10 彼女
新しい友達ができたのはいいことだと思う。
一応いいことだと思うけどさ……、どうしてこうなるんだろう……?
「北川くん———!」
後ろから抱きつく井原に俺は何もできず、体が固まってしまった。
すると、周りの視線がここに集まる。
「い、井原……? くっつきすぎだ!」
「ええ……、私たち友達でしょ? ふふっ」
その一言に、俺は友達の定義について考える。
やはり、井原の距離感はおかしい。おかしすぎる……!
「全く……くっつくのは良くないから、離れてくれない?」
「嫌です。会いにきたよぉ〜。北川くん」
後ろからいきなり抱きつくなんて、彼女でもあるまいし……。
みんながいるところでこんなことをするのはやめてほしいけど……、彼女は俺の話を全然聞いてくれなかった。この雰囲気をどうすれば……? それに心配してる俺と違って、井原は明るい顔で笑っている。これはいつ爆発するのか分からない不発弾みたいだ。とても危険で、井原に注意する必要がある。
「…………」
向こうの席で二人の姿を見つめるあい。
「ねえねえ、北川くん! お昼一緒に食べようよ! 私、今日お弁当作ってきたからね! どー!」
「お昼か……。井原は友達と食べないのか?」
「私? ええ……、いいよ! 今日は一緒に食べたい気分だから!」
なんだよ。そのドヤ顔。
「おお……! 二人とも仲良くなったのかよぉ〜」
「直人……。お前……」
「え〜。そんな目で見ないでよ〜」
「はあ……」
「せっかくだし、四人でお昼食べよう。どー? あいちゃん」
「う、うん? ごめん。ぼーっとしてたよ……」
「今日ここにいる四人でお昼! どー?」
ちらっと、京子の方を見るあい。
「あ……。うん! そうしよう」
……
「あはははっ」
みんなでお昼を食べるのはいいことだけど、先からずっと何も言わない霞沢が気になってしまう。今日はどうしたんだろう。いつもより口数が減ってしまったような気がするけど……、気のせいかな。
そして直人だけ、テンションが高すぎる……。
「…………」
食べ終わったら声をかけてみようか。
そう思いながらサンドイッチを食べていた俺は二秒間……、霞沢と目が合ってしまう。
「……っ」
「ねえ! 北川くん!」
「えっ? あ、うん。どうした……、井原」
「あーん!」
「えっ?」
「なんだよ! 二人……! ここでイチャイチャするのかよぉ〜。いいな〜」
「い、いや……。それは……! えっ?」
自分が作ったおかずを食べさせようとする井原と隣でからかう直人、霞沢は静かにお弁当を食べていた……。
なんか、おかしいと思ってるのは俺だけかな……。本当に。
「あーん……」
「ふふっ。美味しい?」
「う、うん……。美味しい」
「私も! 北川くんのサンドイッチ食べたいけど……いい?」
「うん。いいよ」
「いただきまーす!」
そう言った井原は、俺が持っていた食べかけのサンドイッチを一口食べる。
お弁当にまだあるけど、どうして食べたところをさりげなく食べるのか俺にはよく分からないことだった。
「ううん〜。美味しい!」
「ええ———! それ間接キスじゃん! 井原……、やるな〜」
「サンドイッチの味が気になっちゃってね。ふふっ」
「あいちゃん! 今日、ここで新しいカップルが生まれるぞ!」
「う、うん……」
「念願のダブルデートだぞ———!」
「うるさい! 大袈裟だ、直人……。お前は黙ってお弁当食べろ……」
「ええ〜」
この雰囲気……中学生の頃と一緒だな。
しかし、直人のやつテンション高すぎて俺の方が疲れてしまう。明るいのはいいことだけど、こいつリミットがないっていうか。いつもイキイキしてるからある意味で怖い。そしてこれは気のせいかもしれないけど、俺には井原より直人の方がもっとそれを欲しがっているように見えた。
直人は人の恋愛に気にしすぎ———。
「あーん。北川くん!」
「も、もういいよ……。子供じゃあるまいし」
「…………」
あ。いいって言っただけなのに、すぐ落ち込む井原だった。
今の井原を見ると、まるで幼い頃の霞沢を見てるような気がする。その顔は「一緒に遊ぼう! りおくん!」って言った霞沢を、俺が断った時の顔だった……。ただ疲れていてまた今度にしようって言っただけなのに……、霞沢はすぐ落ち込んで俺と話そうとしなかった。俺じゃなくても友達は多かったはずなのに、よく分からない。
その顔はあの頃の霞沢とそっくりだった。
「分かった。分かった……。そんな顔しないで、井原」
「北川くんに嫌われてるのかなと思って……」
「何も言ってないから……」
「うん! じゃあ、あーん!」
俺はここで何をしてるんだろう。
「お似合いだね。二人!! いいな!」
「うるさい。直人」
「ひど〜い。あはははっ」
……
そして今日も一日が終わり、家に帰ってきた俺はぼーっとして映画を見ていた。
「…………」
テンションが高いのは直人だけで十分なのに、井原も今日めっちゃ高かったよな。
しかも、女子にあーんとかされるなんて……これが直人が言った薔薇色の高校生活かな。可愛い女の子と幸せな時間を過ごすこと。悪いとは言わないけど、なんだろうこの足りないって感覚は……。
静かな部屋でスマホの着信音が響く。
「うん……? 直人?」
ゲームの連絡か……?
「よっ、りお。どうだった?」
「何が?」
「井原、可愛かったよな? お前らさっさと付き合っちゃえよ〜!」
「いいから、お前……。俺のことより霞沢からどうにかしてくれ……、今日絶対何かあったと思うけど?」
「…………」
「直人?」
しばらく静寂が流れた。
「あっ、ごめんごめん。うん! あいちゃんのことなら、今日一緒にショッピングをして家まで送ってあげたから心配すんなよ」
「そっか……」
「だから、お前も早く彼女作ってくれ。俺さ、お前らと一緒にダブルデートしたいから!」
「はいはい……。まあ、いつかできるんだろう」
「今日は……まあ、いっか」
「なんだ」
「ゲームのことさ、今日はいい。お前、最近エイム悪いし。あははっ」
「…………そこは否定できねぇな」
「また今度にしよう。じゃな」
「うん」
彼女か……俺もそろそろ真面目に考えてみようか。
一緒にデートとか、イチャイチャとか、そういうこと……。
「…………」
でも、俺はどうして霞沢のことを思い出してしまうんだろう。
どうして……? 分からない。
「ああ……変な妄想ばかりで、俺もダメだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます