりだし、なんか気持ちよかったっていうか……。ずっと部屋に引きこもって直人とゲームばっかりだったから、たまにはこういうのも悪くないなと思ってしまう。直人がいて一位はダメだったけど、いい思い出になりそうだ。


 仕方がない。こうなったら男女二人三脚でもっと頑張ってみよう。


「あああああ! 勝ったぞ!」

「おめでと、直人」

「ふふっ。まだまだだな。りお」

「はいはい」

「ああ〜。俺のカッコいい姿をあいちゃんは見てくれたかな?」

「席に戻って自慢してみたら?」

「だな? よっしゃー! 行こう!」


 子供でもあるまいし……。直人、喜びすぎ。

 とはいえ、一度だけでもいいから俺も一位を取りたかった……。まあ、いっか。

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