6 俺の立場

「りお、おい〜。りお!」

「あっ! うん。どうした? 直人……」

「みんな待ってるぞ。準備できたのか?」

「あ……、うん。行こう……」


 それから一週が経った。

 俺は屋上で霞沢の手を握ったことも直人には言わず、今……いつもと同じようにボイスチャットをしながらゲームをしている。やらかしたことをなかったことにするのは無理だ。それよりどうすれば霞沢があんなことをしないのか……、俺はそればっかり考えていた。やはり俺も彼女とか作った方がいいかもしれない。


 このままじゃ大変なことが起こりそうだ……。


「りお! 後ろ……! りお! りお!」

「どうすれば…………えっ?」


 ぼーっとしていた俺は相手のDPSにやられてしまう。

 これで三回目か、また負けてしまった。


「りお……! 何してんだよ! チャンスだったのに……」

「ご、ごめん……。今日はなんか集中できないっていうか……、この辺で……ごめん」

「お、おい! ちょ、ちょっと待って!」


 俺……全然ダメだな。

 今日も霞沢のせいで全然集中できなかった。否定できないほど、俺は霞沢のことを気にしている。どうしたらいいのか分からない……。霞沢の…その顔や言い方がずっと頭の中に残っていて、なぜかあの時のことばかり思い出してしまう。


 今まで全然大丈夫だったはずなのに……。


「はあ……」


 そして直人から電話がかけられた。


「どうしたんだ……? りお。最近、よくぼーっとするけど……何かあった?」

「いや、なんでもない。疲れたっていうか……」

「そっか? 無理すんなよ」

「ところで、お前は霞沢とデートとかしないのか? ずっとゲームばかりじゃん」

「まあ……。一応ゲームをする前に電話してみたけど、また今度にしようって言われたから……」

「そっか……」

「こんな話はやめて話題を変えよう! りおはどうだ? 好きな人とかいないのか? 都会に可愛い女の子たくさんいるだろ」

「…………好きな人か、ないな。そもそも女子とあんまり話さない人だから……俺」

「そっか。俺さ、クラスの中で一番スタイルのいい女の子と仲良くなったけど……。まだ彼氏ないって!」

「えっ? そっか。でも、まだ……彼女とか……」


 霞沢のせいで彼女を作りたかったのは事実だけど、あんな風に付き合うのは良くないって俺も知っていた。それにしても転校してきたばかりなのに、スタイルのいい女子と仲良くなるなんて……やはりモテる人はすぐ他人と仲良くなれるのか……。すごいな。


 ずっと直人のそういうところが羨ましかった。


「いいじゃん。りおもさ、割とカッコいいから」

「え……、いいよ。彼女なんか……」

「絶対後悔するぞ? 一応、話してみたら? 来週」

「いや……、俺はまだ……!」

「はい! じゃあ、来週そっちに連れて行くから! よろしくぅ〜」

「お、おい! なおっ———」


 あ、向こうから電話を切ったのか。

 こいつ……いきなりどうしたんだ……?


「それにしても、彼女……か……」


 ピカッ!


「うおっ……。雷……? 雷かぁ……、びっくりした」


 そういえば天気予報で今週雨降るって言ってたよな……。

 梅雨の時期か———。


 ぼーっとして雨を眺めていた俺は霞沢の電話に気づく。

 どうして……? こんな時間に?


「霞沢……?」

「り、りおくん……」


 その呼び方にビクッとする。


「えっと……、どうした? 霞沢」

「て、て、てて……停電だよ!!! どうしよう。何もできないし、真っ暗で何も見えないし……。お母さんまだ仕事中だから連絡もできないよ……。どうしよう……。どうしよう……、こ、怖いよ。りおくん……こっちきて! 早く……こっちきてよ」


 雷のせいか、霞沢の声が震えていた。

 いや……、霞沢ももう高校生なのにまだ雷に慣れてないのかよ……。


「ちょ、ちょっと……落ち着いて。それより……、霞沢の住所俺知らないから……」

「早くきて! 早く! 早く、早くぅ!!」


 だんだん声を上げる霞沢、そんなに怖いのか……? ただの雷だろ?


「え、えっ? 今? すぐ?」

「当たり前でしょ? 今すぐだよ———!!」


 一応霞沢から住所をもらって、電話をしながら外を走ってるけど……。

 俺は一つ、大事なことをうっかりしていた。

 今日は……台風が来る日だったことを……。


「うわ……、風マジかよ……」

「うん? よく聞こえないけど……。ねえ、りおくん! 今どこ?」

「いやいやいや……、すぐそっちに行くから……一応電話……き、切る……っ!」

「りおくん? りおくん?」


 霞沢の家はうちから走って十五分くらいだからそんなに遠くなかったけど、問題は風が強すぎて走るのが大変だったこと。


「わぁ……。なんで、俺なんだよぉ———! こんな時はすぐ直人呼べばいいだろぉ———!」


 くっそ、風強すぎぃ!!!


 そして霞沢の家———。


 ぼとぼと……。

 ぼとぼと……。


「はあ……、はあ……」

「り、りおくん……。大丈夫?」

「まあ、一応生きてる……」


 びしょ濡れになった俺はすぐスイッチを確認してみたけど、どうやら電気が復旧するまで待つしかないみたいだ。ここにくる時もこの辺りが全部停電になってるのを俺の目で見たから……。一応、このバカを落ち着かせるしかないな……。


 それより、どうして直人じゃなくて俺なんだ?

 普通は逆だろ?


「それ……ど、どうにかできないの? 先からずっと真っ暗で本当にヤーだ……」


 震えている声で、俺の腕を掴む霞沢。


「まあ、しばらく待ってみたら復旧するはず……。心配すんなよ」

「うん……。それよりりおくんの体びしょびしょ……」

「誰のせいだと思う……?」

「わ、私は知らない……! あ、あのね……りおくん。今日は……一緒にいてくれるよね……? 私……怖いから一人にさせないで……」

「分かった。分かった……」

「じゃあ、私タオル持ってくるから……居間で待ってて!」

「はいはい……」


 結局、こうなってしまったのか……。

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